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気楽で危険な山登り

「準備はいいか?」

「いいけど、ほんとによかったの?」


 少し申し訳なさそうな顔で幸助が聞いている。


「いいと言っているだろう」


 十分休みを取って準備もすませた二人が村から出ようとしている。

 今の二人は山歩き用に分厚い長袖長ズボン、厚手のブーツを着込んでいる。それにシャイトは昨日と同じように外套をまとい、幸助は腰に大振りのナイフを帯びている。

 幸助が申し訳なさそうな顔になっているのは、準備にかかるお金を出してもらったからだ。今いる村は大きな村ではないので品揃えがいいとはいえない。万全な準備を整えたというわけではなく、かかった費用もそこまで高いものでもない。

 それでも宿賃から山登りの装備まで全て奢りというのは、幸助に十分遠慮の思いを抱かせることだった。

 この村で手伝いをして稼ぐという方法を幸助が提案したものの、できるだけ早く王都に行きたいシャイトは却下していた。

 

「そこまでお金はかかっていないんだ。手持ちの四分の一がなくなった程度だ。

 それも今回の依頼を成功させれば、出て行った金以上の収入がある。正直準備を怠って失敗したくないから、当然の行動なんだ」


 シャイトのこれは本心だ。今回は恩を押し付けようとは思っていない。それだけ成功させたいのだ。お金のことなど気にしていない。王都に行くまでのお金が持てばいいと考えている。

 

「じゃあ報酬が手に入れば返すよ」

「別に返さなくていいんだけどな」


 好きにすればいいと言って、シャイトは歩き出した。それを追って幸助も隣に並ぶ。

 目的地の山までは順調にいってこの村から半日ほど。そして麓から泉までさらに半日だ。

 そこに行くまで幸助は、シャイトからこの大陸のことを聞いていく。

 道中平穏無事というわけではなかった。野盗などはいなかったが、二度ほど魔物が襲い掛かってきた。幸助にとっては雑魚といえる魔物で、よそ見しながら魔法で容易に殺すことができた。

 目の前の敵を見ないで誰を見ていたかというとシャイトだ。戦いぶりを見て、どれくらいの強さなのか知ろうとした。

 シャイトの戦い方は、ショートソードを使い相手の隙を突いていくものだった。魔物が弱いということもあり、怪我を負うこともなくさっさと殺していた。

 そういった動き方を見て幸助が思ったのは、ナガレに少し似てるということ。真正面からぶつかり合うような戦い方ではないということ。詳しい強さはわからなかった。少なくとも全力を出しているようには見えなかった。

 

「今日はここで野宿だ」


 日が暮れて、山の麓に到着した二人。暗くなった山の中を歩いたり野宿するより、ここで休息取った方がいいと二人の意見は一致した。

 野営の準備を済ませて、調理の仕上げをしつつ幸助はこの山について聞く。


「この山にどんな魔物がいるかわかってる?」

「ああ、いるのは三種類の魔物だ」


 一匹目は肉食い巨蜂。カラスほどの大きさの蜂だ。硬い外殻に、一刺しで猪を殺す毒針、木の幹も簡単に噛み砕く強い顎を持っている。

 二匹目は岩猪。大きさは猪と同じだが石のような殻を身にまとい、すごい勢いで突進を仕掛けてくる。

 三匹目は隠れ燕。空色や森色の体毛を持った二種類がいる。大きさは通常の燕の三倍弱。翼は刃状になっており、擦れ違いざまに手首を斬り落されたなんて話も聞く。


「肉食い巨蜂に関する注意点は巣に近づかないこと。奴らの巣は土と石を唾液で固めた土塚で、その中に五十から百匹の肉食い巨蜂がいるんだ。巣に近づくとそれが一斉に襲い掛かってくる」


 一匹ならば危険度は魔物の中でも下の上といったところだ。しかし集団になると中の上に跳ね上がる。


「それは怖い」


 幸助はその様子を想像してみて一度体を震わせた。


「そうだな。でも逆に一匹なら怖くないんだ。硬いといっても岩石までとは言わないし。

 奇襲に注意すれば駆け出し冒険者でも十分倒せる」

「一匹倒したら、仲間を呼ぶとかは?」

「それはない。まあ巣の近くで倒したらそのかぎりではないと思う。

 次に岩猪の注意点。こいつは突進の進路上に立たないこと。突進をまともに受けて骨折で済めば儲けもの。

 ただ纏っている殻の構造上、突進中に曲がることはできない。だから一対一なら、突進して勢いのなくなったところを転ばすなりすれば殺すのは簡単。一対複数なら、一匹のみに集中せずに全部の進路を把握すること。一匹の突進を避けた後、背後や横から突進を受けることがある」

