表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スリィ×プラネット~幼馴染のためなら俺は宇宙すら翔ける~  作者: 犬鴨
第一部 カレッジ・シチヨウ
37/41

フロントラリーの管理施設

 困惑するカケルをよそに、サイトは外に飛び出して行った。


『あぁ゛、クソッ! しかも、本日2度目だッ!』


 取り残されたカケルは、頭を掻き毟りながら叫び声を上げた。それは、誰に対してでもなく、自分に向けた言葉だ。


「それにしても、サイトのやつ。いつからこんなに……」


 サイトが、スペースポートを抜け出し、後を追いかけて来たのは予想外だった。

 いつも後ろから、付いてくることが当たり前だった幼馴染み。しかし、今やその立場は、すっかり逆転してしまっている。


「俺も負けてらんないな。うっし! じゃあ、行きますか!」


 頼もしい後ろ姿に、カケルは気持ちを切り替えた。そして、両頬を引っ叩くと、急いでサイトの後を追いかけた。




 カケルとサイトは、合流するや否や、アリアの捜索を開始した。


「アリアの行き先に、心当たりある?」

「スペースポートに戻っていることは無いだろうな。とはいえ、このままフロントラリーに居ても、俺に見つかるのは時間の問題だ。考えられる可能性は、フロントラリーからの脱出――」


 カケルは、アリアの行動を推測し、考えを途中まで述べたところで眉をひそめた。


「けど、肝心の手段が思いつかない。サイト、わかるか?」

「うん。当たってほしくないけど……」


 サイトは、含みのある言い方をすると、ある方向に視線を向けた。

 そこは、今も止むことのない黒煙が上がっている場所――避難騒動の発端となった、事件現場だ。


「あそこには何があるんだ?」

「管理施設だよ。この地球エリアを管理する、制御室や医療施設。あと、スタッフの宿舎やスペースポートもあるよ」


 サイトは、まるで従業員かのように、すらすらと回答を述べた。

 スタッフ用のスペースポート。それは、カケルも把握していない情報だった。


「なるほど、他のスペースポートは考えなかったな。でも、仮にアリアがそこに向かったとして、宇宙船なんてどうにもできないだろ?」


 惑星間の移動となれば、宇宙船が一般的な手段だ。しかし、いくらA-TECの社長令嬢とはいえ、宇宙船ともなるとおいそれとはいかない。


「脱出ポッドなら、可能性はあるでしょ」


 脱出ポッドとは、個人用の避難船のことだ。小型化されているだけで、その構造は、宇宙船となんら変わらない。そのため、非常に高価な代物として取引されている。


「脱出ポッドまであるのか!? さすがグリストバース様の財力、投資額が桁違いだな。そのことをアリアは知っているのか?」


 カケルの質問に対し、サイトは「ごめん」と口にした。


「アリアが此処に来るってなったとき、僕がみんなに話をしちゃってる……」


 マシュー主催の「アリアお忍び作戦会議」が開催されたとき、サイトはフロントラリーに脱出ポッドが保管されていることを話していた。無論、その場にはアリアも居たのだ。

 サイトは自身の知識が、またもや好ましくない事態を招いてしまったことに、責任を感じた。

 しかし、そのことに気付いたカケルが、すぐにそれを否定する。


「アリアが脱出ポッドに向かったとしても、それはアリア自身が選んだことだ。サイトのせいじゃない」

「でも――」

「その知識は、お前が気付いている以上に周りを救ってる。それに、今の俺にはお前が必要だ」


 その言葉にサイトは俯き、歯を噛み締めた。


「だったら話は早いな。さっそく、あそこへ――ぐぇっ!?」

『待って!!』


 カケルを引き留めようと、サイトが全力でフードを引っぱった。


「カケルも異変に気付いているよね?」


 サイトが言いたいのは、まさに今、カケルが向かおうとしている事故現場について。

 爆発が起きたのは、数時間前のことだ。事故かテロのどちらにせよ、燃え上がった火は鎮火、もしくは悪化の一途を辿る。しかし、あの煙は違った。量が増すこともなければ、減っている様子もない。自然の燃え方ではありえないのだ。意図されたもの――つまり、事件性が高いということだ。


