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スリィ×プラネット~幼馴染のためなら俺は宇宙すら翔ける~  作者: 犬鴨
第一部 カレッジ・シチヨウ
12/41

シャルロットの恋話

 カケルたちが去った後、中庭にはカークとマシュー、そしてシャルロットだけになっていた。


「それで、アリアの反応は?」

「かなり驚いておりましたが、理解は示してくださいました。あとは『頑張って』と仰っていましたわ」


 アリアとの密談を終えた後、シャルロットを待っていたのは、勘が鋭いマシューからの質問攻めだった。シャルロットに逃れる術もなく、今はこうして観念している真っ最中だ。

 この面子での付き合いも、かれこれ3年と長い。さらに、顔や態度に出やすいシャルロットだからこそ、カケルへの恋心は周知の事実だ。


「はぁー。なんで言っちゃったかなぁ」


 一連の話を聞き終えたマシューは、呆れた声を上げる。今回のシャルロットの行動は、マシューとしては軽率だったという評価だ。

 その反応は予想外だったのか、シャルロットは慌てて言い分を付け加えた。


「だって、アリアに黙っているなんて……。あのような話を聞いた後なら、なおさらですわ! お二方が幼馴染だからこそ、きちんと筋を通しておくべきだと思ったのです!」


 根が真面目な、シャルロットだからこその意見。しかし時には、その素直さが仇になるとマシューは言いたかったのだ。


「かえってアリアを刺激しちゃったかもしれないよ? しかも旅行は年末でしょ。こんなに早くから、敵に塩を送ってどうするのさ」


 マシュー曰く、異性で幼馴染という絶対的なポジションにいるアリアは、シャルロットにとっては友人であり、1番のライバルなのだ。


「仮にお二方の関係がそうなった場合、わたくしは心から祝福するつもりです!」

「もう! 恋愛において、そういう姿勢は最も駄目だって、いつも言ってるでしょ!」


 真っ向から意見が対立するシャルロットとマシュー。こうなるとタイプは違えど、どちらも頑固だ。互いに意見を譲れないのか、睨み合っていた。


「いい? 恋愛なんて、奪ってなんぼの世界! シャルロットが思っている程、甘くはないの」

「おいおい、俺が居る前であまり物騒なことを言ってくれるな。後で面倒ごとは御免だぞ」


 あまりにも過激なことを言い始めるマシューに、みんなの兄貴役であるカークは、慌てて待ったをかける。そして、「奪ってなんぼ……」と復唱するシャルロットに対し、訂正を入れていた。


「告白を決心したわたくしのこと、マシューだけは応援してくださると思っていたのに」


 どうやらシャルロットは、勇気を出して決めた決断を、マシューに褒めて貰えると思っていた。しかし、真逆の反応が返ってきて、しゅんと項垂れた。


「応援しているからこそ、僕には前もって相談してほしかったなぁ~」


 先ほどから、マシューがシャルロットに手厳しい理由は他にもあった。今までさんざん相談に乗ってきたにも関わらず、最後の最後で除け者にされてしまったのだ。つまり、いじけているのである。


「マシュー、そう責めてやるな。シャルロットが決めたことだ、周りがとやかく口を出すことじゃないだろう。それに、素直なのがシャルロット。だろ?」


 あまりにもシャルロットが不憫だったのか、ついにカークが2人の間に割って入った。


「確かに、それがシャルロットの良いところだけどさぁ……」


 カークの言う通りだった。周りがとやかく言うものではない。言い過ぎたことに気づいたマシューは、素直に反省した。


「じゃあさ、カークはどう思ってるの? この中だと、カケルくんと1番付き合いがあるでしょ? シャルロットの告白は、成功すると思う?」


 落ち着いたところで、改めて本題に入った。

 思わぬ飛び火に、カークは心底嫌そうな顔をした。普通の悩みならまだしも、女性の恋愛相談など、出来れば遠慮したい。口を挟んだことは失敗だったと、カークは早くも後悔した。


