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俺が竜になっているんだが?

はじめての本文投稿です。

 俺が気がついたとき、俺の身体はなにか固いものに包まれていた。ぼんやりする意識の中に「コツン…コツン…」という音が響いてくる。目はかすかに開いているはずだが、この空間は闇に包まれていてなにも見ることができない。


 響く音に応えるように、俺は本能的なものに促されるように口を固い壁のようなものに押しつけた。口というよりも、鼻の位置。正確には人間の鼻より遥かに先にあるところに…人間ではありえないところにじわっとした圧迫感があった。


 もう一度、コツン、という音が響く。口なのか鼻なのかわからない「なにか」に震えを感じる。その音と震えに「ここから出なければ」という焦りを感じる。

 

 俺は先程より強く「なにか」を固いものにぶつけた。壁は俺の突きに少し揺れる。その揺れた先で先程とは違った「コココ…」と硬質なものに鋭利な刃物を突きつけるような音と鋭い衝撃を感じる。もう少しだ。自分の心ではなく、本能がそう告げていた。俺は嬉しくなって、何度も「なにか」を壁にぶつける。


 何度かそうしていると、「コンッ!」というひときわ鋭い音が響き、暗闇の中に急に光が入ってきた。俺は眩しさに顔をしかめながら上を見ると、まるで漆黒の夜空が割れたかのようにヒビが入り、そこから光が差し込んでいた。その隙間からツルハシの先のようなものが侵入し、慎重にヒビを広げていく。


 俺は口のような何かをその穴に押し付けて丸まった体を伸ばすと、その壁のようなものはベリベルと内側から崩れていく。だが、身体は全部出ていかない。俺は再び丸まり、そして勢いよく体を伸ばしていく。何回か繰り返したところで、身体がずるっと狭い空間から滑り出た。心の奥底から歓びが込み上げてきて、俺は口を大きく広げ、叫んだ。


「グォオオオオオオーーーーーーーーーーーーーー!」


 その叫びは、明らかに人のものではなかった。叫んだ俺自身が戸惑う。しかし、俺の意識とは別に何度も「グオー!」と叫ぶ。その声に反応した何かが、重々しい動きで俺を見てきた。見たことのないものに俺の頭は混乱する。


 その体は大きなトカゲのようだが、そのトカゲは二本足で立っていた。そして、目にはなぜか優しさと知性を感じた。俺は自分の身体を見る。人間とは全く違う、鱗が生えた皮膚。四つん這いになって動く身体。口を開いてもグッグッという音しか出ない。…?音?これは音なのか?


 混乱する俺を、トカゲが先端が二股に割れた舌で舐めた。俺の意識は、そこで途切れた。


ーーー


 どれくらい経ったかわからないが、俺は意識を取り戻した。夢なら覚めてくれと思いながら、眼を開ける。とたん、目眩がした。斜め後ろの壁まではっきり見えている。目が正面にある人間では有りえない視界の広さだ。


 そして、その視野におさまる自分の身体は黒光りする鱗に覆われている。自分の手を見てみようとするが、まず手がどこなのかもわからない。頭の中では腕を伸ばそうともがいても、寝そべっているであろう身体は一向に動かない。


 いったいどうなっているんだ、これは。困惑した俺は頭の中でメチャクチャに暴れてみる。だが、身体は少し揺れる程度にしか動かない。心の底から不安と恐怖が湧き上がってくる。その黒い波に飲まれてまた俺は意識を失った。


ーーー


 目を覚ますと、目の前にはやはり大きなトカゲがいた。


 その生き物は比較対象がないので正確にはよくわからないが巨大なのは間違いない。ナイルワニやコモドオオトカゲを直接見たことはないが、それより遥かに巨大である。


 首は人がまたがれそうなくらいに太い。そいつは太い足で地面に立っているが、腕は身体に折りたたまれるよう折り曲げられていてどうなっているかよくわからない。トカゲというよりも恐竜のような印象がある。


 どうも俺は部屋の中にいるらしい。天井に空いた採光窓から日光が差し込み、部屋はそれほど暗くはない。赤茶色い煉瓦造りと思われる壁で前と左右が覆われていて、正面には小さなドアが据え付けてある。後ろ側は一面が金属で補強された木の板で作られており、ファンタジー小説のイラストか歴史の漫画で見た城門を思い出す。その部屋の片隅に藁が敷かれ、俺はそこに横たわっているのがわかった。


 その恐竜モドキは部屋の中を二本足でウロウロしているが、時折、俺の方を見てはなぜか嬉しそうに笑っているようにみえる。ゾッとするが、同時にちょっと何故か安堵する。


 前の方のドアの方からかすかに何かが聞こえた気がする。規則正しくコツコツという音が鳴っている。


 しばらく考えて、これは足音なのではないかと思ったが、俺の頭の中のイメージの身体は首をひねる。俺は耳が聞こえないはずだ。


 補聴器をつけていればともかく、なにも装着していない耳ではこんな音が聞こえるはずがない。


 徐々に近づいてくる足音が止まり、扉の前でガチャリという音がする。そして、扉の仕切り窓のようなところが開かれる。刑務所の独居房のようなところで看守が囚人を見張るような窓といえばわかるだろうか。その隙間から人間の目が見える。人だ!


