表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎌太郎と芝居小屋  作者: 美藤蓮花
4/5

4

初めて芝居小屋に行ってから早いもので4日が過ぎていた。親分というのは子分がしっかりしていれば意外と気楽なものだったりする。


全て子分に任せても一家は成り立つ。特に鎌太郎の場合はそうで、よく、親の背中を見て子は育つというのが受け継がれている。親分がしっかりしていれば、子分もまたしっかりする。


だけど皆が親分みたいな訳ではない。締めるところはしっかり締める。それが出来る存在なのが親分なのだ。


「喜助、あの芝居小屋にまた行ってみるか。」


「はい。では支度をしてきます。」


出かける時の羽織を着て親分と喜助はまたあの芝居小屋へとやってきた。時間はいつもの時間より少し早めに到着した。


まだ来てないか。今日は来ないのかもしれねぇなぁ。


変なちっこいのを探していたら、ちっこいのが入ってきた。


そして鎌太郎の顔をみると、「あ、この前のオッちゃんやん!また来たん。」と話しかけてきた。


「よく来るのか?」


「いや、ちょっと病気したり、なんやかんやあって、なかなか来たいのに来れんかってん。」


「来たいのに来れなかった?」


「うん。こんなん、オッチャンに言ってもいいのか迷うけど、オッチャン、強そうやから言うわ。あのな、病気っていうのは心の病でな、それが何故かここの一座の事に関係してるみたいでな。ほかの一座みてもなんとも無かってん。芝居が好きで、病気になっても、それだけは見続けてたんよ。」


「心の病?」


「うん。最初にあったんは6年前。違う一座を見に行ってるのに、そこで、今の一座の喧嘩屋五郎兵衛が始まると思ってたらその違う一座の紺屋高尾が始まってな。頭がおかしな事になってん。役人を呼んで捕まえてくれと騒いで、いざ捕まるとなると嫌がって、最後は夜中に芝居小屋に入り込んでな。何をしようとしてたんか自分でも分からない。ただ、何度も何度も、お芝居を守りたいと言ってたのは覚えてる。その時10年間大好きだった役者が居てたんやけど、さぞや怖かったろうと今は思う。」


「よく治ったなぁ。」


「家族が心配して、医者にすぐ診せてくれて今がある。でもな、それから3年経ったころ。いまからちょうど3年前。この一座を見ている時にそうなった。今度のは不思議だったんだ。役者の声が聞こえて、怖い場面で目を閉じてたらいい。って。で目を閉じてたんだ。見たいのに、見れなくて、声だけ聞いてた。その芝居は見たことなくても、その芝居をしている声が迫真だったよ。舞を踊る楽しい場面に移っても、目は閉じたままだった。その時に声が聞こえてきて、ある役者以外の役者を見たらそのある役者が死ぬって言うんだ。でもな、めが開く瞬間があって、その時前を見たらそのある役者が出てきて舞ってたよ。で、また声がして、走って階段登って座ってろって。」


「入っちゃあいけない場所に居たんだな。」


「そう。で、その頃は家族に心配されていたから、まえみたいに1人で芝居を観に行く事を止められていて、母親が連れ戻しにきて、その時に、母親に持っていた嫌な事を全部ぶちまけて、そのあと母親に聞いたんだ。私の声が聞こえるか?と。母親は聞こえないと言って、腕がちぎれるかと思う力で引きずり下そうとした。何故かわからないけどその時に、母親に聞いたんだ。お母さんは私の幸せが何かしってるか?って。お母さんは知らんと答えたよ。なんかその時、すごく悲しかったのを覚えてる。」


「自分の子がいきなり頭がおかしな事になって、母親もびっくりしちまってたのかもしれねぇなぁ。」


「うん。あれから2年。私はその役者の事を忘れたかのように考えなくなった。ずっと心の底の方に隠してたんだ。」


「お前それ、その役者の事を好きなんじゃないか?」


とそう言った時に浮かんだ顔は、紛れもなくお花。鎌太郎もまた一年という長くて短い日々をお花を忘れたかのように過ごしていた。


「好きだった事も忘れて、その2年後に家族に連れられて行った時に、忘れていたものを思い出す事が出来たんだけど、急に家族が怒り出して、あの一座にはもう2度と見に行っちゃいけないって言うんだ。また病気になったらダメだとそう言って。辛かった。泣いたよ。もう行けないのが辛くて泣いてた。」


「でもお前、今観れてるじゃないか。」


「うん。ある一座を見に行ったら、ここの一座を見に行かないと!って思って。くるの怖かったし、心臓が口から出るんじゃないかと思うくらい緊張したけど、来て良かったよ。みんな、私の事を怖がって無かった。それが一番嬉しかった。あと、大好きな人を見ていられる。」


そう話すそのちっこいのが幸せそうで、鎌太郎の胸にはしっかりとお花の顔が浮かんできていた。


そんな会話をしていると、幕が上がったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