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スリィ×プラネット~幼馴染のためなら俺は宇宙すら翔ける~  作者: 犬鴨
第一部 カレッジ・シチヨウ
6/41

大学の友人

 天気は快晴――。

 春の日差しは、覆い茂った新緑に反射して、その眩しさを一層強くする。

 今朝ぶりに外に出たカケルは、明るさに目を慣らすよう、何度も瞬きを繰り返していた。

 今の地球は、オゾン層の破壊により、気軽に出歩くことが出来ない。住宅街や繁華街など、天窓が設置された限られた空間のみ、人は自由に行動することが許されている。

 つまり、こうして気兼ねなく、直射日光に当たることが出来るのは、シチヨウを覆うようにして設置された天窓――つまり、石脈のおかげだ。

 校舎の出入口から中庭までは、広大なレンガ道が敷かれていた。そして、中庭の中央には、大きな円を描くようにして、広場が設置されている。

 食堂に続く人気スポットなのか、広場にはたくさんの人が集まっていた。談話や食事、中には昼寝をする者も、ちらほらと見かけられる。

 しかし、カケルは広場で足を止めることも無ければ、迷わずその先へと進んで行く。

 広々としたレンガ道は次第に細くなり、脇道に様変わりしていく。そして、ついに道が途切れた。

 それでも、カケルは歩みを止めない。そして今度は、芝生を踏みしめながら突き進んでいった。




 たくさんの木々が覆い茂った場所を抜けると、ぽっかりと開けた空間が現れた。木と植木に囲まれることで、周りの他生徒の視線や、音からも遮断されている。しかし、この場所もれっきとした中庭のようだ。その証拠に、2台のベンチが、ぽつんと設置されていた。


「ねぇ。あれ、カケルくんじゃない? おーい! シャルロット、カケルくんが来たよ!」

「わざわざ言われなくとも、わたくしにも見えてますわよ!」


 カケルの姿が見えると同時に、その場所でくつろいでいた、3つの人影が動き出す。

 ベンチで肩を並べる2人は、器用に会話を交わしながら、カケルへの声掛けを同時にこなしている。

 すぐ傍では、芝生に腰を下ろしたカークが、バスケットボールを片手で回していた。まるで、プロのアスリートが休憩している姿さながらだ。


「これはこれは、皆さま既にお集まりのようで。ってか、俺が最後だった? みんな暇人すぎんだろー!」


 カケルは楽しそうに皮肉を飛ばしながら、カークたちと合流した。

 今はまだ、午後が始まったばかりの時刻だ。

 このような場所でのんびり過ごしている時点で、この場にいる全員が、授業に出る気がないということだ。


「ねぇねぇ、聞いてよカケルくん! ちょうど例の『旅行』について話してたんだけどね。どのエリアを中心に回ろうかなって!」


 すると、中でも一際威勢の良い、小柄な少女が声を上げた。

 ふわふわのウェーブがかかった、ローズピンクのショートカット。加えて、ぱっちりと大きな青い瞳。ワンピースから顔を出した、真っ白な襟とリボン姿は、まるでおとぎ話に出てくる人形のような容姿をしている。


「へぇ。その話を詳しく……。と、その前に。1つだけ突っ込んで良いか?」


 そう言いながら、カケルは腰に手を当て、体を屈めた。そして、臆することなく、顔を少女に急接近させたのである。


「ちょっと、カケル! 貴方、何を……!?」


 カケルの大胆な行動に、隣に座っていた別の女性が、驚きの声を上げた。


「なぁに? カケルくん」


 しかし、カケルに顔を近付けられた少女は、慌てる様子を一向に見せない。むしろ、余裕があるのか、吊り上げた口元に指を当て、可愛らしく首を横に傾げていた。


「このメンバーでは唯一、お前だけは暇じゃないはずなんだが……。なぁ? マシュー?」


 カケルは目の前の少女を「マシュー」と呼んだ。おそらく、それが少女の名前だからだろう。

 しかし、それではおかしい。何故なら、「マシュー」とは、世間では一般的に男性の名前とされているからだ。

 つまり、女性顔負けの容姿を兼ね揃え。あまつさえ、声や仕草といった、いたるところに「可愛い!」が凝縮された少女……いや、少年は、正真正銘の「男」である。


 少年の名前は、マシュー・M・ハワード。そして、ハワードといえば、知る人ぞ知る世界有数の大財閥――「ハワード家」のファミリーネームと同じだ。そう、マシューはあの「ハワード家」の1人息子なのである。