「俺よりもサイトの方が、圧倒的にカケルに詳しい」

「だって、サイトくんはこういった話題を嫌がるし。どんな答えでも僕は怒らないから」


 なんとか質問を躱したいカークだが、困ったことに、こうなったマシューは梃子でも動かない。

 この時、カークの脳内では膨大な情報量が処理されていた。

 こういった恋愛相談をされた場合、選択肢は2つ。まず1つ目は、事実など関係なく相手をよいしょしてあげること。相手の求める答えを返すことで、波風が立たず、穏便に済ませることができる。

 そしてもう1つは、友人を思いやり、忖度のない回答を返すこと。この場合は、確実に相手の反感を買うことは間違いない。下手をすれば、余計な地雷を踏みかねない、対女性としては間違いなく悪手である。


「ぶっちゃけ、どう? どうなの?」

「あー、そうだな……」


 躱すことを諦めたカークは、真剣に回答を考え始めた。口に手を当て、しばらくの間、沈黙をする。

 どう考えても、取るべき選択は1つだ。しかし、カークは思いの外、不器用な男だった。


「俺の予想は、2割ってとこだな」


 それはカークが予想する告白の成功率。付け加えると、かなり甘く見積もった結果でもある。


「2割……。あははっ! 僕よりも辛辣な回答だよソレっ!」


 その結果に、マシューは腹を抱えて笑い声を上げた。こうして見ていると、本当に応援する気があるのか疑わしいものである。


「そんなにも、わたくしの望みは薄いのでしょうか……」


 当然、ショックを受けたシャルロットは、今にも泣き出しそうだ。


「あ、あくまでも、俺の一意見だからな。正直言って、カケルは『読めない』。こういった類のことを隠すのは、本当に上手いからな」


 慌てたカークの口から語られたのは、思いもよらぬカケルの一面だった。

 男性の友情にもいろいろな形がある。確かにカークとカケルは仲が良く、共に行動する時間は長い。しかし、とてもドライな間柄なのだ。だからこそ、カークはカケルと気が合っているのかもしれない。


「それわかる! でも、僕たち大学4年生だよ? なのに、あのカケルくんに彼女の1人も居ないなんて、おかしいよね」


 カケルが分かりにくいという意見には、マシューも強く同意を示した。それに、今までカケルに浮いた話が無いことには、疑問を抱いているようだ。


「勉強が忙しかったというのはあるけどな。ここに居る全員がそうだろう? カケル自身も就職が決まるまでは、『余裕が無い』とよく口にしていたしな」

「本当にそれだけかな? とは思っちゃうよ。深読みしすぎなのかもしれないけど」


 カケルもマシューと同じく、社交性は高い。幼馴染という牽制材料を持ってはいるが、中にはそれを越えてでも、カケルに言い寄る女性が居てもおかしくないというのがマシューの見解だ。


「意外でしたわ。男性のお二方から見ても、カケルには謎が多いのですね」


 シャルロットがぽつりと呟いた言葉に、カークとマシューは目をぱちくりとさせてお互いに見つめ合った。

 謎が多い。確かに本音が読みにくいという意味では、2人の中でカケルは曲者の部類には属している。


「まぁ、悪いってわけではないんだがな」

「そうそう。でも、カケルくんの昔話を聞いて、なるほどなーって思うところはあったかな」


 この年齢になっても、幼馴染という関係性を続けているカケルたちは、正直言って珍しい。それに、カケルが年の割に色恋ではなく、幼馴染や友情、そして身の回りのことを優先している理由としては、納得のいくものがあった。


