出陣②
誤字脱字報告ありがとうございます。とっても助かります(>人<)
「アドラ!」
「レティシア嬢っ、魔王様!」
転移した先は国境に近い町中だった。
既に魔物との戦いで家屋などが破壊され尽くしている。
「アドラ、報告しろ」
「はい。現在魔王軍の第3部隊と獣人族の軍人達がスタンピードの制圧に向かっています。私は民達の集団転移を再開し、3分の2程度が避難完了しています」
「怪我人は?」
「軽症者はレティシア嬢が民達に配った治癒の魔石で治りましたが、重傷者が治りきらずにまだ床に伏せっていて、今医療部隊が応急手当てをしています」
「そう。じゃあそこに案内して。私が治す。それからまだ避難中の民の所にも連れていってほしいの。これ以上犠牲者が出ないように結界を張るから」
「わかりました」
「俺は魔力増幅装置をつけているから行けない。先にスタンピードの発生源の方に行く。後からお前達も来てくれ」
「わかったわ」
「御意」
◇◇◇◇
「ありがとうございます・・・っ、レティシア様っ」
「皆さん顔を上げて。さあ、早く結界内に入って。この中なら魔物は絶対中に入って来られない。避難するまで絶対出てはダメよ」
「はい!本当にありがとうございます!」
医療スペースで寝ていた患者を全員治し、民達を囲うように半円の浄化特化型の結界を張った。
この結界に魔物が触れるとそのまま浄化されて消えてしまう。コレでしばらく民達の危険は免れるだろう。
結界を囲うように立っている護衛達には身体の強化魔法と防御魔法をかけておいた。
ここまでやっておけば大丈夫だろう。
「アドラ、私は先に魔王の所に行っていい?貴方は残りの民達の避難援助をお願い。これから戦いが激化すると思うから、避難を優先した方がいいと思うの。魔法を使うにも民達が避難した後の方が心置きなく詠唱できるし」
「わかりました。私も最後の1人を避難させ次第、追いかけます。どうぞレティシア嬢。魔王様をお願いします」
「了解」
◇◇◇◇
魔王の魔力を辿って転移すると、そこは町に隣接する森の中で、既に無数の魔物が横たわっていた。
「すごい数・・・っ」
魔物の呻き声と、戦っている仲間の声が聞こえる。
きっとオレガリオの時みたいに魔法陣から沢山の魔物が発生しているのだろう。
長期戦になるとこっちが不利だから早く終わらせなければならない。
混血魔族が潜んでいないか注意深く見回す。
神力を扱うようになってから、邪な気配や瘴気を感じ取れるようになった。以前ユリカが認識阻害ローブを着た私達が見えたのも神力の影響なのだろう。
これといって認識阻害工作をした怪しい者や、邪な気配は特に感じられなかったので魔王の姿を探す。
すると前方から突然巨大な黒い半円の重力場が発生した。
中に大量の魔物が閉じ込められ、次々に重力に押されて圧死していく。
あれは魔王の魔法だわ。
足に強化魔法をかけて魔王がいる場所まで走った。
魔王に近づくにつれて瘴気が濃くなっていく。
きっとこの先にゲートがあるのだろう。
「ヴォルフガング!」
「レティシア・・・来たか。恐らくゲートはこの先だ」
「分かったわ。負傷者は全員治したし、避難待ちの民には結界を張ったから大丈夫だと思う。アドラは民の避難が終わり次第こちらに合流する予定よ」
「分かった」
更に進んだ森の奥に、それはあった。
オレガリオの時よりも大きい魔法陣が設置され、周りにミイラのような干からびた死体がいくつも転がっている。
そのどれもが魔物により損傷して見るも無惨な状態になっていた。
「アデリーヌめ・・・っ、仲間を生贄にしてゲートを開いたか」
「酷い・・・っ」
恐らくまた新しい魔道具か何かで魔力を急速に吸い上げたのだろう。でなければこんなミイラ状態になるわけがない。
その容赦のない残酷な仕打ちに悪寒が走る。
何なのアデリーヌって人・・・サイコパス!?
ゲームでは混血魔族側の描写はほとんどなく、王座の簒奪者としてしか描かれてなかった。
だから私も正直アデリーヌがどんな存在なのかわからない。確か昔クーデターを起こした魔王の弟の妻・・・?だった気がする。
サイコパスだから一撃で倒さなければならないって事?
周りに溶け込むように魔力の低い者を使って生物兵器を食べ物に仕込み、ピンポイントに魔王軍を感染させる姑息さが、並々ならぬ怨念を感じて怖すぎる。
身震いを起こしていると、ドン!という爆発音と共に、魔王が魔法陣から顔を出した魔物達の頭を消した。
「ごめんなさい、すぐに閉じるわ」
魔力回路を開いて両手を前にかざし、手のひらに魔力を集め、神力に変換する。
「聖なる光の柱よ、悪しき闇を打ち払い、滅せよ。フォルテルーチェ」
魔力増幅装置により、以前よりも広範囲の光柱が立ち上がり、巨大な魔法陣を囲っていく。前回同様に禍々しい瘴気が暴れるように光柱の中を這いまわる。断末魔のような、耳を塞ぎたくなるような呻き声がゲートの中から聞こえてきた。
その声に地面が揺れ、肌をピリピリと刺激する。
2度目の魔法とあって、前回よりは調節する余裕があった。底上げされた潤沢な魔力のおかげで体がふらつく事もない。
魔法陣の文字が徐々に消え、瘴気の溜まりが引き潮のようにゲートの中に去っていく。
そして、呻き声と共に魔法陣は消えた。
「…………ふう」
「大丈夫?レティシア」
「…ヴォルフ?」
「魔力回復薬持ってきてるよ。飲む?」
「まだ半分くらい魔力が残ってるから大丈夫。それより――」
「「魔王様!」」
「「レティシア様!」」
久しぶりにヴォルフに会えたのが嬉しくて話そうとしたら、周りにいた仲間達が集まってきて流れてしまった。
状況確認をしているうちに民達の避難を終わらせたアドラも合流したので、今後の作戦会議が始まった。
「ではこれからケンタウロス達と合流し、最終決戦に挑む。各々は先程決めた取り決めどおり動いてくれ。敵の残党が隠れているかもしれないから処分しながら行くぞ。まだ逃げ遅れている民がいたら保護するように」
「「「御意!!」」」
魔王の言葉に再び士気を上げた仲間達は、隊列を組んで歩きだす。
私は魔力回復薬を飲み干し、その隊列の後ろに続いた。
いよいよ、これが最後だ。
「ヴォルフ…、私これから必殺技出すから、もし魔力切れ起こしそうになったら回復薬飲ませてくれる?」
「それ…絶対レティシアがしなきゃいけないこと?」
「うん。それで完全にゲームが終わるの。本当の意味で私も貴方も解放される」
だから止めても無駄だよ。と目線だけで念押しする。
元々死ぬつもりなんて更々ない。私は絶対にアレクの所に帰るし、やりたい事も沢山ある。
まだ公園作ってないし、遊具も作りたい。漫画や小説の新作だって出したいし、他にも日本にあったものをこの世界でいろいろ再現したい。
「……わかった。レティシアの事は俺が守るから、思い切りやって構わないよ」
「ありがとう!」
ヴォルフのような柔らかい笑顔で、一人称が『俺』に変わっていた事に、この先の展開で頭がいっぱいになっていた私は、彼の異変に気づいてなかった――。
面白いと思っていただけたら評価&ブックマークをいただけると励みになります(^^)
【こちらも連載中なので良かったら読んでみてください(^^)】
◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
https://ncode.syosetu.com/n3934hu/