「わかった。

 ん、そろそろかな?うん、できた」


 味見して出来たと判断し、十分煮込み終えたスープを器に入れ、シャイトに渡す。

 シャイトはそれに礼を言って、一口飲んでから続きを話す。


「最後に隠れ燕だけど、これはテリトリーに近づかないってことくらいしか注意点はない。

 姿の見えにくい素早い飛行を察知して避けるってのは難しいんだ。ただ翼もさすがに金属の鎧は斬り裂けないから、がちがちに装備を固めて対応するって方法もあるけど、そういった方法をとると動きが鈍くなるしな」

「空飛ぶ魔法もってんだけど、使って山頂まで行ける?」

 

 ショートカットできるんじゃないかと聞いてみる。


「蜂や燕のいい的じゃないか? 飛ぶ速度や機動性は向こうの方が上だろうし」

「確かにそうだなぁ。

 一人で行こうとしてたんだから、魔物たちへの対策は練ってるんだよね?」

「ああ、肉食い巨蜂には虫除けの匂い玉を何個も持ってきてある。隠れ燕は奴らのテリトリーの反対側から山に入ることで遭遇確率を減らす。猪はこれといって対策してないが、近くに寄れば物音が立つからわかりやすいって情報を手に入れている。

 あとは慎重に進むってだけだな。ついでに神に幸運を祈ることもしておこうか」


 面白がって遭遇確率上昇させそうだなと幸助は思ったので、祈るのは止めておこうと決めた。

 どこからか、そんなことするわけないじゃないか、と聞こえてきたような気がするが、シャイトが特に反応を見せていないし気のせいだろうと幸助は流す。

 夜は更けていき、先に幸助が寝てシャイトが見張りに起きるということになる。

 山の魔物の領域には近づきたくないのか、ほかの魔物が襲ってくるようなことはなく。山の魔物たちも山から出てくることはなかった。

 そして夜が明ける。

 隠れ燕を避けるため、野宿していた場所から山沿いに南へ一時間歩いてから山に入る。

 山の中は、風に木の葉が擦れる音や虫の鳴き声が主な音だった。鳥の鳴き声が聞こえてこないことに幸助は首を傾げる。他の森では鳥の声も聞こえたことを覚えている。


「そういやこの山って魔物のほかに危険な獣っていないの?」

「いないな。小動物くらいならいるだろうが、大きな獣は蜂の餌になる」


 鳥の鳴き声が聞こえないのは餌になったからだろう。


「じゃあ気をつけるのは本当に魔物だけか。

 蜂は羽音に注意して、猪は足音にと」

「蜂は木の枝とかに止まって周囲の観察していることがあるらしい。だから羽音が聞こえないからといって油断は禁物だ」

「了解」


 ふと幸助はかすかになにかが風を切る音を捉えた。音がした方を見ると同時に、腰のナイフをシャイトの前に突き出す。そのナイフに鳥がぶつかったのをシャイトは驚きの表情で見ている。

 今シャイトは二重の意味で驚いていた。一つ目は隠れ燕に少しも気づかなかったこと。二つ目は幸助が気づき対処までしたことだ。

 いつもならば命の危機に関しては予感が働くのだ。そして今の状況は命の危機だった。それなのに全くと言っていいほど予感は感じられなかった。


「これが隠れ燕? 確かに緑の羽毛で見づらい。でもこっちはテリトリーから外れてるんじゃ?」

「テ、テリトリーから外れても遭遇する時はする。確率はゼロじゃないんだ。

 ……しかしよく気づけたな?」


 去った危機に感じる恐怖を抑え込み、疑問に思ったことを聞く。


「翼が風を斬る鋭い音が聞こえたんだ。んでそっちを見たら緑の塊がこっちに飛んできてるところだったんで、思わずナイフを進路上に突き出した。

 ところでこれの売れる部分って刃状の翼くらい?」

「ああ、肉も売れないことはないが、特別高いってことはない」


 ちなみに肉食い巨蜂は傷ついていない毒針と羽が売れ、岩猪は肉が美味く同じ重さの牛豚肉よりも高く売れる。

 嬉々として翼を切り取っていく幸助の余裕ある様子を見て、シャイトの脳裏に一つの仮説が浮かぶ。

 それは幸助がいるから予感が動かないのではということ。シャイトの予想以上に強い幸助が共にいることで、普段ならば命の危機になることも心配いらなくなる。だから予感が動かなかった。