「助けてくれ!」と俺は叫んでみるが、もちろん声は出ない。「グォ…グォ…」という鳴き声がどうにか響くくらいだ。


 その瞬間、扉の向こう側ではざわめきが起こった。何を言っているかはわからない。だが、それは間違いなく人の言葉であった。「助けてくれ!助けてくれ!」と繰り返し叫ぼうとする。だが、無常にも「ギャオー!ギャオー!」と泣き声が響くだけ。


 扉の向こう側の声はますます大きくなる。なんだ、なにが起きているんだ。


 その声を聞いた恐竜モドキは扉と俺の間に立つ。そして、なにかを威嚇するようにバサッと腕を広げた。その腕と身体の間には膜があり、その膜が広がると翼となった。


 そして、「ギャオォオオオー!」と吠える。翼を広げたこの生き物は、俺には竜以外のなにものにも見えなかった。


ーーー


 竜がこの世界…少なくとも地球上にはいるはずはない。しかし、このあまりにも生々しい感覚は夢とも思えなくなっている。自分の頬をつねってみたいのだが、手すら満足に動かないこの状況ではそれもかなわない。


 必死に記憶を漁ってみる。昨日は普通に仕事に行き、普通に仕事から帰っていたはずだ。


 そして…後ろから急に衝撃を受けた気がする。俺は耳が聞こえない。正確には補聴器をつければ音を拾うことはできるが、それがなんの音でどこから鳴っているのかはよくわからない。俺は間違いなく歩道を歩いていた。


 たしか、その時は雨だったから傘をさしていた。ちょっとざわめきがあったかもしれないが、雨音…正確には雨が傘に落ちる音がうるさくてどんな音だったかは正確には判断できない。


 もしかしたら、その音は暴走かなにかを起こした車が突っ込んでくるものだったのか。つまり、俺は後ろから暴走した車に巻き込まれたのか?


 聴覚障害があると交通事故が怖い、とはいうが、まさか自分にそんなことが起きるとは…。いくら記憶を漁っても苦しんだ覚えはない。幸いと言っていいかはわからないが、即死レベルかすぐに意識を失ってそのまま死んだのではないだろうか。


 では、この状態はなんだ?


 俺は本はよく読んでいたほうだと思う。耳が聞こえないと楽しめる娯楽もだいぶ限られるのだが、読書は俺にとっては健聴者と平等の趣味である。子どもの頃は漫画を貪るように読んでいたし、大人になってからは特に金を使う趣味もないので、手当たり次第に好きな本を読んでいた。しかし、竜が実在するなんて本はどこにもなかった。当たり前だ。


 ふと、ライトノベルのことを思い出す。


 最近は異世界転生というジャンルが話題になっている。俺も最初は転生モノを鼻でバカにしていたが、有名な作品を読んでみるとなかなか面白いものもあり、いくつかのシリーズを読んでいた。それらのシリーズでは必ずといっていいほど主人公が「ありえない!」と叫んでいたが、今の俺はまさにそんな状態だ。いや、叫べてすらいないのだが。


 つまり、これが転生というものか?


 そんなバカな。俺は日本人だが仏教徒とはいえないし、何かを強く信仰していた覚えもない。輪廻転生だって時間は遡れないはずだが、ここはどう見ても未来の施設でもはないし、なにかが進化したところで地球上に竜が現れるわけがない。こいつはどう考えてもファンタジー世界にしか存在できないような生き物だ。


 しかし、他のモンスターはともかく、竜に転生した転生モノなんて読んだことがない。いや、もしかしたらそういう作品もあるかもしれないが、あいにく俺はそれを知らない。とにかく、この状況は普通に異常だ。だが、その異常事態を知らせる方法すら俺にはないのだ。


 採光窓がふっと陰った。視線だけを上に向けてみると、大きな竜が空を飛んでいくのが見える。外は快晴のようだ。


 目をつぶろう。もう一度寝よう。


 そうすればいつもの部屋で目覚めるはずだ。最悪でもどこかの病院のベッドだろう。そう願いながら俺はまた眠りに落ちた

自分の経験などを色々盛り込みました。

次回は一週間以内に投稿できたら…。

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