「カケルくんが『アリア、命!』とかだったら、相当わかりやすかったんだけどねー」


 人差し指を立てて、カケルの声色を真似しながら叫ぶマシュー。

 カークとシャルロットは、そんなカケルの姿を想像して、それはそれでどうなのか。と口を閉ざした。


「特に、あの2人の関係は謎めいているからね」


 すると突如、マシューはその表情を急に真剣なものへと切り替えた。


「2人とは、カケルとアリアのこと……ですわよね?」

「そうだよー。一度、カケルくんに『アリアに彼氏が出来たらどう思う?』って聞いてみたことがあるんだよね」


 マシューのその発言は初耳なのか、シャルロットだけではなく、カークも意外そうな顔をして、その話題に聞き入っていた。


「カケルくん、なんて答えたと思う? 『あぁ、いいんじゃないか』って、それだけ。その一言だけだよ!?」


 「これまた読めないんだー!」と、まるで錯覚映像でも目にしているかの如く、マシューは頭を抱えて絶叫していた。

 マシューとの一連のやり取り、そしてカケルのさらっと返答する顔も、カークとシャルロットには安易に想像できてしまった。まさに、それこそがカケルの曲者な部分だ。




「ところで、シャルロットはどうして急に告白なんて言い出したの? やっぱり卒業後のこと? 向こうに帰ったら、縁談の話が進められちゃうの?」


 ここでマシューは話題を、シャルロット本人のことへと切り替えた。シチヨウを卒業してから、シャルロットが歩む将来に関してだ。自由恋愛が一般的な時代ではあるが、元王族ともなれば、未だに縛られているのかもしれない。


「いえ、すぐにそういった話はございませんわ。しかし、いずれそうなることは否定はできませんわね」


 質問を投げかけた側ではあるが、まさかの回答にマシューは言葉を失った。

 しかし、毅然とした態度で答えるシャルロットの姿は、まさに未来の王女とも言える威厳を保っていた。


「卒業……は、確かに大きなきっかけではあります。今年4年生になって、その現実が目の前に感じるようになりましたし。ですが――」


 シャルロットは長い睫毛を伏せ、その眼差しはどこか遠い一点を見つめていた。


「それ以上に、伝えておかないと。という不思議な感覚になりましたの。勘……というものでしょうか。今伝えておかなければ、わたくしは後悔する。そのように感じたのです」


 「変な話ですわよね」と、まるでシャルロット本人も理解できていないような、困った笑みを浮かべながら理由を告げた。告白というものに緊張も感じているのだろうが、重みのあるその言葉に、カークとマシューはただ彼女を見つめることしかできなかった。


「心から応援するよ、シャルロット。この件に関しては、僕はアリアではなくシャルロットの味方だから!」

「そうだな、アリアにはカケルとサイトが居るからな。俺も今回はシャルロットを応援しよう」


 幼馴染という関係性は、他者からすれば割って入れない大きな壁だ。だからこそ、今だけはこの小さな友人の肩を支えてやろうと、カークとマシューはシャルロットに思いの丈を伝えた。


「とても心強いですわ。本当にありがとうございます」


 ホッと胸を撫でおろすようにして、今度こそシャルロットは、心からの笑顔を浮かべていた。


「安心してね。振られたとしても、僕たちがシャルロットを慰めてあげるから!」

「おい、その一言は余計だ」


 マシューはシャルロットに向けてウインクをすると、その親指を高らかに立てた。

 励ましにしては、いささか縁起の悪い言葉に、シャルロットはその細い唇を引き攣らせる。


「あら。どうしてわたくしがフラれる前提で、話が進んでいるのかしら? まだ結果はわかりませんわよ?」


 小さなジャブを打ち合うマシューとシャルロット。この光景こそが、2人の「いつも通り」だ。


「そうだ。将来、シャルロットが変な奴と結婚させられそうになったら、僕が迎えに行ってあげるよ」


 マシューの意外な申し出に、シャルロットは目を丸くして何度か瞬きを繰り返す。そして今度は困ったように眉をひそめていた。


「お気持ちは嬉しいのですが、貴方はもう少し自分の家柄を自覚してくださいませ。それこそ、わたくしの家がパニックを起こしますわ」


 ハワード家の1人息子が元王族の娘を攫ったとなれば、その噂は世界中に広まってしまうだろう。縁談の破談どころではなく、新たな波乱が生まれかねない。

 仮に、マシューがシャルロットを掻っ攫いに来るとなれば、その姿は、普段からは想像できない勇ましい姿なのか。はたまた、シャルロット自身よりも美しく、花嫁に相応しい姿なのか。

 どちらにせよ、それはそれで面白そうだと、柄にもなく不謹慎なことを考えながら、シャルロットはくすりと笑いを零した。



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