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スリィ×プラネット~幼馴染のためなら俺は宇宙すら翔ける~  作者: 犬鴨
第一部 カレッジ・シチヨウ
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あの日の出来事②

「ほんっと、信じられない! 普通、階段であんなことする!?」

「す、すみませんでした……」


 ようやく事態が落ち着いたのか、3人は再び階段中央に集まっていた。そして今、怒りで声を荒げるサイトから、カケルはお叱りを受けている真っ最中だ。

 やはり先ほどの騒動は、カケルによって引き起こされたようだ。

 一連のからくりは、PMCの悪用によるものだった。足音には、反響音を録音したものを。そして、男の笑い声は、過去にダウンロードしていた、ピエロの動画から抜粋したのだ。


「カケル、なんであんなことしたの? 本当に怖かった……」


 絶叫した際に、本当に涙を流してしまったのか、アリアの目は少し赤くなっていた。


「ぐぐっ……。つい、魔が差したというか、何というか……」


 カケルは後ろめたさや、涙目のアリアを直視できないのか、気まずそうに視線を逸らしていた。


「そんな馬鹿、放っておけばいいよ。大方、アリアが驚く姿を見たいと思ったんでしょ。思春期や不器用な人によく見られる、『反動形成』と呼ばれる行為だね。要するに、カケルはアリアに構ってもらいたくて、しょうがないってこと。まぁ、人間の本能には抗えないよね? カケルも立派な人間だもんね?」

「サイト、おまっ……。本当に容赦ないな!」


 突き落とされかけた挙句、不必要な労働を強いられたサイト。その怒りは、今や静まることを知らない。

 カケルは悔しそうにサイトを睨み付けた。しかし、分析が図星だったのか、その頬はほんのり赤っている。

 穴があったら入りたい。

 しかし、不運にも、この場所はそれを許してくれなかった。




 カツン、カツン、カツン――。

 再び階段を下り始めた3人。先ほどのような悪ふざけが無いため、とても静かだ。


「あのー、サイトさん? この階段は、どこまで続いているんですかね?」


 沈黙に耐えきれなくなったカケルが、おずおずとサイトに声を掛ける。

 カケルはここにきて、あることに気付いた。支柱の位置を目指すのであれば、人工プレートを真下に突っ切る必要がある。つまり、その深さは計り知れないということだ。


「まさか。仮にそうだとして、僕が知ってて提案すると思う?」


 自信満々に返すには、少々不自然な言葉の内容に、カケルが不満気に眉をしかめた。

 しかし、サイトの言う通りだった。数えきれない階段を、サイト自身が喜んで下りるとは思えない。

 そんな会話を交わしていると、すぐにその答えが姿を現した――階段の先にあったのは、エレベーター乗り場だ。


「なんだ。エレベーターがあったのか。どこまで歩くのかと、冷や冷やしたわ」

「次に何が現れるか分からない方が、いかにも『探索』っぽいでしょ」


 珍しく年相応の発言をするサイトに、カケルは目を瞬かせた。

 いつもと変わらない淡々とした態度だが、サイトも内心ではこの地下探索を楽しんでいるようだ。

 エレベーターは、地上と最下層だけを繋ぐ、とてもシンプルな造りをしていた。そして、3人を乗せると、徒歩とは比較にならない速度で、地下へと下りていく。


「エレベーターまでが、想定よりも長かった。もっとマシな設計があったんじゃないの……。それに加えて、想定外のトラブル」


 貴重な体力が消耗され、サイトは機嫌が悪そうだ。その言葉の節々には、棘が込められている。

 そんなサイトの棘を食らいながらも、カケルは平然とした様子、さらには、満面の笑みまで浮かべていた。サイトが疲れる様子は、カケルにとっては面白い光景なのだ。


「お疲れさま、サイト。このエレベーターの先に、海がある?」

「そのはずだよ。ほら、アリア。もうすぐ到着するみたい」


 エレベーターが失速すると同時に、窓から見えていた風景がガラリと変わった。コンクリート続きだった壁は無くなり、広々とした空間が映し出される。

 そして、エレベーターが止まった。ついに最下層に到着したのだ。




 最初に3人を歓迎したのは、全身に吹き付けてくる風だった。独特な香りを漂わせ、大量の水分を含んでいるのか、妙な生暖かさを感じさせる。地上とは異なるその風は、すぐ近くに海があることを知らせていた。

