十話 喰えぬ男
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―財を惜しまずしっかりと投資してきた様な恰幅は一見、締まりの無い風貌で横柄な態度の陰にどこか怜悧さを感じさせるなんとも不気味な雰囲気の男の名はファスト王国侯爵が一つ、ダスコダ・サー・アマセその人である。
数ある侯爵家の一つであるアマセ家はこのジャノスの領地運営を任される新進気鋭の貴族。
ダスコダは国内で他の貴族家の当主達と比肩しても真のやり手といわしめるほど評判だ。
卓越した処世術と商人上がりの実力で王国社交界に寵児として突如現れたダスコダという男は謎に包まれている。
培われた人脈、蓄えられた財力、護衛隊の武力は地上民にとって厄介極まりない大迷宮の管理・保全を受け持つに値する一方、一部の王侯貴族からは不気味すぎる経歴や謎が多過ぎるため侯爵として認めない者も当初はいたが、天性の人たらしめたる彼にとっては現在ではなんの弊害もない。
アマセ家のジャノスでの裁量権には王族すら黙認している事が多いという。
俗に言う腐敗貴族そのものだ。
類は友を呼ぶという言葉がある様にジャノスはそんな連中の格好の溜まり場であり、ビジネスの場でもあり、ダスコダはそれを牛耳る。
中でもそんな連中の文化である裏金作りや闇稼業は昼夜問わず密盛を極め、それが表立つ事が無い様ダスコダは手駒を巧みに使い裏社会の信用を築きあげる一方、都市発展や民の生活の質向上に多大に貢献して表社会でも人望を集める。
無論、迷宮都市の民はこの腐敗貴族の思うがままにされている事には気付いてない者が殆どで、地上の王都でもアマセ家の高名は元より地下都市の発展によるダスコダの功績に賞賛する。
彼の人柄から嗅ぎ取れる善悪の根源はグロリアから聴いていた通り、最早芸術の領域だと言える。
侯爵が護衛の数人と南の冒険者区内の酒場に姿を見せると、酒場は静まりかけるが護衛の1人が店主に麻製の小袋を差し出すと、酒場の店主は店内に轟く程の大声で客達に笑顔で侯爵の気前を讃え伝えた。
「あら、男前すぎなのでは?」
「この程度の金銭などドブに吐いて捨てる様なものよ、つまりドブなのだ、貴様ら冒険者風情は。」
グロリアが慣れた語調でダスコダに問いかけると彼は皮肉たらしく言葉を返したが、俺は粋な男くらいに映る。
「そのドブに足を踏み入れきてドブさらいでもなさる気なのですか?」
一瞬、グロリアと彼の護衛達との間に強烈な緊張の糸が張られたがダスコダはそれを微塵も気にせず片手で払いのけると護衛達を制した。
「アバズレ、貴様に用は無い。私が用があるのは、貴様だ。冒険者。ゼノとか言ったな。」
グロリアの眼差しは細やかな憤怒を放つが、ダスコダは微塵もそれを相手にせず、視線を真っ直ぐ俺に向ける。
そもそも、貴族は東エリア以外で姿を見せる事は殆ど無いらしい。
貴族は静養に来ると決まって、東エリアの贅の限りを尽くした象徴の貴族宮殿で過ごし、使用人達が代行して買い付けや身の回りの世話をするので、貴族がわざわざ下賤の区域に赴く必要が無い。
だが、眼前にいる男は今回こうして面と向かって対峙している。
この都市の権威は貴族の領主の権限が絶対で、他貴族、民、冒険者は何人もそれを覆せない、覆してはならないと法ですらも決められており、言葉を一つ交わすにも領主の許可が無いと不敬罪に問われたりする事もあるという。
故に迷宮都市ジャノスはダスコダもとい、アマセ家のホームであり、庭であり、法廷である。
グロリアが馴れ馴れしい態度をとれるには何か理由があるのだろうが、今はそんな事どうでも良い。
この面倒極まる相手をどう対処するかだ。
領主直々にお出ましとは厄介事の匂いが定石だろう。里長達の地上のいろはが妙に疼く。
「時間が惜しいので単刀直入に申すぞ。貴様、闘技場に興味は無いか?」
ん?闘技場……だと?
「出るならば、そうだな… …結果いかんで相応の褒美はくれてやろう。まぁ命令ではないからな、嫌なら断ってもかまわんぞ。この意味はわかるであろう?んん?」
んなもん『はい、招待受けます。』の一択じゃねーか。
断る理由がない。
グロリアが北エリアを連れ回してくれた時、東西のエリアについて触れたことがある。
その時、ざっくりと一通り、説明は受けていたが、闘技場はその時から気になっていたのは事実だ。
闘技場とは腕に覚えのある冒険者達が集う場で、【参加手当】と【順位手当】の合算【闘技手当】で闘技場限定の武具や魔具に高価な交易品なども交換できるのだが、これが中々に魅力ある景品群になっている。
ダスコダの言葉通りなら、参加するだけでもメリットは大きい。
冒険者や魔物と腕試しして、戦績を積むほど手当てが貯まりやすく、それで珍品や逸品を集めて売るも良し、研究するも良し、使うもよし、考えただけでも心が躍動する。
デメリットは恐らく断ればここでの商いは今後、絶望的になるのだろう。
グロリアは心配顔でダスコダの思惑を警戒して一抹の不安を感じさせるが、俺の返事は即答だった。
ダスコダはそれを聞いてから、更に話の続ける。
恐らく本命はコッチだろう。
「闘技覇者になれば、我が城にて貴様を讃え宴を楽しもうと思う。さすれば、決して貴様に損な話しはさせないと誓おう。どうだ?このダスコダ、利用価値はあるぞ?力を示してみよ。」
明らかにグロリアの表情は険しく、強い警戒感を露わにしている。
この男が何の利益も口にせずに一方的な話をするときは大概何かある事を知っているからだからか、グロリアはダスコダの話に口を割った。
闘技覇者になり得る力は疑いないみたいだ。ユイカから聞かされた逸話通りならば間違いなく覇者になれると彼女は言う。
だからこそ、本筋の狙い、警戒心はその先の宴にあると不快感を示した。
ダスコダの眉尻が微妙に一瞬吊り上がったが、それ以上の話をしても無駄に感じた為、俺は話を切った。
何らかの思惑があるにせよ、ユイカからはジャノス帰還後から一週間経つ今も尚、王都への帰還は時間が要すると宿で聴いている。
暇を弄ぶのなら景品を狙うのも悪くないし、訓練場での顔見知り達となった冒険者達との鍛錬だけでは腕も鈍りそうだ。
やはり、ヒリつく緊張感が無いと物足りない。
そう、眼前の相手は、商いで侯爵まで昇り詰め、裏の社会までも纏める勢い良い存在。
喰うか、喰われるかの仕合は早かれ遅かれ直面する問題だと認識しているし、その敵は何も魔物とは限らないことも知っているつもりだ。
ラー爺達からの話通りなら、ダスコダは紛れもなく俺の道に必要な強敵であると感じてやまない。
俺の眼を観て、何か感じたのだろうか、彼の浮かべた不遜な笑みの筈が一切の卑しさを感じず、その真剣な瞳の奥に俺も何かを考えさせられた。
全く喰えぬ男だ。
闘技場参加に備え諸々の準備をすると侯爵は護衛達と酒場を去っていった。
宿に戻ると来るべき日に向け、静かに眠った。
続話の書き溜めしんどいですわ〜




