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第11話

 ホラーゲームだけはやらない。

 そう宣言した俺に紫苑が指し示したのはマシュマロン。

 鳥ッターで質問を募集できるサービスだ。


「エカちゃんですわー!」


 だんだん雑になってきた。


「晶ですわ!」


 俺も雑に挨拶する。


「ではさっそくマロンを。『晶ちゃん応援してます。もっと罵倒してください。ところでなんで千代田区お嬢さま設定がいきなり埼玉お嬢さまになったんですか?』」


 いきなり答えにくいことを。

 そんなこと俺に言うなよ。


「わたくし、デビュー配信では事務所に所属しておりませんでしたの! デビューしたときに帝国貴族設定が生えましたわー!!! 悪いのは社長ですわー!!!」


『草』

『ぶっちゃけやがったwww』

『社長www』


「はい、次ですわ。『エカちゃん応援してます。ところでおつき合いしている人はいますか?』」


 エカちゃんこと、紫苑はにやあっと笑う。


「晶ちゃんとおつき合いしてます。むしろ嫁です!!!」


「いきなり嘘ついてんじゃねえ!!!」


『草』

『ガタッ! 百合か! 百合なのか!!!』

『うわあああああああ! 百合をよこせええええええ!!!』


「そんなつれないところが……大好き」


 これがエカちゃんの発言じゃなければなあ。

 一瞬その言葉が脳裏をよぎった。

 だが次の瞬間、ぐびっとドクペをラッパ飲みする姿を見て冷静になった。

 なんでこいつ、俺の前だとこんなに残念なのだろうか?


「ぷはーッ! 今日のおやつはさくらんぼのおもちですわー! コンビニで買いましたのー!!!」


「と、大量の駄菓子ですわー! エカちゃんお願い」


 どさーっと並べる。


「はーい、切り替えますわー」


 とカメラに切り替え山盛りのお菓子を映す。


『太るぞw』

『デブを恐れない勇気w』

『おっさんには無理な量w』


 そんなコメント見ながらラーメンスナックを開ける。

 すると紫苑のお腹がきゅるるーと鳴った。


『なんか鳴ったw』

『ちょ、お嬢さまw』

『フリーダムすぎるw』


 そんなコメントに気づかずに紫苑は言った。


「ラーメンスナック……晶ちゃん。お腹空かない?」


「なにがアイデアでもおありで?」


「たしかホットプレートとお好み焼き粉がそこに……ですわ」


『お好み焼き粉を常備するお嬢さまw』

『キャラ崩壊www』

『おーい、お嬢さまw』


 いきなり料理配信になった!

 お好み焼き粉は前に通販で買った大阪のやつだ。

 ホットプレートのスイッチ入れて油をひく。


「みじん切りチョッパーでキャベツとネギを刻んで~」


 紫苑はハンドルを引っ張るタイプのみじん切り器で野菜を刻んでいく。

 俺は粉に水を入れ混ぜていく。


「エカちゃん、山芋粉どこです?」


「ここにありましてよ!」


 山芋粉を入れて混ぜる。


「晶ちゃん魚粉増します?」


「入れますわー」


 お好み焼き粉には魚粉入ってるけど少し足す。


「晶ちゃん紅ショウガ入れますわー」


「エカお姉様! ラーメンスナック準備完了ですわー!」


「投入!!!」


 混ぜてから焼く。

 しばらく待つと焼けてくる。


「お姉様、焼けてきましたわ」


「晶ちゃん、生卵ですわー!!!」


 生卵を落として黄身をつぶしてからひっくり返す。


『お嬢さまの食いもんじゃねえwww』

『わいらは何を見させられてるんやwww』

『草草草』


 お好み焼きが完成したので切り分けてソースとマヨネーズをテキトーにかけて完了。


「ラーメンスナックお好み焼きの完成ですわー!」


『お嬢さまの霊圧が消えた……』

『こいつらwww』

『肉入ってないの?』


「お肉は……勝手に使うとお母上に怒られるのですわ……」


『……わかるwww』

『お母上www』

『お嬢さま成分皆無www』


 同時に滝のように投げ銭が。


「ちょ! なぜこのタイミングですの!?」


『お料理よくできたね代?』

『反応が見たかった』

『ついかっとして投げた。後悔してない』


「みなさんありがとうですわー!!!」


 紫苑はアバターで感謝を伝えた。

 こういう感謝を伝えたりするのは苦手だ。

 まだマネできん。精進せねば。

 カメラをオフにしてお好み焼きを食べる。


「エカちゃん美味しいですわー!!!」


 うん美味い。

 思わず笑顔になる。


「さーて、お腹もいっぱいになったことですし。晶ちゃんの配信環境整えますわー。モデルデータも来ましたの!」


「え? 聞いてませんわお姉様」


 マジで聞いてないよ。


「そりゃ、どうせわたくしが設定いたしますもの! ささ、今日の配信は終了して設定いたしますわー!」


 投げ銭してくれた人を読み上げて終了。

 紫苑が俺の家に来る。

 その頃には母親が帰ってきていた。


「あら紫苑ちゃんいらしゃい」


「ママさんお邪魔しまーっす!」


「二人ともえっちなことしちゃダメよ。お母さん気まずいから」


「してくれる勇気があればよかったんですけどねえ」


「しねえよ!!!」


 勝手知ったる我が家である。

 紫苑はサクサク俺の部屋に入る。

 俺の部屋に入ってチャットソフトからモデルデータをダウンロードし、あらかじめ設定した配信ソフトに設定する。


「はい、完了。あと、おうち3Dのデバイスの設定もするね」


 手足につけるタイプのデバイスを設定する。


「はい動いて!」


 パンチにキック。

 モデルが動く。

 特にキックはスネが肩に当たる。


「うーん、けんちゃん。相変わらず身体が柔らかい」


「まあな。格闘技やってるから……っておじさんのとこじゃん」


「そうなんだよねえ。もっと本格的なのやれば~。はいクルッと回転して」


「面倒だから他の道場行くのヤダ」


 クルッと回転する。


「うーんできた。けんちゃん昔から力持ちなんだしさー」


「そういや今日もそれで助かったわ。ほら、真田っていたじゃん。あいつが鼻血出して倒れてさあ、保健室に連れて行ったんだわ」


 すると紫苑のこめかみに井桁マークが出現した。


「もう一度言って。なに? 同級生の女の子を保健室にお持ち帰り?」


 ずいぶん間違っている。


「鼻血出したから運んだだけだって」


「このビッチ!!!」


「なにそれ!!!」


「うわあああああああん! お義母さん! けんちゃんが浮気したー!!!」


「間髪容れずに言いつけるな!」


「でもでもなんかうらやましいし、ムカつくんだもん!!!」


 なんでやねん。

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