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1 ……あの、先輩。私です。

 水の中の泳ぎかた


 水の音。波の音。……海の音が聞こえる。


 ……あの、先輩。私です。


 八月。


 ……蒸し暑い、夏の日。


 なんだかすごく懐かしい思い出。

 ずっと昔に見た夢のお話。

 それを今、思い出すのはどうしてだろう?


 高校二年生になった十七歳の少女、上坂清は朝、ベットの上で目覚めるときに、そんなことを思った。それは清が中学生のときの思い出だった。清の甘酸っぱい少し遅めの初恋の思い出。

 清が好きになった相手は、中学の一個上の先輩で、清と同じ水泳部の男子のエースだった人だった。

 清はその先輩に憧れて水泳を始めた。

 ……朝丘直先輩。

(背が高くて、優しくて水泳ばっかりやっている真面目なかっこいい先輩)

 今はそれだけが水泳を続ける理由ではないけれど、始めは確かに直先輩のことが目的だった。なかなか不純な動機だと自分でも思う。

 それは高校二年生になった今でも、清だけの大切な思い出だった。

 自分が直先輩のことを大好きだったことを、自分以外の誰かに告げるつもりは今のところ清にはなかった。(直先輩にもだ)

 清は三年間、ずっと直先輩に告白をすることができなかった。毎日毎日、今日こそ告白をしよう、今日こそ自分の思いを全部直先輩に告げようと思っていたのだけど、結局最後の最後の中学校の卒業式の日になっても、清は直先輩に自分の思いを告げることができなかった。

 清は直先輩とは違う高校に進学した。

 頑張れば一緒の高校にいくこともできたとは思うけど、そうはしなかった。清は憧れの直先輩から逃げたのだ。苦しくって、辛くって、もうずっとこんな思いをするくらいなら、いっそ、直先輩から遠く離れた場所に行こうと思ったのだ。

 その選択を清は後悔していない。

 その選択が今も正しい選択だったと、高校二年生になった清は思っている、……はずだった。

 ……でも、もしそうだとしたのなら、なんで私は今頃になって、こんな夢を見るのだろう?

 そんなことを清は思った。

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