 しかし、この場に居た誰もが、初めて嗅ぐ生臭さに、顔をしかめている。


「くっさ! それにベタベタする! なんじゃこりゃ!?」


 カケルは思わず鼻を摘み、くぐもった声を上げる。しかし、その表情はどこか楽し気だ。

 カケルは、勢いよくエレベーターから飛び出した。そして、乗り場を囲うようにして設置されたフェンスに飛びつくと、そこから顔を覗かせる。


「見ろよ、アリア! 海だ!」


 目の前に広がるのは、辺り一面が橙色の鉄骨だけで構成された、まるで巨大な建物の骨組みを見ているような場所だった。

 支柱同士を繋ぐ足場のすぐ下には、単純な青とは言い難い、深い深い青色。そして、その表面の全体が、小刻みに揺れている――海だ。待望の海が、カケルたちが居るすぐ真下を流れているのだ。


「すごい……。すごい、すごいねっ! あの青いのぜんぶ、海!?」


 アリアもカケルの後を追うように、手すりから顔を出す。初めて目にする海に、アリアの大きな目はさらに見開き、その赤茶色の瞳を輝かせた。


「現物は初めてだけど、想像よりもずっと『作業現場』って感じだね」


 サイトは海よりも、最下層の構造を珍しそうに観察していた。

 政府が管理する場所は、情報があまり公開されていない。星外戦争以降は、めっきりとその数を減らしてはいるが、テロ対策などの目的があるのだろう。

 サイトが、この場所の情報をどのように入手したかは不明だが、自ら足を運ぶことで、新たに得る情報も多いのだろう。


「私、もっと近くで海を見たい! 下に行ってくる!」


 下層に続く階段を見つけたアリアは、軽快な音を立て、一気に階段を駆け下りていった。


「アリア、気を付けて! 足を滑らせたら、危険だから!」


 慌てて注意を促すサイトに対し、「大丈夫ー!」と叫ぶアリアの声が微かに響き渡る。

 風や、波が支柱にぶつかる音など、ここら一帯を占める騒音は、なかなかに大きい。


「アリアがあんなにはしゃぐなんてな。海がそんなに嬉しかったのか? 俺たちも下に行こうぜ」


 いつもとは違い、その髪をせわしなく揺らし続けるアリアを、カケルは嬉しそうに眺めていた。


「とはいえ……。見れば見るほど、かなり怖いな」


 さらに下の層に足を踏み入れたカケルは、恐る恐る足元に視線を落とした。

 細かい金網の隙間からは、真下の海が筒抜けとなっている。手すりとなるフェンスも、横に数本のパイプが固定されているだけだ。従って、頭を無理矢理突っ込めば、通り抜けることも可能だ。

 無論、故意に馬鹿なことをしない限り、落ちるなんてことは無い。しかし、嫌でも想像してしまうそれに、カケルはゴクリと息を飲み込んだ。


「機材のメンテナンスくらいでしか、人が訪れない場所だからね」


 足がすくんでいるカケルの横を、サイトが軽快に歩いて行く。こういった場所は苦手そうだが、案外そうではないらしい。というよりも、今は目の前に広がる「新発見」に夢中のようだ。

 カケルは辺りを見渡した。本当にただ鉄骨が続いているだけで、人が作業をする制御室のようなものも見当たらない。加えて、地下通路とは異なり、この最下層は他エリアにも繋がっているようだ。その証拠に、カケルたちが居る足場は、先が見えない場所まで続いていた。


「サイト。お魚さん、いる?」


 すると、手すりから顔を出し、海を眺めているアリアが問いかけてきた。

 そのアリアの危なっかしい姿に、カケルが後ろで肝を冷やしていたことには、誰も気づいていない。


「ここから見える範囲にはいないよ。生物を通さないよう、海の中にアクリル板が設けられていたはず。この辺りの機材に、悪影響を及ぼさないための予防策だね」


 サイトの回答に、アリアは残念そうにガックリと項垂れた。

 海といえば、海洋生物。しかし、目の前の海では、残念ながらそういった光景は見られないという。


「仮に、この場所にクジラやサメが現れたら困るでしょ? でも、海水が通る隙間はあるから、もしかしたら小魚ならいるかもね」


 それを聞いたアリアは、嬉しそうに胸の前で両手を合わせた。そして何を思ったのか、足場に座り込むと、1番低い隙間から顔を出し、手を伸ばし始めたのである。


「いやいや、流石にそれは危ないからな! 海に落ちたいのか!?」


 それを見ていたカケルが、慌ててアリアの傍に駆け寄った。そして、その小さな体が海に落ちてしまわないよう、後ろからしっかり体を支える。


「届かなかった……」

「サイト。ついに、アリアが馬鹿になっちまった」


 どうやらアリアは、海面に触れたかったようだ。

 しかし、いかに海が真下にあるとはいえ、足場と海面の間には、手が届かない程の距離が保たれている。


「楽しそうで何より。あと、どさくさに紛れてセクハ――」

『誰だ!? おい、今この辺りから、子供の声が聞こえなかったか!?』


 すると突如、カケルたちの耳に、心当たりのない第三者の声が飛び込んできた。

 その声の大きさや太さから、声の持ち主が成人男性であることは間違いない。


(まずいよ。こんな場所で見つかったら、大事になっちゃう)


 サイトは急いでその場にしゃがみ込むと、声を押し殺しながら、カケルとアリアの傍に駆け寄った。

 相手が何者かはわからないが、カケルたちが不法侵入をしている事実は変わらない。


(……こっちだ! ついてこい!)


