最終決戦②
馬で移動する中、事切れた者達が沢山倒れていた。
敵側の兵士と、魔王軍の軍人達もいた。その無惨な光景に戦争の恐ろしさを目の当たりにし、手が震える。
いくら私が光魔法を使えても、1人も死者を出さないなんて無理なのだと思い知る。
自分には目の前の人達しか治せない。
見えていなかった人達は、こうして死んでいく。
神聖魔法を使えるようになったからって、守りたいもの全てを守れるわけではないのだと、目の前の光景が教えている。
やるせない───。
「レティシア、今は先の戦いの事に集中しろ。お前はアレクの元に帰るんだろ?その為に今出来ることをやればそれでいい。俺達もそうするだけだ」
魔王が前を向きながら、私を諭す。
そうだ・・・。今は嘆いている場合ではない。一刻も早くこの戦いを終わらせて、これ以上犠牲者が出ないように力を尽くすだけだ。
全部を守るなんて、傲慢な考えだわ。
何を思い上がっていたのだろう。
「そうね。ごめんなさい。ちゃんと集中するわ。皆で力を合わせて、早く終わらせましょう」
◇◇◇◇
「魔王様!アドラ!」
ザガンが合流地点で待機していた。
「今どうなっている?」
「ネルガル率いる死霊騎士団とケンタウロスの騎馬隊がアイツらを草原に誘導しました。魔法士達と魔道具に少々手こずってますが、戦況的にはこちらが優勢です」
「魔王城の前には誰も置いていないのですか?」
「今は諜報の小隊だけ残してある。トラップも仕掛けて置いたから、アイツらが戻ってきても近寄るのには骨が折れると思うよ」
「分かった。では俺達も合流して総力戦で一気に叩き潰すぞ!アデリーヌの生死は問わない。見つけ次第連れて来い!」
「「「「「はっ」」」」」
その場にいた全員が敬礼を取り、最終決戦の地へ向かった。
近づくにつれて、耳を塞ぎたくなるような争いの音がする。そして風にのって血の匂いが運ばれてくる。
胸を這い上がる吐き気を何とかこらえ、ひたすらに前に進む。
前方から魔力の波動を感じた。魔力と魔力がぶつかり合い、衝撃波を生み出しているのだ。
「全員そのまま行け!レティシアは俺の馬に乗るんだ!」
「「「「「御意!!!」」」」」
私は慌てて魔王の馬に転移し、彼の前方に跨る。
「レティシア、馬は俺が操縦するから味方だけに治癒魔法をかけられるか?魔力回復薬なら上級のモノを複数持ってるから心配するな。それもなくなったら俺の魔力を分けてやる。だから頼む」
それは懇願のような声にも聞こえた。魔王も道中、沢山の部下達の死体を目の当たりにしたのだ。彼もきっと辛いはず。
「分かったわ。今はザガンの魔道具のおかげで魔力が満ちてるから、皆まとめて治癒するわ」
私は魔王軍だけに効くようにイメージをし、両手を天に掲げる。
「ワイドヒール」
手のひらから天に向かって金色を帯びた光が立ち上り、放射状にシャワーのように降り注いだ。
私はそのままの体勢で続け様に詠唱する。
「ワイドディフェンシオ」
私含めた仲間の身体が青く光り、防御力が上がる。
これで皆の死亡率が下がるはず。
前方でケンタウロス率いる騎馬隊が槍を振り回し、ザガン率いる暗器部隊が様々な武器を駆使して敵を蹴散らしているのが見える。
その奥ではネルガルやアドラ達が敵と魔法を打ち合い、派手な音を立てて爆炎や爆風を起こし、大地がどんどん破壊されていく。
あんな戦いを町中でされていたら確実に町ひとつ消し飛んでいる。草原に誘導したのはそれを防ぐためもあったのだろう。
私達から見ても、戦況は優勢だと思った。
だけど次の瞬間、昼間だというのに突然空に暗雲がかかり、辺りがどんどん暗くなっていく。
そして雷鳴のような爆音まで鳴り響いた。
「何?なんなの!?」
「わからんが、ろくでもないものなのは確かだな」
魔王は舌打ちをして馬を走らせ、中心部から距離を取る。
そして一際大きな爆音と共に、空から魔王軍の陣地に大量の隕石が猛スピードで落ちてきた。
四方八方から悲鳴と衝突音が聞こえる。
皆が隕石を避けようと移動しようとするが、人数の多さが仇となって回避が上手くできていなかった。
「だめ!!皆早く逃げて!!結界!!結界を張らなくちゃ!!」
あんなに大量の隕石が落ちたら大勢死んでしまう!と思わず手を伸ばすと、魔王が私の腰に腕を回し、がっしりと引き寄せる。
「馬の上で暴れるな!落ちるぞ」
「だってあんなの避けきれない!!!」
私が魔王の手を払おうとしたその時、再び大きな衝突音と共に大量の煙と何かが焦げるような音が響いた。
再び前方に視線を向けると、突如出現した巨大な氷河が盾のように魔王軍を取り囲み、隕石を飲み込んでいた。
「ああいう物理攻撃に対抗する魔道具はザガンの得意分野だ。あんなものをどうにか出来ないほどウチの四天王は弱くない。」
「でも今のでまた皆怪我したわ!もう一度治さないと!」
「落ち着け!身体強化魔法をお前がかけてくれたから大丈夫だ。アイツらならまだやれる。それよりお前も必殺技とかいう奴を使うんじゃなかったのか?」
───そうだ。
戦争が泥沼化する前に『神の裁き』を打たなくちゃ行けない。じゃないとまた敵があの兵器を使ってしまう。
「ヴォルフガング!あの小高い丘まで私を連れて転移出来る?」
「ああ、分かった」
一瞬で丘に転移し、上から戦況を見る。皆かなり疲弊して怪我をし、倒れている者も複数見えた。胸が痛む。
「ヴォルフガング、魔力回復薬を一本くれる?それを飲んだら魔力回路を全開にして神力を最大限に引き出すから、集中してる間、私の事を守って欲しい」
「わかった。任せろ」
ヴォルフガングを信じる。
そして私は瞳を閉じ、
体内の魔力回路を全開にした。