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「なんであんな冴えない奴がモテるんだー!」と叫ぶモブに転生した俺がなぜかヒロインからモテてしまっている件



 俺の名前は五所川原健人。

 とある恋愛ゲームの中に転生した男だ。

 

 五所川原健人というのは転生先の男の名前である。

 珍しい名前をしているだろう?


 その名前のおかげでゲームをやったプレイヤーの間では定期的に話題にあがるモブである。



 モブ。


 そう、モブなのだ。

 俺が転生した男は。


 主人公ではない。

 もちろんヒロインでもない。

 悪役とかライバルとかでもない。

 ヒロインの好感度を教えてくれる便利な友人枠でもない。


 俺はモブである。

 にぎやかし枠である。


 ヒロインと仲良くする主人公を見て、「なんであんな冴えない奴がモテるんだー!」とか叫んでる奴である。


 バ○テスとか鵺の○陽師のクラスメイトとか想像してもらえばわかるだろう。


 あんなかんじだ。

 あんなかんじの中の一人だ。


 転生先が恋愛ゲームとわかったのも名前のおかげだ。

 こんな珍しい名前じゃなかったらモブすぎてわからんかったろうな。


 ま、別にモブに転生したからといって困ることはないけどね。


 幸い転生した先は普通の男性向け恋愛ゲーム。

 平和な日常が繰り広げられるストーリー。


 命がけの戦いなんてものはない。

 もちろんダンジョンやら婚約破棄やら冒険者ギルドはない。

 圧倒的日常。

 平和万歳。


 俺は平和な世界で新しい人生を生きるのみだ。

 その人生の中のちょっとしたイベントとして、ヒロイン達と主人公のラブコメ模様をモブとして騒ぎ立てられればそれでいい。


 それに加えて彼女もできれば言うことなしかな。

 前世では一回もできなかた非モテなので……。


 原作ゲームのヒロインを彼女にしたくないのかって?

 あはは、ないない。


 ヒロインたちは主人公に夢中だろうからね。

 俺の付け入るスキなんてないよ。

 


 

 今日は四月十日。

 学校の始業式である。

 そして、ゲームが始まる初日でもある。


 俺たちは高校二年生だから入学式ではない。 


 記念すべき始業式の日にメインヒロインの少女が主人公のクラス――俺のクラスでもある――に転校してくる。

 


 ストーリーとしてはこうだ。


 主人公は始業式の日に校門にてメインヒロインと出会う。 

 その出会いがきっかけで転校生として紹介された時、クラスにて主人公と会話する。

 主人公君の楽しいラブコメ生活が始まる!


 という感じだ。



 ちなみに、転校してきた美少女と親し気に話す様子にクラスの男子達はもちろん嫉妬する。

 俺こと五所川原健人も嫉妬する。


「なんであんな冴えない奴が転校生の美少女と親しげに話してるんだよー!」


 と半泣きで叫びもする。



 練習してみるか?

 本番で噛んだりしたら嫌だしな。


「なーんてな! 道端でそんなことさけぶわけないっつーの!」



 あはははは、と一人笑う。



 おっと。

 いけないいけない。


 一人で笑っているその姿は端から見ればおかしな人だ。


 ほら、斜め前にいた制服姿の女の子がビクッと背を震わせて驚いたじゃないか。

 挙動不審で申し訳ない。



 そして斜め前にいたその少女はそのまま階段の足を踏み外し――



「きゃあああ!」



 女の子の悲鳴が聞こえてくる。



 え、まずい!

 

 いきなり声をあげたせいで驚いて足を踏み外してしまった……!

 完全に俺のせいじゃないか!


 いま、俺と少女は通学路の途中の歩道橋を渡っている。

 足を踏み外してしまえば、階段を転げ落ちる。 


 このままでは彼女は怪我をしてしまう。

 いや、怪我では済まない可能性も……。


 間に合えっ!

 

 俺は一歩踏み出し、転びそうな少女の腕を取る。



――ガシッ。



 うまく右腕を掴むことができた。


 ヨシ!


 これで落下は避けられる。

 目論見どおり彼女は落ちることはなかった。

 次いで俺は負担をかける体勢になることを避けるため、腕を引いて彼女の体を引っ張りあげる。


 落ちることはなかったが勢いによって彼女は体を半回転させている。

 

 結果的に、引っ張った際には俺と少女が顔歌を見合わせる形になった。



「大丈夫か?」



 少女に声をかけると、彼女はバッとこちらを見た。

 


「ありがとう、ございます……」



 抱えられたその体制のまま、少女は俺の顔をみてお礼を言う。


 ……ん?  

