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有終の美

作者: 白黒玄素

3作品目になります。

物語は()()()終わるべきだ。

なぁ、そう思わないか?

そう急くな、聞けって。

美しくってのは、何もハッピーエンドで終われって事じゃない。最後まで明確に記述するって事だ。

推理物なら犯人の正体を、恋愛物なら恋愛の果てを、ギャグ物なら笑えるオチをって具合にな。

もちろん、最後をあえて曖昧にする事で物語に深みや考察の余地を残す手法は存在する。

ただ、この手法で描かれた作品は、押し並べてそこに至るまでの積み重ねの末に生まれる曖昧さを明確に記述していると言えるだろう。

美しく終わらない作品はどれだけ過程が素晴らしくても唾棄すべき物だと俺は思っている。

無論、これは俺の主張であって万人に理解される物じゃない。

少し話が変わるが、人生ってのは物語によく例えられるよな。

じゃあ、人生というジャンルにおいて美しい終わりってのは何だと思う?

俺は、生きる物全てに等しく訪れる「死」こそ美しい終わりだと考える。

人の物語は死んでこそ輝き、真に脚光を浴びるのさ!!

……なんだよ?だから殺したのかって?

ハハッ!どうしても結論に結び付けたいんだな。

まぁ根幹にある考えは同じだが、たかだか10の物語を終わらせる為に白昼堂々と犯行するわけないだろ。

話を戻すが、人生の終わりが「死」だとするなら、人類という種の歴史を物語とした場合の終わりは何だと思う?

……「平和」?刑事さんはハッピーエンドが好きなんだな。

確かに一種の到達点ではあるだろう。だが、決して終わりではない。

熟考するまでもなく、その後も歴史が続いていく事は明らかだしな。

俺が考える終わりは、まぁ話の流れから分かると思うが、「絶滅」だ。

絶滅してしまえば歴史はそこで終わるからな。

さて、また話を変えよう。

といっても最初の話の続きだが。

物語は美しく終わってこそってのが俺の主張だが、名作と駄作の違いはどこで判断するかというと……終わり方だな。

ハッピーエンドなり、バッドエンドなり、終わる際の方向性によって作品の評価が決まる。

その点で言うと先日終わった10の物語はバッドエンドに分類されるな。

評価に限ってはこれからだろうがな。

……笑うな、か。正義感に溢れているな。

悪かったよ、真面目に行こうか。

では、終わる際の方向性によって評価されるが、名作か否かは読者次第だろう。

しかし、世の中には圧倒的大多数に受け入れられる傑作が存在する。

それらの作品は何で多くの人に受け入れられると思う?

それは、終わりのインパクトと納得出来る程の道理が故だ。

インパクトがでかい程人は惹きつけられる。

納得出来る道理ならどんなに個人的に合わなくてもその終わりしかないと思ってしまう。

この二つが揃えば、ある程度の好みのずれは許容出来てしまい素晴らしいと感じてしまうわけだ。

これも持論だがな。

だが一理あるだろ?

……分からないでもないって?初めての共感だな、嬉しいぜ。

さて、ここからが本題だ。

前置きが長くて悪いな。

俺が終わらせた10の物語だが、今の所通りすがりの凶悪犯に不幸にも殺されてしまった可哀そうな人々だ。

インパクトはあるが、納得のいく道理が無い。これだと、目を惹きこそすれ駄作だと言われるな。

だが、彼らに殺されるだけの理由があればどうだ?

例えば、実は被害者側は殺人グループで加害者にとって親の仇だとかな。

もちろん、実際は違うが。

これだと、名作とはいかないが駄作では無くなるだろう?

これは主に被害者側に道理の通る設定を付け加えたわけだが、加害者側に設定を付け加える事でも同じように評価を変える事は可能だ。

……正解だ、今から語る事が殺した理由だよ。

少しだけ戻るが、人類の美しい終わりは絶滅する事だと定義しよう。

この場合、どのような絶滅の仕方が納得がいくと思う?

進化の末に種としての機能が無くなり、個になる?

地球外生命体、進化した既存の種等との生存競争の末に絶滅?

色々考えられるな。

今の所一番あり得そうなのは過剰な発展に伴う副作用的な環境変化によって絶滅しそうだな。

地球温暖化が最たる例だ。

この終わり方だと、納得はいくよな。

だが、インパクトが無い。

まるで面白くない、名作とは言えないな。

人類もそれに気づいている。

気づいた結果、有終の美を飾る為に人類史という物語の引き延ばし作業を始めた。

引き延ばしは基本的に読者から嫌われる行為だ。

特にこの引き延ばしは自己の為だけの行為だ、醜いと言わざるをいない。

そろそろ山場だぞ、心して聞け。

じゃあ、インパクトがあって、納得のいく終わりは何だろうな?

圧倒的個の狂気が伝染し、全人類が互いに命を奪い合った末の絶滅ってのはどうだ?

……圧倒的個が俺かって?

そうだな、物語上は俺だろう。

だが、実態としてはそこまで圧倒的個では無いよ。

俺一人が持ってる狂気なんて精々が異常な思考をしているぐらいだ。

しかし、狂気は伝染するたびに、増幅され、研ぎ澄まされ、純度を増していく。

伝染した個々人それぞれの思考が混ざっていくからな。

面白いと思わないか?