 この仮説が正しければ、シャイトは本当に心強いボディーガードを得たことになる。

 シャイトは心中に大きな希望が生まれたことを感じ取った。それを表に出さずに、仮説が外れていることも念頭に置いて気を引き締めた。連れが強いからといって油断して、失敗しては目も当てられない。


「回収は終わったか?」

「終わったよ」

「先を急ぐとしよう。

 あ、それと礼を言うのを忘れてた。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」


 二人は慎重に歩を進めていく。

 その後、木の枝に止まっている肉食い巨蜂に幸助が気づき、拾った石を投げて打ち抜くといった芸当を見て、シャイトは自身の仮説に信憑性が増すのを感じていた。

 開けた場所で静かに三時間ほど長い休憩を取った後は登り続け、二人は目的地の泉に到着していた。道中これといったトラブルはなかった。遠くに岩猪を見つけやりすごしたり、肉食い巨蜂の巣を見つけ迂回したくらいだ。

 時間は昨日山の麓に到着した頃よりも遅い。なので夜だ。目的の薬水は朝でないと手に入らないのですることがなく、薬草が生えている場所を確認した後は魔物に見つからないよう静かに待機となった。

 火の明かりで魔物が近寄ってくる可能性があるので、暖かい物は食べられず味気ない食事を終えた後は本当に暇になった。

 夜風で体を冷やさないよう、体を温めるために酒をちびちびと飲みつつ時間は流れていく。つまみは少量の香辛料をまぶし炒った豆だ。


「なあコースケ」

「なに?」


 ぼんやりウィアーレとエリスなにしてるかなと考えてた幸助は思考を止めて、シャイトを見る。


「お前さんどこかの近衛騎士だったりするか?」


 シャイトは幸助を見ずに、空を見上げながら聞く。


「まったく違う。なんでそんなことを思ったって感じなんだけど。俺の行動のどこかに騎士を感じさせるものなんかあった?」

「いやないんだが、あれだけの能力持っているとただの冒険者とは思えなくてなぁ」

「あいにくただの冒険者なんだなこれが。地元では雑務系依頼ばっかり受けてた」

「もっと儲かる依頼あるだろうに。なんでそんな仕事を」


 シャイトは言葉に呆れを滲ませている。


「お金が一番の目当てじゃなかったから。どんな仕事があるのか体験してみようってな感じだった。

 あと荒事は気後れしてたから」

「あれだけの強さがあって怖がるって、どんだけ周りの奴ら強いんだ」


 シャイトは幸助の周囲の状況が厳しいので気後れしたのだと思っている。平和な異世界から来たので荒事に気後れしたのだとは、さすがに想像もできない。

 幸助が間違いを訂正しなかったので、シャイトは厳しい環境に揉まれて強くなったと解釈した。


「どんなステータスなのか気になるな。よければカード見せてほしいんだが」

「あーごめん、勘弁して」

「……なら一番高いものか低いものを教えるのは?」

「んーそれならいいか。一番低いのでD+」


 竜殺しの称号で一段階アップしている分を差し引いた精神のステータスだ。一応嘘ではない。称号やギフト分を上乗せでと言われてないと強引に屁理屈をかましている。一番低いのでC-というよりはましだと思ったのだ。

