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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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十九話 覚醒

いつも読んで下さりありがとうございます♪


十九話になります。


バックスとマニのアリーナチャンプ決勝です!

 決勝が始まるまでの少しの休憩の間、この闘技場の中継画面は、冒険者を客層に捉えた、大店の商品宣伝や大会のハイライト、そう名場面が即座に編集された映像が流れる。


 俺はそんな最中、ピッポのお勧め売店の隠れた商品、通称〝アリーナ・アイランド〟と呼ばれる料理に舌鼓を打っていた。


 素揚げされた鶏の肉は衣がサクサクとして噛み応え抜群で、仄かに感じさせる芳醇な香りは食欲を唆り、魚の刺身は炙られた肝と生の2種類あり、胡麻油と山葵と紫蘇の風味が協奏するかの如く癖になる。

 その傍に大量に盛られた茹で崩れたポテトの塊はなんとも円やかで薬味も隠し味としてしっかりと存在感を示す。

 

 こんな食べ物があったのかと大いに、はしゃいだ。


 実に、口当たりが良い組み合わせだ。


 つい、淡い弾ける飲み物が欲しくなってしまうが、そこは流石に色々な人からお咎めがあったが、その状況の中、放映されている宣伝の中に、バックスに提供した職人の製品が短いながらも映った時の事。


 場内の売店通りからは、その職人の名が木霊した。


 間違いなく、グロリアの計らいだな。


 近頃、彼女もダスコダの悪巧みに一枚噛んでくる様になった。


 ギルドとしても、最近クラフターの商工業部門の売り上げが軒並み顕著に上がっているらしく、それに共鳴するかの如く探索部門の採取、討伐依頼の消化も伸びているという。


 なんだかんだ言っておきながら、である。


 と、噂をすれば和かな彼女の姿がこちらに近づいてきた。


 傍にはダスコダ含めシエラや数人付き添っている。


 俺は彼女達も交えて、卓に誘って、共に食する。


 〝アリーナ・アイランド〟は半端なく量が多く、とてもピッポと二人だけでは食べ切れない由だ。


 その隠しメニューはダスコダ達経営陣の誰も知らなかった様子で驚いているが、何か閃いたらしく、側近達は呆れ顔になっていてグロリアも同じ顔をするかと思えば、珍しくダスコダばりに共鳴している。


 ここに、悪巧み二大巨塔が産声をあげた。


 ダスコダは店主に何か頻りに詰めており、グロリアは俺に協力を申しつけてきた。


 その内容に俺も魔具師、鍛冶師とするクラフト屋の血を沸かせる事となる。


 全く、知恵のある者と居ると、飽きないな。


 俺はグロリアと話を後で詰めようと約束して、ピッポと放送席に戻った。


 勿論、アリーナ・アイランドの一部も忘れずに持ちこんで。


 待ち望んだ、決勝戦。


 マニとバックスの一戦は、最早、都市内の全人口観ているのでは無いかと思わせる視聴数である。


 その事実に、長年実況者でいるピッポも過去類を見ないと言わしめた。


 今日、午前のパーティ戦で初の試みであったオン・ボーダーと呼ばれるルールが適用された。

 

 オン・ボーダー数の都合上、個人戦は決勝のみ適用とされ、二名の戦士と審判を含めた三名に装着されたチョーカー型の映像魔石の視点も加えられ、この闘技場の新名物として銘をうたれた取り組みである。


 その映像からは戦士の息遣いや会話などが事細かく録画されるのだが、闘う内に観られている感覚を忘れてしまう者も多く、冒険者らしさ溢れる素性が明るみに晒されるのだが、そう言う面も既に好感触を獲得している。


 観る者にとってはその臨場感がたまらなく新鮮なのだな。


 早速、選手入場場面に切り替わると、舞台上で両者が相見え、その声を早速拾い、巨大映像魔石に両者の姿が投影された。

 