 あれ?


 なんかこの顔どっかで見たことあるな。

 どっかで見たというか、この子メインヒロインだな。


 あの恋愛ゲームで何度も見た顔だ。

 リアルならこんな感じだろう。


 間違いない。


 黒髪ロングで巨乳の正統派美少女。

 メインヒロインの「有栖川春香」じゃねえか。



 いやいや。

 なんでここにメインヒロインがいるの?


 あ、通学路だからか。


 もしかして通学路かぶってんのかよ。

 しかも今日に限って通学の時間帯もかぶったのか。


 いやなんの偶然だ!

 モブの俺が通学路でメインヒロインと会うなんて考えもしなかったぞ!


 そして、当のメインヒロインである春香はこちらを見ている。

 ポーっとした、熱に浮かされたような顔でこちらを見ている。


 そして呟いた。



「王子様……」




「ふぁっ?」



 なにいってんのこの娘!?

 王子様!?


「ありがとうございます。落ちそうになった私を受け止めてくれたのでしょうか?」


「え、ああ。まあそうだけど」


 それより、さっきの言葉はなに?

 王子様とかいうおよそモブにふさわしくない言葉が聞こえて来たんですけど!?



「やっぱりそうなんですね」


 春香が頷く。

 

「貴方が私の王子様なんですね」



 違うよ?

 いやいやいや、絶対に違うよ?


 それ俺じゃないよ!

 言う人間違ってるよ!


 それ主人公とかに言うセリフなの!


 俺はただのモブ!

 主要人物たちの会話の間に叫んでいるだけの、立ち絵すら用意されていないモブだよ!

 

 俺は断じて王子様じゃない!



「あー、もう立てるよね? とりあえず手を離すよ」



「あっ……」



 どこか残念そうな声が漏れる。

 まるで手を離したくなかったかのように。


 考えすぎだと切り捨て、彼女の声を無視して話を進める。


「いやーごめんね、俺が声をあげちゃったせいで驚いて足を踏み外したんだよね。俺が原因で転びそうになったんだから恩に感じる必要はないよ。いいね? 恩に感じる必要はないからね? あと王子さまっていうのはたぶん君の勘違いだから。君の王子さまはあと15分後くらいに校門で訪れるよ。それじゃ、俺は急がなきゃいけないからもう行くね」


 早口でそう述べて足早にその場を立ち去っていった。


 急ぐ用事なんてものはない。

 これ以上メインヒロインと関わるのはまずいというだけのことだ。


 彼女が欲しいとは思ってはいるけど、さすがにメインヒロインはね……。

 主人公の恋愛を横からかすめ取ったようで気が引ける。


 そのまま走って学校まで行き、何事もなく学校にたどり着いた。


 ふう。

 ちょっとしたハプニングもあったが、これからは元通り。

 

 モブとしての日々に戻ることにする。








 春香はあのまま主人公といい感じになっただろうか

 教室でひとり考える。


 あと少しで始業のチャイムがなる時になってようやく主人公君は登校してきた。


 きっと校門にて春香と出会い、話をしていて遅くなったのだろう。


 それならいいのだ。

 ちょっとしたハプニングもありはしたものの、メインストーリーに沿うように流れは進んでいる。

 そのはずだ。

 


「よーしお前ら。席座れー」


 担任の教師がクラスに来てそう告げる。


 担任の名前は渋谷光一。

 通称シブセン。 


 こういうゲームにありがちな、「かったりーなー」とか「早く煙草吸いてー」とか呟くいかにもダメ教師って感じである。


 まあ言動こそろくでなしではあるが、授業は真面目にするし煙草も喫煙室で吸う。

 別にそこまでダメ教師ではない。


 なんなら生徒の悩みを聞いたり、担任の生徒に根気強く付き合ういい先生だ。

 


「担任の渋谷だ。今日からこのクラスを担当するからよろしくな」



「よーシブセン! また担任すか!」


「変わり映えしねー!」


 あはははは、とみんな笑う。


「朝なのにお前ら元気だなおい」


「元気ないのシブセンだけっしょ! 二組の担任見習って下さいよ!」


「うるせーあんな熱血教師になれるかってんだ。つーかこちとら二日酔いなんだから騒ぐな」



 訂正。

 ダメ人間かもしれない。



「始業式の前にホームルームで紹介しとくぞ。今日から転校生が来る。言っても無駄かも知んねーけど騒ぐんじゃねえぞ特に男子」


 

