百万人目の豪華ミリオン特典
真っすぐ進み、「六条大路」と交わった地点で、頭上に黒い群れが現れた。
八羽でカアカアと鳴きながら、円形を描くように飛び回る。
「放し飼いにされているのかしら??」
「建物の中で、カラスを放つものだろうか……」
ここは「鳥類博物館」ではなく、「ふれあいバードパーク」とも違うのだから、当然のこと、二人は疑問に思わざるを得ない。
突如、カラスの一羽が、オチャコの肩に舞い下りてきた。
「きゃ!」
咄嗟の事態のため、短く悲鳴を上げるオチャコである。
その一方で、光男さんが冷静沈着に観察して、真相を突き止めた。
「正体はドローンだね」
「え、偽のカラスってこと??」
「うん。本物そっくりに作られているよ」
「そっかあ。あたし、攻撃されると思って、ちょっと怖かったわ」
「僕がもっと早く気づいていれば、茶子さんに、そんな嫌な思いをさせないで済んでいたよ。ごめんね……」
「光男さんは悪くないわ。あたしに洞察力が欠けていたのよ」
お互いを思いやる二人なのだった。
「大都会の街中には、カラスが多く出没しているのかな」
「うん。東京都内でも、見掛けることがあるわ」
「最近では、ウミネコもいるみたいだね?」
「そんなところもあるみたい。ノラネコもいたりするし」
他愛ない会話をして歩き、「朱雀門」に着いた時、背後から声が届く。
「お待ちよ、ご両人」
「えっ!!」
「なに??」
不意を突かれ、ふり返ってみると、枯れた低木のような姿をした老婆が、今にも折れそうに、ポツンと立っていた。
光男さんが即座に問い掛ける。
「あなたは、先ほど入場の対応をして下さった、係員の方ですよね?」
「そうだとも」
「なにか、僕たちにご用ですか?」
「ああ、ご用だよ」
「それは一体、どのようなことでしょうか?」
「知りたいのかねえ」
「えっ?」
困惑の気色を隠せない光男さん。なにか業務上の連絡があるのだったら、迅速に伝えることが、係員としての務めだから、これは無理もないこと。
光男さんに代わって、オチャコが老婆を問い質す。
「お婆さん、あたしたちに、どんな用があるのよ!」
「ふぇっへへ。漂え、時の波間を!」
「え、なに!! もしかして、あなたって、悪い魔女なの!?」
オチャコが、あわてて尋ねた。
「その通りだよ。お前たちを、平安時代で永遠に彷徨わせてやるのさ。だから、この令和には、二度と戻れないからね。ふぇっへっへ」
「どうしてあたしたちが、そんな酷い目に遭わないといけないのよ!」
「ここに入場した百万人目だからだよ。つまり、豪華ミリオン特典さ」
「えっ、なんですって!」
「そんな理不尽な!」
二人が驚愕するのも無理はない。なぜなら、博物館でも遊園地でも、百万人目に入場したお客さんには、本人が嬉しいと思えるグッズや年間パスのような品目が進呈されるはずだから。
オチャコは、毅然とした態度で苦情を申し立てる。
「遠い昔を漂わされ、この時代に戻ってこられない特典なんて、今まで聞いたことがないわ! そんなの罪人の島流しより、千倍も酷い仕打ちよ!」
「そりゃよかった。せいぜい苦しむがよい、ふぇっへへへ~」
憎らしく笑う悪魔女が、忽然と消え失せる。
目の前に広がっている景色が大きく歪み、オチャコと光男さんの意識が遠のいてしまうのだった。
★ ★ ★
二人が気づくと、地面に倒れていた。アスファルトで舗装された道路とは違う砂利道だけれど、とても綺麗に均されている。
先に立った光男さんが、オチャコに手を貸してくれる。
「茶子さん、怪我などは、していないだろうか」
「うん、あたしなら平気よ。光男さんは?」
「僕の方も、どうということはなかったし、不幸中の幸いと思えるよ」
「そうねえ」
オチャコも立ち上がり、少なからず警戒しながら辺りを見回す。
頭上に天井がなく、満天の星空が広がっている。道路も広いし、先ほどまで二人のいた、「Just☆HeyAn館」の建物内でないことは、火を見るよりも明らか。