プロローグ
いつかみんなで冒険者になろう。
幼い記憶、まだ僕たちは青く純粋無垢だった頃の話だ。
家が近いだけでいつも一緒に遊んでいた幼馴染グループの一人がそう言った。
木刀を片手に腕っぷしのある勇猛な男友達。
それに賛同するように僕を含めた五人が頷いた。冒険者が中心となったこの時代で冒険者になることは針に糸を通す程、難しいのだ。この時の僕はまだそう思っていた。
数年後、互いに切磋琢磨して成人の15歳を迎えて冒険者になった。資格を取るのに試験は必要ないがランクを上げる際に専用の試験が適用される。勿論、ソロなら一人で試験に挑まなければならない。依頼をこなすために最初の迷宮に向かった。大変な依頼になると思いきや、僕は唖然した。
強い、そう強すぎるのだ僕以外の幼馴染が、僕の役目は後ろで見守っているただの保護者だ。
これは決して自虐ではない、ただ呆れるほどに僕以外の全員が天才だったのだ。この時点で僕の心は折れかかっていた。唯一、才能に恵まれずに圧倒的な差を見せられ僕は足手纏いになると考えパーティーを抜けようとしたが天才達は見捨ててはくれずに守られながら冒険者をすることに…
英雄になりたかった僕の夢が潰えたのはもう5年前の話。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝起きたら、泣きたくなるほどの虚しさを感じた。
何故なら机の上に並べられた大量の書類が目に映ったからだ。こうなっているのにも理由がある。僕らの最強パーティーが所属しているギルドは僕らのパーティーを含めて四つのパーティーによって設立されていたからだ。
つまりギルドマスターは四つのパーティーのメンバーから決めるのだが、見事に天才幼馴染達に推薦(押し付けられ)されてしまい現在の状況に至る。
仕事は段々と慣れてきたが、秘書の助けがなければ逃げ出していただろう。いや逃げだしたところで幼馴染たちが捕まえにくるだろう。僕は思った。
「冒険者って何だっけ?」
見捨ててはくれずに冒険に付き合わされ、挙句の果てには一流ギルドのマスターになっていた。あぁ神様、才能もくれずにこんな無理難題をくれるなんて僕は嫌われているに違いない。
机の書類を片付け始めると突然、扉が開いた。そこには息を荒げている美人秘書が、嫌な予感がする。
「マスター!!ラウンジの方へ来てください!!」
「はぁまたか…」
何となく予想はついている。幼馴染を例にすると冒険者には話を聞く奴が殆どいない。大抵の場合、言い争いとか乱闘とか日常茶飯事だ。でもさっき起きたばっかの人に収拾をつけさせるのをやめて欲しいと思いながら僕は重たい足をラウンジの方へと進めていく。
今日はやけに騒がしい。何故なら滅多に行わないメンバー募集の日だからだ。
この一流ギルドがあるベルセルク王国は様々な人が集まる。商人や冒険者、遠くからの貴族などと沢山の人だ。
だからどうしても騒がしくなるのは予想はしてた。していたのに…
いざ扉を開くと阿鼻叫喚するような光景が映っていた。もはや木屑になっている机にヒビが入っている壁。そして暴れていたであろう暴徒たちが血反吐を撒き散らしながら積み重なるように倒れていた。
「………。もう具合悪くなる…」
「しっかりしてくださいマスター!?」
目眩をするようにふらついた僕に美人秘書は肩を貸してくれる。状況を理解しようと周囲を見渡すと、見覚えのある姿があった。黒髪に物騒な短剣を持った美少女が
彼女の名前はレイン・メナス。僕らの最強パーティーに入りたいと懇願してきた町娘だ。僕のことを師匠を呼んでいるが何も教えていない。そもそも僕の幼馴染の一人であるリエルの弟子だ。冒険者レベルが3のソロ冒険者。
冒険者には国が設立した探索者協会で功績に応じてレベルを振られる。
駆け出しは1、中堅が2、プロは3といった風にレベルが割り振られる。最大レベルは10まであり英雄となった人間に割り振られる。ちなみに僕の天才幼馴染は全員がレベル8だ。イカれてる…この際、僕のレベルは黙っておこう。
「さて言い訳を聞こうじゃないか…レイン?」
「はい師匠。実はやってきた新参者が師匠のことを馬鹿にしていたので粛清しました。」
「うん。分かった…だが覚えておくといい。冒険者は馬鹿なんだよ…馬鹿に馬鹿って言われても何とも思わない。それと一緒だ。だから馬鹿を殴るのはやめておきなさい。」
「マスター馬鹿馬鹿うるさいです。」
横から秘書にツッコミを入れられながら僕は倒れている新参者の様子を見る。見事に虫の息だ。流石と言うべきかあのリエルの弟子だからか。正直な話、懇願してきた時には人間を辞めたいと言ってるのかと思った。この状況だと暴徒を片付けるのも面倒だ…このまま放置するか。
幸いなことに被害はラウンジの備品と壁だけで済んだ。探索者協会に後で修繕費を引っ張ってこよう。僕はそう決心するとその場にいた人に丸投げして書類を片付けることにした。
「僕は忙しいから…後始末は任せるよ…」
「マスター…流石に丸投げするのはどうかと…」
「放り出しとけ…これ以上、僕の体調を壊さないでほしい…」
「師匠?体調が悪いんですか?」
レインの言った事に対して僕は誰のせいでこうなってると思っているんだと視線を向ける。そこには純粋な眼差しで見つめてくる美少女。僕はレインには甘い、やれやれとため息を吐きながら書類の山がある拷問室へと戻る。
これはギルマスになった僕の苦難の話ではない。いつか諦めていた夢を叶えるために様々な苦難に天才幼馴染達と立ち向かうそんな話だ。天才の陰に隠れた秀才と呼ばれたアルト・メディアの物語だ。