「危険は承知の上だ。アリアが居る可能性が高い以上、俺はあそこへ向かう」 


 違和感に気付いていたが、カケルの決意は固かった。


「わかった。でも、僕も付いて行くからね。必要なんでしょ?」


 サイトはパーカーから手を離すと、負けじとカケルより先に走り始めた。


「お、おう? って、待て待て! サイト! さっきから暴走しすぎだ!」


 心強い相棒とはいえ、危険に巻き込むことは別問題だ。カケルは複雑な想いで返事をすると、またもやサイトの背中を追いかけた。




 数十分後――。

 案内板と煙をたよりに、カケルたちは目的地に辿り着いた。

 大きくそびえ立つのは、観光地とは全く似つかない、無機質な建造物。中には、広大な敷地を管理する、数々の設備機器が集められているのだろう。

 一見、建物で大きな爆発があったかのようだった。入口付近には瓦礫が散乱しており、火は今も黒煙を上げている。


「悪い意味で、予感が的中したね」


 到着するや否や、サイトは瓦礫の前にしゃがみ込んだ。 


「見れば見るほど、お粗末な偽装だな」


 カケルは、足下に転がる瓦礫を足蹴で裏返す。

 類似素材が使用されているが、肝心の建物が損壊した様子はない。それに、火は燃え広がらないよう、周囲には計算されて瓦礫が配置されていた。


「ご丁寧に入口は隠されている、がっ! ……通れなくはないな」


 カケルは軽快に瓦礫をよじ登ると、中を覗き込み、入口までのルートを確認した。


「どれどれ……。お、こいつは使えそうだな」


 次に、カケルは周囲に落ちていた鉄パイプを拾い上げた。 


「それ、どうする気?」


 サイトの質問に対し、カケルは手にした鉄パイプで素振りを始める。


「らしくないね。インテリな僕たちには、不向きな代物だ」

「念のため、護身用にな」

「本気で中に入るつもり?」

「今のアリアなら、危険を顧みずに突っ込んだ可能性が高いからな」


 危険があるからこそ、アリアを早急に見つけなければならない。

 カケルは手にした鉄パイプを見つめると、覚悟を示すように強く握りしめた。


「心配するな。ささっと行って、俺がアリアを連れ戻して――」

「『俺』じゃない、『僕たち』。さっきから、そう言っているでしょ」


 サイトの決意も相当なようだ。間髪を入れずに物申すと、つたない挙動で瓦礫を上り始めた。


「サイトこそ、今日は随分とらしくないな」


 途中でサイトが落っこちないよう、カケルは慌てて手を差し伸べた。




 中に入ると、大きな通路が2人を出迎えた。辺りに散らかった様子は無く、人の気配も無い。外では、あれだけの警報が鳴っていたにも関わらず、建物内部は静寂そのものだ。だからこそ、異様な空気が漂っている。


「誰も居ないね」

「この際、好都合だと思うしかないな。手っ取り早く済ませるぞ」


 隠れながら行動をしていた2人だったが、それも不要なようだ。


「まずは、監視カメラといったところか」

「メインシステムに繋がる端末があれば、どうにかなると思う」

「なら、警備室を見つけるか。これだけ大きな施設だ、出入口付近にあるはずだ」


 辺りには、殺風景な金属製の内装が延々と続いていた。見た目より、耐久性を重視した構造である。そのため、定期的に地図を確認しないと、何処を歩いているか見失ってしまいそうだ。