 すぐさまカケルは、声、そして足元から見える景色を頼りに、男の居る位置を探し出す。そして、その姿を捉えるとすぐに、死角となる位置に2人を誘導した。

 カケルは、支柱の裏から慎重に顔を覗かせると、引き続き男の様子を伺った。

 そのすぐ隣では、サイトとアリアが、出来る限り音を出さないよう、じっと口を両手で覆っている。


「先輩、どうかしましたか? というか、こんな所に子供? そんなの居るわけないでしょう」

「おかしいな。確かに話し声が聞こえたんだが……」


 すると、さらに別の声、そして足音が聞こえてきた。どうやら今この場には、カケルたちの他に2人の大人が居るようだ。

 最初に叫んだ方の男は、不思議そうに首を傾げながら、先ほどまでカケルたちが居た場所にも足を運んでいた。

 もし、あの場所から移動していなければ、鉢合わせは免れなかっただろう。


「海面に風が吹きつけた音か何かでしょ。先輩は働きすぎなんですよ。休んでください」

「煩いぞ。元はと言えばお前が、フランジの数を間違えていなければだな――」


 次第に遠ざかっていく足音に、カケルはようやく溜め込んでいた息を、一気に吐き出した。

 彼らの共通の服装、そして話の内容からも、ここの作業員であることは間違いないだろう。


「心臓が止まるかと思った。というか実際に息は止まった。止めてたし」

「こ、怖かった……。カケルが誘導してくれなかったら、危なかったね」


 カケルのすぐ隣から、大きなため息が2つ聞こえてきた。

 サイトとアリアは、まるで緊張の糸が切れたのかのように、足場に腰を下ろしながら、手すりにもたれかかっていた。


「今日はこういうのばっかりだな。占いが最下位だった奴でも居るのか?」


 カケルが笑いながら、冗談を飛ばす。笑っていられるのには、どれも「最悪」の結果を免れていたことが大きい。

 そして、カケルも2人と肩を並べるようにして、足場に座り込んだ。後ろを振り返ると、フェンス越しには海が広がっていた。海も綺麗だが、柱に反射した淡い光の揺らめきも幻想的だ。

 今は何時だ? そろそろ戻らないと、まずい時間か?

 普段であれば、空が色で時間を教えてくれる。しかし、今日は見えない分、いつもよりも遅い時間になっているかもしれない。

 カケルは、帰る話を切り出そうと、海から視線を外そうとした。すると、フェンスのある部分が、目に飛び込んできた。


――煩いぞ。元はと言えばお前が、フランジの数を間違えていなければだな。


 カケルの目に映っているのは、パイプ同士を繋ぎ合わせているフランジの部分。本来であれば、全ての穴にネジがはまっているはずだが、今はそのほとんどが、空洞になっている。それに加え、唯一ネジが刺さっている箇所も、緩んでいるのか、目に見えてネジが浮き上がっていた。

 先ほどの男の発言、そしてカケルが見ているフランジ。それらが意味することを、カケルの頭が瞬時に理解した。しかし――。


 バキッ!!!


 カケルが慌てて体を起こそうとした瞬間、背後から、何かが壊れたような音が鳴り響く。

 ほんの一瞬、しかし、その少しのタイミングが間に合わなかった。

 前に進みたいと願う意志に反し、カケルの体は、どんどん後ろに引っ張られていく。


 ドン! 

 

 次にカケルが感じたのは、背中の強く叩かれる鈍い衝撃だった。


「……ぐっ!?」


 その力強さに、カケルの口から思わず声が漏れる。

 前のめりの状態で、カケルは足場である金網に突っ込んだ。顔面からの着地を回避するよう、寸前で手を付くことは間に合った。

 四つん這いの態勢で、カケルの目に、ある光景が飛び込んできた。


「……っ!」


 それは、外れたフェンスと共に、落ちていくアリアの姿。

 アリアの左手は、不自然にも、カケルに向かって真っすぐと伸びていた。その目は大きく見開き、口は薄っすらと開かれている。


「ア――」


 カケルが声を出そうにも、時間が足りなかった。

 アリアは、カケルの目の前で、海へと真っ逆さまに落ちていった――。



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