 「テメェ、憶えてるぞ。バンベルクの時の勇者だろ?よく、帰ってきたじゃねーか。」


 マニが早速噛みついた。


 相変わらず短気というか、節操ないと言うか、もっとデリカシー持って接せれないのかね。


 「そりゃ、光栄だね英雄さん。俺はあの日、アンタを見て救われたさ。感謝してるぜ。」


 どアップでドヤ顔キメるバックスもバックスだが、何故だろう… …妙に恰好良い。


 「あーーーっと、両雄早速、火花バチバチだぁーーー!!」


 良い間でピッポも叫ぶと、その映像に絆された全ての反応は一気に高まりを見せた。


 「一つ、確認するが… …テメェ、ゼノの弟子って本当か?」


 鬼気迫るマニの表情からは誰が見ても判る気配が立ち込めている。


 バックスは正直に答えたが、その瞬間、マニの眉間にくっきりとした皺が波打ったと思った矢先、視線が逸れた。


 「そうか… …ゼノッ!俺が此奴に勝ったら俺にも特訓つけろよな!不公平だろ!」


 映像を見る限りバックスは唖然としていて、ピッポも前例がない状況に恐る恐る添え口をした。


 静まりかえるその場に応答を促された俺に映像は切り替わり、ピッポからマイクを渡され、俺は戸惑いながらも答えた。


 「バックスに勝ってから言いなさい。我儘駄目です。バックス、マニはどうやら君を舐めてるみたいだから… …ボッコボコにしておやり!」


 その発言直後一瞬にして、全ての反応は最高潮に達する。


 そりゃ、そうだ。


 誰も予期しなかった、ある種の場外乱闘に近いやり取りはかつて無いくらいの興行性を示したのだ。


 ダスコダの顔も引きつきを起こしているかの様に見える。


 ピッポは更にその場を盛り上げる。


 そして、切り替わった映像のバックスのマニを見つめる視線はなんとも粋を感じて止まず、また、マニもバックスに視線を向けると剥き出しの闘争心を露わにし、叫んだ。


 「おい【駿格】(グリゴーラ)!ゼノは俺のモンだ!返してもらうぜ!」


 誰が、いつお前の物になったんだ!?


 というか、俺はお前のなんなんだ!?


 という、思いが滝のように溢れ出たが、ピッポもそれを拾ってしまい、事態は大荒れ、一大スキャンダルの様な扱いが跋扈する。


 その誤解と言うにも甚だしすぎる虚構に俺は頭痛がした。


 抱いても無いし、育てても無いどころか未だ指一本触れた事もないにも、だ。


 その弁明は試合後、本人にさせると言ってその場を収めた。


 そして、いよいよ決勝の火蓋は切って落とされる。


 開始早々に、身体強化のスキルが双方に掛かるが、そこは歴戦の差が出たのだろう。


 マニの動きのキレが良い。

 

 バックスの表情もいつに無く固い。

 

 が、流石体術士を基礎とする頂上決戦。


 反応速度が速い。


 不意打ちとは言わないが、審判の合図を見事に見計らったかの様な間合いでマニの初手は虚を突いたはずだが、バックスはそれに対応する。


 そこからは、激昂のマニの一心の迷いもない流れる様な連打の組み合わせにバックスも余裕無くされど、すんでの間で見事に受け流したり、躱している。


 マニはやはり、精霊種である。


 その魔力量は人族とは比肩して明らか。


 その無数とも言える攻撃は俺と対峙した時より、幾分鋭く、俺も思わず、手を握ってしまうほど、鮮やかで、疾く、美しい。


 一言でいえば、魅了された。


 乗っけから攻勢一方のマニの息切れを狙っているのかバックスはひたすら防御に回る。


 巨大映像魔石には二人の息づかいや小言が投影されているが、マニは攻め手を止めずに知らしめる様に啖呵を切った。


 「星8留まりが調子乗ってんじゃねーぞ!」


 明らかにマニの動きはバックスを半殺しに来ている。


 その圧倒的なマニの姿を観る全ての者は今まで彼女が手を抜いてきたと認知させ、そして、その鮮やかで強く、美麗な獰猛さは俺も含め魅了され、遅延映像のコマ割りは圧巻のシーンの連発を再生するが、追いついて来ない。


 一方的な技の応酬と気迫模様についてピッポは直様、解説を求め、俺はここ数日のマニのフラストレーション、そう、ストレスや不平不満といった類の気持ちが糧になっていると冷静に解説を入れた。


 わかる。


 これは、一定の〝強さ〟を有する者にしか許されない褒美なのだ。


 真なる強者にだけ許された刹那。


 身震いが止まらない。


 何故、先日の一戦、これが出なかったのか不思議で仕方ない。


 マニを舐めていたのだ。


 精霊の力も惜しみなく使っている。


 これは、この変わり様は、知っている。


 『覚醒』だ。


 僅か数日、片手で充分数えられる日数。


 ここにも、居たのかと思いながら、バックスの顔を見て更に血の気が引いた。


 ―瞳が、視線が、眼光が、鋭さを増していく。


 何もかも見切ろうとしている。


 それは、まさに高みへ登る戦士が前兆に魅せるそれだ。


 「ヤバいなこれ… …トパーの試合じゃ無い。(星11)トリプのレベルだよ。」


 その声を拾ったピッポの眼は激しく揺れていたのを直視せずとも感じ取れたし、場内の反応や放映映像からもその圧巻は読み取れた。


 そして、気付けば気配察知のスキルを使っていた俺は思わぬ形で知る事となった。


 ダスコダという男の真性を。

ここまで読んでいただきありがとうございます♪


後話、絶賛思案中につきお時間頂きます!

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