「あった。ここが警備室みたい」

「待ってろ、俺が先に――うぉっ!?」


 中を覗き込もうと、カケルが扉にもたれかかったとき、それは唐突に開かれた。カケルは、自身の体重を支えきれず、バランスを崩しながら中に入ってしまった。


「ビビったぁー……、急に開くなよな。セキュリティはザルなのか?」


 大きなモニターには、施設の監視カメラ映像が映し出されている。設備機器は機能しているようだが、どの映像にもスタッフの姿は見当たらない。


「この部屋も空っぽだね。避難したわけでもなく、元から誰も居なかったみたい」


 サイトが座席周りを調べるが、人が居た痕跡は見当たらなかった。


「非営業日でもないのにな。あらかじめ、人払いでもされていたのか?」


 状況を不審に思いながらも、カケルたちは警備室の端末を調べ始めた。

 設置されたカメラは多いが、アリアとはぐれてから、まだ1時間程しか経っていない。2人でもどうにかなるデータ量だ。


「……居た! このカメラにアリアが映ってるぞ!」


 カケルが調べていたデータに、通路を走り抜けるアリアの後ろ姿が記録されていた。

 カケルはすぐさま端末を操作し、詳細情報をモニターに表示する。


「管理番号は『E-2-03』。あー……、東側のC通路だな」


 サイトは情報を元に、PMCにインストールした地図と照らし合わせる。すると、「あ!」という声が、サイトの口から漏れた。


「まずいよ。その先にスペースポートがある。やっぱり脱出ポットに向かっている可能性が高いよ」

「こっちも厄介な予感が的中かよ……!」


 カケルは、続けてスペースポート周辺のカメラを調べ始めた。しかし――。


「なんだこれ。どのカメラにも、アクセスができないんだが」


 何度試そうとも、モニターに表示されるのは「ACCESS ERROR」という文字だけ。試しに他のカメラにアクセスしてみると、問題なく機能していることが確認できた。

 その様子を見ていたサイトが、すぐに原因を調べ始めた。


「通信自体が届いていないみたい。カメラ本体が、シャットダウンされている可能性が高いね。しかも、スペースポート周辺の一帯だけ」

「アリアがした可能性は低いだろうな。現に、本人が映ったデータが残っていたわけだし。つまり、第三者の可能性が高いってことか」


 2人の間に、重い空気が流れた。


「どうする? もっと詳しく調べることもできるけど」

「その前に、どれだけ時間の猶予があるかだな。えーっと、アリアが映った時刻は……。は? 30分前だと!?」


 カメラの記録を見て、カケルは衝撃を受けた。多少の時間は経過していたが、カケルは迅速に行動できたと思っていた。しかし、その考えは甘かったようだ。


「駄目だ。他を調べている猶予はない! 急いでアリアを追いかけるぞ!」


 単独であるにも関わらず、アリアの行動速度は異常だった。それは、間違いなく脱出ポッドを目指していることも意味している。 


「今日ほど、あいつの運動神経を恨んだことはない!」


 警備室を飛び出すと、カケルは走りながら小言を吐き捨てた。それと同時に、ある疑問が頭を過る。

 脱出ポッドの存在を知っていたとはいえ、アリアが細かい情報をどのようにして得たのかだ。情報を調べるにしても、サイトの速度を上回ることはありえない。だとすると、他に何か方法があったということだ。


「ん?」


 カケルが考えにふけっていると、ふと背後から、ゼィゼィと異音が聞こえてきた。


「やべっ! サイト、大丈夫か!?」

「今……は、話し……かけ、ない、でっ」


 顔色を見る限り、全く大丈夫そうではない。しかし、速度を緩めている余裕もなかった。


「付いてくるって言ったのは、サイトだからな。頑張れサイト! 負けるな! 今こそ根性の見せ所だ!」

「……」


 煩い。という言葉は、サイトの口から出てこなかった。代わりに出るのは、荒い呼吸音のみ。もし、夕食時に寝ていなければ……と考えると、背筋がゾッとしたサイトだった。




 走り出してから、3区画ほど通過したところで、カケルの足が急ブレーキを踏んだ。


(警備がいる!)


 カケルは声を押し殺して警告すると、慌ててサイトを制止した。そして、状況を確認するため、再び通路を覗き込む。

 幸いにも、相手は1人だった。全身は、外壁と類似した金属色でまとめられている。所々に光沢が見えることから、強度ある装甲なのだろう。頭部には、システムヘルメットが着用されているため、その顔は見えない。そして、なにより――。


(おいおい、嘘だろ。あれは『A04』だ)


 カケルは、その風貌に見覚えがあった。「A04」とは、A-TEC社のエントランスで展示されていた、軍事ヒューマノイドの最新モデルだ。


(出来れば、相手にしたくないが)

(残念だけど、『A04』がいる部屋が、まさに目的地だね)


 A04が警備している部屋が、スペースポートの管制室だ。つまり、脱出ポッドの情報を手に入れるには、避けて通れない。

 2人は目を合わせると、大きな溜め息を零した。


(僕たちついてないね。あ、違った。ついていないのは、カケルだった)

(それ、今は笑えないっての……)


 あと1歩というところで現れた邪魔者に、カケルは頭を抱えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