ある一人の外れた思考による事件が、更なる事件を呼び、それらの事件がまた事件を呼ぶ。

この繰り返しが全世界に広がり、最終的に人類は種として存続する為の最低限の数を維持できなくなるのさ!!!

彼ら10人はその為の生贄だよ。

一見無作為に選ばれた人物だが、彼らは交友関係、思考を元に選別された10人だ。

彼らの事件がより多くの事件を呼ぶように入念な下準備もした。

直ぐには事件は起きないだろう、だが植え付けられた種はいずれ芽吹く!!

…………このような設定がついたなら彼らの物語は面白い物と言えるかもな。

怖い顔するなよ、イケメンが台無しだぜ。

どうだい、一人の狂人、まぁそこまで狂ってるわけでも無いが、によってもたらされる人類の終わりは?

……絶対にさせない、止めて見せるって?

………………ハハハッ!!!マジになるなって、冗談だよ、冗談!!

全部冗談さ、からかいがいのある人だな。

ただの衝動的な殺人だよ。

日頃のストレスが溜まってついやっちまったのさ。

それが真相で全てだよ。

物語がどうのこうのという長い話も全部今考えたでっち上げさ。

おいおい、悪かったって、怒るのも仕方ないがよ。

手を上げちまったら、刑事さんの責任問題だぜ。

ふぅ……しかし、今日は楽しかったぜ。

明日の死刑の前に愉快な思いが出来たよ。

ありがとうな、刑事さん。



その後、あの男の死刑は恙なく実行された。

いくら遺族に事件の要因を伝える為に必要だったとはいえ、あのような男の話など聞くべきでは無かった。

思い返しても腹が立つ。

事件は解決した為もうこの刑務所に用事は無いのだが、何故か呼び出されてしまった。


「どうも、刑事の小田です。こちらに向かうよう伺ったのですが、用件は何でしょうか?」

「どうも、お疲れ様です。看守の森田です。

実は、先日の死刑囚に最後に手紙を出したいと言われたので書かせたのですが、宛先が小田さんとなっていた為、お渡ししようと思いまして。」

「成程、そんなことが。分かりました、既に事件は解決しましたが、まだ報告書の記載が終わっていないのでそちらも受け取らせて頂きます。」

「お願いします、中身は軽く改めさせていただきましたが、特に不審な文も無かったのですぐにもってきます。」


どうやら問題が起きたわけでは無いらしい。

あの男からの手紙等あまり読みたくはないが、報告書に記載する為にも読まねばならないし、警察に在籍する身として犯罪者とはいえ故人からの手紙を無視するわけにもいかない。

…はぁ、気が進まないが読むか。



何てことの無い普通の手紙だった。

これから死刑に向かう気持ちや最後に話せて良かった等、当たり障りの無い事で埋められていた。

一つ気になるのは手紙は二枚に渡っており、二枚目には最近冷えてきたから体をよく温めるようにという忠告だけ。

少し気持ち悪い終わり方だが、まぁ手紙を書くのが下手だと思えば別段おかしくもないだろう。

……………………本当にそうだろうか?

あの男は物語の終わり方に拘りを持っているようだった。

冗談だと言っていたが、あれ程の熱量を演じるのは難しいだろう。

温める……か。

ちょっとした気まぐれだった。

念の為の確認、しなくとも事件は解決で良かった。

しかし、どうしても違和感が拭えず、手紙をライターで炙ってしまった。

そこには、


よう、刑事さん。

気づいてくれたようで嬉しいぜ。

あんたがこれを読んでいるって事は、11個目の物語は終わったんだな。

さて、俺から刑事さんに伝えたい事がある。

心して聞いてくれ。

俺は十人殺して死刑になった。

その内九人は文字通り無差別殺人だ。

だが、内一人は違う。

その一人はとある事件の生き残りだった。

只の事件じゃない。

警察という機関が自身の保身の為に無かった事にした事件だ。

まぁ、生き残りがいる事は不都合だったって事だな。

事が露見する事を恐れたある警察関係者が俺に依頼してきたのさ。

方法は何でもいい、殺してくれってな。

これを信じるか信じないかはあなた次第だ。

犯罪者の戯言だと思ってもらっても構わない。

だが、もし事の真相を追うのなら気をつける事だ。

あんたは気の良い人だった。あんたに12個目の物語にはなって欲しくないからな。

それでは、改めて良い物語を。


警察関係者による暗殺依頼。

馬鹿々々しい…………一笑に付すべき事だろう。

だが、炙り出しという方法にすがってまで伝えようとした情報だ。

悪戯だと切り捨てるには手が込んでいる。

……まだ決断は下せないな。

警察内部に少し注意を払うか。

とにかくこの手紙は捨てるべきだな。

幸い二枚目はたった一行だ。紛失したとしても問題はないだろう。

このままライターで燃やしてしまおう。

あの男に踊らされているようで腹の立つが事実だった場合は大問題だ。

まずは直近の捜査資料でも漁るか、忙しくなりそうだ。



11個目の種は植え付けられた。

正義感が強く、かつ清濁併せ飲める刑事。

大きく場を動かしてくれるだろう。

70億の物語が終わるまで何十年、いや何百年かかるだろうか?

だが、確実にその時は来るだろう。

願わくばインパクトの大きく、道理に満ちた()()()終わりであれ。

良かった所や悪かった所等、感想頂けると幸いです。

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