 後半部分で察するところがあったのだろう。

 男子たちがざわめき始める。


「なんすかシブセンその意味ありげな言葉。もしかして転校生って女子!?」


「そーだよ」


「もしかして可愛い!?」


「そーだよ」



「「「うおおおおおおお!!!」」」




 興奮して俺含む男子が雄たけびを上げる。



 男子高校生だからな。

 可愛い女子が転校するならテンションあがるぜ。


 俺は転校生が来ることもそれが可愛いことも知っていたし、なんならその名前まで知っているが、まあそこはノリだ。



「騒ぐんじゃねえよこら。静まれ静まれ。あーもうめんどい。ほら有栖川、さっさと入ってこい」



 シブセンに促され、ガラガラと扉を開けて入って来た春香。



「むっちゃ可愛いじゃねえかああああああ!」



 その容姿をみてさらにテンション上がる男子ども。

 スタンディングオベーションしてる奴もいる。



「うるせっ。悪いな有栖川。こいつらバカで猿なんだ」


「い、いえ。元気な人たちですね」


 そう言って苦笑する春香。


「とりま始業式まで時間ないし、自己紹介してくれや」


「はい。桜ヶ丘高校から転校してきました、有栖川春香です。今日からよろしくお願いします」


 そう告げ、お辞儀をする春香。

 そしてお辞儀から顔をあげた時。


 春香はこちらの方向をみて、驚きで目を丸くしている。


 え?

 もしかして俺?


 いやいや違うよね。

 俺の二つ前の席には主人公がいるから、そっちみて驚いているんだよね。



 そして、楚々とした姿にさらにテンション上がったクラスの男子どもは勝手に質問を始める。


「はいはい! 質問です! 彼氏はいますか!?」

「転校してきた理由は!?」

「好みの男性のタイプは!?」

「スリーサイズは!?」

「部活はどこに入るつもりですか!?」

「バンド興味ない!? 見るだけでも!」

「サッカー部マネージャー募集してるよ! どうどう?」



「え、えっと。転校は父の仕事の関係です。部活はまだ決めていません。好みのタイプは私を助けてくれる優しい人です。彼氏はいません。が――」



 そこで言葉を区切り、こちらを見る。

 はっきりと目が合う。

 

「気になる人はいます」



 …………え?