 それでも十分すぎるほどに驚けるものなのだが。


「それは……強いはずだ」


 驚く様を隠さずに、幸助へと視線を移す。表情から見るに本心から驚いているのだとわかる。

 シャイトの最高値である器用さD+と精神D+の同値が、幸助の最低値というのは予想してなかった。


「俺がどれだけ戦えばそこまで行けるんだろうな」

「それは……わからないね」

「たくさん魔物を倒す必要があるってのは確かだな」


 雑談はステータスのことから離れて、何気ないことに変わっていく。

 その雑談からシャイトは幸助についての情報を集めていく。どこに住んでいるのかなどをしっかり覚えておく。強い人物とのコネを逃すつもりはなかった。

 昨日と同じく交代で見張りをして、夜が更け明ける。

 太陽が昇る前に二人は起きて、朝露にまみれた毛布をはたき、簡単な朝食を食べた後、薬水回収の準備を整えていく。準備といっても大仰なことをするわけでもない。小瓶をリュックから取り出しただけだ。そして二人の手にはコルクで栓をしている小瓶が握られている。

 

「露溜まってるな?」


 シャイトの問いに、花の一つ一つを覗き見て幸助は頷く。動いたことで起きる振動や風で露が零れ落ちぬよう慎重に動いている。


「じゃあ、回収だ。回収の仕方は特別なものじゃない。花を傾けて、小瓶の口に露を落すだけ」

「素人でもできる簡単な仕事だね」

「素人じゃここまで来るのは無理だけどな」


 二人は露が虫に吸われてしまう前に、回収していく。ポタリポタリと露を小瓶に落していき、十五分ほどで全て回収できた。分量はどちらの小瓶も半分近く溜まっている。

 これだけあれば商家に叩き売っても金貨三枚分はある。王家ならばもっと少し色をつけてくれるだろう。


「しっかり栓はしたな?」

「零れたらもったいないからね」


 きつめにコルクで栓をして、小瓶が割れないように布で包み、リュックにしまう。


「あとは山から出るだけと」

「魔物に注意しながらな」


 幸助の言葉に付け足し、シャイトは歩き始める。

 帰りにも魔物に遭遇しかけたが、回避することができ戦闘は一度もなかった。

 この状況にシャイトは上機嫌だった。なにしろ事前に予想していたよりもずっと楽に終えることができたのだ。

 だから気が緩んだのか、可能性として考えていたことが起きたのにも関わらず、一瞬動揺してしまった。

 二人の目の前には冒険者らしき物たちが四人。無言で武器を構えて、森から出てきたばかりの二人に襲い掛かってきた。

 幸助が彼らに気づけなかったのは、彼らが気配を隠していたということと森に主な注意を割いていたからだ。先日の野宿で特に危険がなかったということも理由になる。

 襲撃者に意識が向いたことで、シャイトの動揺の仕方が突然襲われたからではなく、襲ってきた者を見て驚いたものだったことに幸助は気づかなかった。

 戦いは静かに始まり終わった。

 被害はシャイトが軽傷を負った程度で、幸助は無傷だ。襲撃者は気絶して地面に倒れている。使うかもと持ってきてた細いロープで縛り上げた。


「こいつらなんだったんだろう?」

「物取りだろう。自分たちでは山に入る実力はない。だけど薬水はほしい。だから薬水を取ってきた者たちに奇襲でもしかけ、奪い取ろうとしたってことだろ」

 

 その説明に幸助は納得したように頷いた。


「それにしてもシャイトなんか動きが鈍くなかった?」

「いきなり襲われて動揺したんだ」


 幸助の疑問に答えつつ、懐から出した丸薬を飲み込むシャイト。


「そう。うん? それってなに?」


 飲んでいる丸薬を指差す。


「あいつらの剣に毒っぽいのが塗られたから、念のために解毒剤をな」

「ふーん。それが効かなかったら、魔法使うから言って」

「その時は頼む」

「それでこいつらどうしよう?」

「……近くの村に連れて行っても拘留施設はなさそうだし、ここに放っておいていいんじゃないか?」

「なかったっけ?」


 幸助は村の様子を思い出し、見えていた部分でそれらしきものがなかったことを思い出す。けれども村全部を回ったわけではないのだ。もしかしたらあるかもしれない。

 そう言おうとして幸助は止めた。シャイトの顔を見て、なんとなく言ってほしくなさそうに見えたからだ。確信はなく気のせいかもしれないのだが。


「ま、それでいっか。これから向かうのは王都?」


 襲撃者から視線を外して、幸助は歩き出す。

 襲撃者たちは運が悪ければ魔物に食われて死ぬだろう。運が良ければ魔物が来る前に目覚めて、地面に落ちているナイフを使ってロープを切るはずだ。

 幸助としてはどちらでもかまわなかった。


「ああ。その途中にある町で補給して到着は遅くて四日ってとこだな」

「どころでこの国の特産物とか有名な場所とか成り立ちって知ってる?」


 もしかしたら帰り道港に行くまでに有名どころに寄るかもしれないのだ。その時のための前知識として聞いてみた。無駄知識になるだろうが、暇潰しにはなる。

 シャイトは知っていることを思い出し話していく。

 