 ちなみに、趣味でこのような恰好をしているが、本人曰く、恋愛対象は女性だそうだ。


 そして、カケルの言う「暇人」とは、既にほとんどの単位を取得、かつ進路が決まっている4年生。つまり、大学生活に余裕のある者のことを指している。

 カークと、もう一人の女性は該当するが、残念ながらマシューは該当していない。


「やだなぁ、僕はこうして今日も大学生活を必死に頑張ってるよ? 後輩たちと一緒に写真を取ったりー、こうして旅行の計画を話し合ったりー」

「シャルロット。こいつ、午前の授業は受けてた?」


 カケルは楽しそうに語り始めるマシューをスルーし、隣に座っているシャルロットに声を掛けた。


「えぇっと。わたくしの知る限りでは、ずっと此処に居ます、わね……」


 すると、シャルロットの声は次第に勢いを無くし、最後には聞こえない程の小さな声になっていく。


「わ、わたくしとしたことが……。傍に居ながら、そんな単純なことに気付けなかったなんて!」


 ここに至って、ようやくシャルロットは、マシューが授業に出席していない深刻さに気付いた。ただでさえ色白の肌から、さらに血の気が引いていく。


「も、申し訳ございません! 全てはわたくしの責任ですわっ!」


 どういう訳か、シャルロットがカケルに頭を下げ始めてしまう。それも、深々と綺麗な直角を描いて。

 肩付近で左右均等に結われた赤茶色の髪が、重力に逆らえず垂れ下がっている。


「あはは! シャルロット、カケルくんに怒られてるー!」


 事の原因であるマシューは、反省する素振りもなければ、呑気に笑顔を浮かべていた。


「いやいや、シャルロットが謝るのはおかしいだろう。全部マシューが悪い」


 シャルロットの愚直な誠実さに対し、カークは冷静な突っ込みを。


「ちょ……。落ち着け、シャルロット! なんでお前が謝る!? 悪いのは横でへらへら笑っている奴だから!」


 カケルは必死にシャルロットをなだめた後、鋭い目つきでマシューを睨み付けていた。


 マシューとは対照的である真面目な女性は、シャルロット・クラウゼ。その丁寧な言葉遣い、気品ある仕草から、育ちの良さが伺える。実際にシャルロットは、ヨーロッパ圏のとある王族の血筋を本当に引いている。つまり、王女なのだ。

 しかし、王族とはいえ、国という存在が無くなった今では、かつての権力は無いに等しい。だが、シャルロットの家系は慈悲深く、また、民からも深く愛されていることから、今も地元ではその血筋を重んじられている。

 シャルロットは己の見聞を広げるため、このシチヨウに留学している。ここで得た経験は、いずれシャルロットにより故郷に持ち帰られ、活かされていくのだろう。


「ところで、さっきの話題に戻すね! 話し合った結果、『日本エリア』にしようと思うんだけど、どうかな? 日本出身のカケルくんたちは、嫌だったりする?」


 まるで何事も無かったかのように、話を進めるマシューに、カケルは思わず絶句した。


「こ、こいつ。相変わらず図太い性格してやがる……!」

「諦めろカケル。これがマシューだ」


 先ほどからマシューが話している「旅行」とは、仲間内で企画した卒業旅行のことだ。参加メンバーは、この場に居る4人とサイト、そしてあと1人を含む、計6名で予定されている。行先は、世間でも今1番注目されている観光スポット――「フロントラリー」だ。

 「フロントラリー」は各惑星の歴史、そして、交流をコンセプトに観光開発が手掛けられている小惑星のことである。「L-PLN6」と呼ばれる、宇宙を代表するリーダー的存在の惑星を中心に、長年に渡り、その開発が行われてきた。

 そして、地球を傘下に治めるグリストバースも、「L-PLN6」に含まれる代表惑星の1つだ。そのため、フロントラリーにおける、グリストバースの管理区域の一画には、「地球エリア」が設けられている。

 ちょうど今年の始めから、事業関係者や一部のVIPを対象に、試運転も兼ねた受け入れが開始されている。まだ他星の区域を訪問することは出来ないが、自分たちが管理する地球エリアは、晴れて解禁となったのである。

 一般公開は年末を予定してるが、その注目度から、訪問権を賭けた競争率は非常に高い。ただの大学生であるカケルたちでは、おそらく数年は手に入らない代物だ。

 しかし、このメンバーの中には、ただの大学生ではない者が居る――マシューだ。

 マシューは、ハワード家という偉大なコネクションを使い、見事に公開直後ともいえるチケットを、難なく入手して見せたのだ。


「日本エリアか。俺もサイトも問題ないけど、前に『青い海で泳ぎたーい!』って言ってなかったか?」


 今の地球にも、観光名所となるような青い海が、全く存在しないわけではない。しかし、その数はめっきり減り、誰もが手軽に訪れられるような所ではなくなった。そのため、今や泳ぐといえば、室内施設がほとんどだ。

 フロントラリーでは、そんなかつての観光名所でもある、パラオやハワイ島なども再現されているという噂だ。


「それもあったけど、カケルくんが『かなづち』って聞いたから……。僕、初めて知ったんだよ! カケルくん、泳げないの?」

「ちょっと、マシュー! お止めなさい!」


 カケルは、自分自身が「かなづち」であることを隠していない。しかし、マシューは偶然にも、最近までそのことを知らなかったようだ。

 個人的なことに踏み込みすぎだと思ったのか、シャルロットはすかさずマシューを遮ろうと、その声を荒げた。


「あぁ、いいよいいよ。特に隠してないし。じゃあ聞くか? それは、俺がまだ幼い頃……」

「わぉ! まさか、ここでカケルくんの昔話が始まるの!? でも、聞きたーい! やったぁ!」


 突如、過去話を始めるカケルに対し、マシューは驚きながらもハイテンションを隠せない。包み隠さず、私的なことを話してくれるカケルの気遣いが、嬉しかったのだろう。


「全く……。カケルは本当にお人好しですわね」

「そんなこと言っちゃってぇ~。シャルロットの方がカケルくんの過去に興味あるくせにぃ~」


 シャルロットは大人びた反応を示していたが、早くもそれが建前であることを、マシューによってバラされてしまう。


「ちょっと! マシュー、少しはお黙りなさいな!」


 シャルロットはその顔を真っ赤に染めると、まるで照れ隠しをするようにマシューを怒鳴りつけた。

 生真面目な性格だからこそ、マシューにとっては、からかい甲斐のある体のいい相手だ。


「あの~……、2人共。俺の話を聞く気あるの? 無いの?」


 主賓を放置して騒ぐ2人に対し、カケルは「んんっ!」と、わざとらしい咳を挟む。

 そして、ようやく静かになったところで、話を再開させた。



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