「おいお前らー質問タイムはあとにしろ。始業式まで時間ねえんだ。そういうのは休み時間にしろや

。あとスリーサイズ聞いたお前セクハラだから。後で説教な」


 シブセンが質問をやめさせ、春香を席に促した。


 ちなみに春香のスリーサイズは上から97、58、89だ。

 美少女ゲームなんでな。

 そういうのはホームページに載ってある。


「空いてる机あるだろ、あそこお前のせきだから座れ」


「はい」


 返事をして、春香は歩き始める。



 春香の席は教室の左端にある列だ。

 そして主人公(あとついでに俺も)の席は真ん中の列にある。


 原作では、席がある方向と異なるにも関わらず真ん中の列を春香は歩く。

 理由はもちろん主人公と話すため。


 そして春香は主人公に対して言うのだ。


「先ほど校門で会った人ですよね。同じクラスだったんですね」


 そう告げた後に主人公の手を取り握手を交わす。


 その親し気な様子にクラスメイトは阿鼻叫喚。 

 男子どもは嫉妬全開で騒ぎまくる。


「こら時宮! てめえいつの間にこんな美少女と出会ったんだこら!」


 という感じに。


 あ、時宮というのは主人公の名前だ。



 もちろん俺こと五所川原健人も騒ぐ。


「なんであんな冴えない奴が転校生の美少女と親しげに話してるんだよー!」


 という感じに。



 春香は真ん中の列をあるいてくる。


 原作通りの展開だ。

 疑う余地もない、ゲームで見た光景である。


 なんだ。

 さっきの自己紹介の時になにかおかしいものを感じたけど、気のせいだったか。

 このまま時宮のところまで行き、そこで主人公とメインヒロインの出会いの第二幕が開催される。


 そう思ったんだが……。



 春香はスタスタと歩き、主人公の時宮の席を通り過ぎた。


 そしてそのままこちらにくる。

 俺の席の前で立ち止まった。



「先ほど歩道橋で助けてくれた人ですよね。同じクラスだったんですね」



「え?え?」


 唖然とする俺の手を取られて、握手をさせられる。


「よろしくお願いします」


 ニッコリと笑顔になった。



 シーンと静まり返る教室。

 俺と春香のやりとりに呆気に取られているんだろう


 シブセンですら驚きのあまり呆然としている。


 誰も何も言わない。

 息遣いすら聞こえない。

 誰も息をしていないんじゃないかと錯覚するようなほど、教室は静まり返っている。



 耳が痛くなるほど無音だった。




「よ、よろしく……」



 精一杯の力で、そう小さく返答する。

 そして――、




「「「おい五所川原ああああああああああああ!!!」」」




 耳が痛くなるほどの大声がクラスに響いた。



「なに転校生と仲よさげに話してんだ!」

「なんでテメエみたいな奴が転校生の美少女と親しげに話してるんだよ!」

「てめえいつの間にこんな美少女と出会ったんだこらぁ!」

「歩道橋ってなんだぁ!? 美少女とどんな橋を歩道したっていうんだぁ!?」

「夜の橋を二人で歩道したっていうことかこらぁ!」

「何の橋を渡ったんですかねえ!」

「大人の橋を渡ったとでも言うつもりかぁ!?」



「おちつけお前ら。マジで落ち着け。あと歩道橋ってそういうんじゃねえから」


 

「「「これが落ち着いていられるかってんだよぉぉぉぁぁぁ!!!」」」



 うちのクラスがうるさすぎる。

 もう俺じゃあ収集つかないぞこれ。


 こんな時に生徒をまとめてくれるのが教師の役目のはず。


 頼む担任教師。

 どうにかしてくれ。


 頼みの綱のシブセンを見ると、もう諦めたのかスマホいじってた。


 あの野郎!


 てか仕事中に何してんの!

 やっぱダメ教師じゃねえか!



「チクショー、何でお前みたいな冴えない奴がモテるんだ!」



 それ俺の台詞!


 俺が言うべき台詞を俺が言われるなんて思わなかったよ!


 てかなんでモテてんのかなんて知らんよ!

 それは俺が聞きたいよ!


 マジでなんで!?


 あの一瞬に何を感じたんだよ春香は!



 そういや主人公は!?

 あいつ今何してんの!?


 そう思い主人公の方をみると、


「すごいね、五所川原君ってモテるんだね」


 と笑っていた。


 おい主人公!

 笑ってんじゃねえ!

 お前のメインヒロインが今他の男子と変なフラグ立ててるんだぞ!


「な、なあ春香」


「え、もう名前呼びなんて……、大胆ですね」



 しまった!

 つい名前の方で呼んでしまった!


 周囲からの殺気を感じる!

 てめえ転校生と仲良くしやがってという殺気が!



「ごめん、有栖川さん」


「春香で構いません。いえむしろ、そっちの方でよんで頂ければうれしいです」

 


 周囲の殺気が増す。


 やべえ。

 マジで殺される。


 早くどうにかしないと。



「歩道橋ってさっき俺が落ちそうになったのを助けた時だよね」


「はい」


「俺と有栖川さんが会ったのってその時しかないと思うんだけど、どうして好意を持ってくれているのかな?」


「あの時、命を助けて頂いた時。私は確信したんです」


「何を?」


「私の運命の人はこの方だと」



 殺気が更に膨れ上がった。

 

 ここは戦場か?

 それともデスゲームの会場か?



「有栖川さん。それは吊り橋効果っていって、恋のドキドキと恐怖のドキドキを勘違いしているんじゃないかな」


「そんなことありません。私は運命を感じたんです」


「運命と言えばね、そう。別の人にも感じたことはない? 例えば校門で誰かにあったとか」


 二つ前の席にいる時宮くんとか!


「校門ですか? 確か」


 チラリ、と時宮君の方を見る。


 そう、そうだよ。

 主人公だよ。

 彼とはどうなんだい、ねえ。


「そこの彼とは会いましたけど」


「その時運命は感じなかったか? こう、恋愛ゲームの主人公とヒロインのような」


「いいえ。感じませんでした。そのときにはもう、私の運命とは既に出会っていましたので」


 

 マジで?

 君の運命どうなってんの?

 


「これからよろしくお願いしますね」



 再度春香はにっこりとほほ笑む。




 いやいやいや!

 おかしいおかしい!


 なんで俺みたいなモブキャラがモテてるんだ!?



 そうツッコミたい気分であったが、しかし何も言うことはできず。

 また当然のことながら、俺の疑問に答える人間も存在しなかった。




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