「この国ができたのは百五十年くらい前か。この国の南西にある国で大きな手柄を立てた侯爵が、褒美としてこの土地と建国許可を与えられたことがこの国の始まりだ。

 始めの立場は属国というもので、国政にも口を出されていたらしい。でも建国して数十年の間に優秀な王や役人が何人か出て、そいつらが外貨を稼ぎ、大量の金額を払うことで半独立を認めさせた。

 半独立なのは有事が起こった時、いいように使える駒がほしかったかららしいな。完全な独立はできなかったものの、あからさまな国政関与はなくなり一国として独り立ちできた。

 大雑把な歴史はこういったものだ」

「侯爵が立てた手柄ってのは?」

「地震と津波が起きて沿岸部が壊滅したんだと。その復興に大きく活躍したのが当時の侯爵だと聞いた」

「国もらえるほどだから、相当に活躍したんだろうな」

「それもあるかもしれんが、壊滅した地域を押し付けられたっていう説もある。

 復興したとはいえ、農業や商工業は以前ほどじゃないだろう。治安も悪くなっているはずだ。しかし自国の建て直しに力を注いでいる最中で、それらにかまう暇はなかったから治安は悪化していった。

 そんな地域を治められる人物はその侯爵以外いなかった。そこをどうにさせるため、好条件をつけて領地を移動させたと。復興資金もそれなりに出たんじゃないか? 近場が荒れていては自国に悪影響が出るし、さっさと解決させるためにな」


 シャイトは知らないが、優秀すぎるので国から放り出したという説もある。土地勘のないところで悪戦苦闘させて、出身国に関わる暇をなくさせる。いくら優秀でも、荒れ果てた土地を一から国として成立させるのは難しいだろうという判断だ。

 これは当時の王に疎まれていたという記録が残っているところから立てられた推測だ。


「好条件なのか?」

「一国の主になれるんだ、野心持ってる奴にはいい条件なんじゃないか? その侯爵が野心持ってたかは知らんが」

「王家にその侯爵の日記でも残ってたらわかることかもなぁ。

 成り立ちはわかった。この国の特徴はなにかある?」

「歌姫だろうな」


 シャイトは即答する。

 それは幸助も聞く前にわかっていた。だがシャイトの次の言葉に首を傾げることになる。


「歌姫が生きているかぎりは、この国が壊滅の脅威にさらされる確率は低い」

「なんで? 歌姫が政治的にもやり手?」

「いや、そうじゃない。歌姫は青海竜に気に入られているんだ。歌姫の歌を聞くために青海竜は三ヶ月に一回川を遡るほどだ。

 歌姫に害をなそうとしたら、その青海竜に制裁くらうことになる」

「護国竜って聞いたことあるんだけど、それと同じことしてる?」

「あれとは違うだろう。あっちは国全体を守っている。こっちは歌姫以外はどうでもいい。歌姫が死ねばこの国に興味をなくすだろうさ」


 事実、青海竜のことを勘違いした軍が戦力として使おうとして大きな被害を受けた。

 歌姫が頼めば少しは国のために動いてくれるかもしれないが、それをすると周囲の国の警戒心を上げ、刺激することになりかねない。青海竜の活躍が期待できない以上、無闇な刺激は国の不利益にしかならない。歌姫に危険のない程度の武力行使や経済制裁など実行されては国の危機だ。

 なので歌姫が移動する際の護衛として頑張ってもらう以外に、軍は青海竜に期待していない。


「……青海竜が歌姫にねぇ」


 もしかすると海竜が自分をここに連れてきたのは歌姫関連なのかもな、と幸助は考える。

 それがわかったところで、ここですべきことはいまだ不明なのだが。だから幸助の目的は帰還から変わらない。

 このあとも美味しいもの、有名どころと聞いていき旅は順調に進んでいく。

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