出陣①
「「「魔王様!」」」
「ヴォルフガング!」
「レティシア、ジュスティーノに残れと言ったのに何故ここにいる?アレクはどうした?」
「え…?」
──────もしかして、これ…、
あの時のこと、覚えてない・・・?
「魔王様、僕達が呼んだんですよ。貴方は死にかけていたんだ。治癒の魔石も効かなくて、もう頼れるのはレティシアしかいなかった。僕達四天王の独断で決めた事です。レティシアは悪くありません」
どこか不機嫌な魔王の視線から庇うようにザガンが私の前に立つ。でもそれは逆効果だったのか、魔王の顔が更に歪んだ。
「…………現状を話せ」
めっちゃ不貞腐れてる…。
なんなのよその態度!!
私頑張って治療したのに何故怒る!!
ザガン達から自分が眠っている間の出来事を聞いた魔王は、肩を下げて大きくため息をついた。
「……………レティシア」
「なによ」
思わず低い声が出てしまい、四天王達もギョッとした顔で私を見た。だって、魔王があんな態度だからこっちまでムスっとした態度を取ってしまうじゃない!
「………悪かった。お前のおかげで助かった。感謝する」
「――――うん」
「アレクは大丈夫か?もう落ち着いたのか?」
「皆が守ってくれてるから落ち着いてるわ。大丈夫」
「そうか・・・・・・・・・一つ聞いていいか?レティシア」
「何?」
「お前はこの戦いの終わり方を知っているのか?」
魔王の質問に、四天王達の視線も私に向いた。視線が突き刺さって何も後ろ暗い事はないのに汗がでる。
全員美形なだけに圧が凄い。
「・・・正直、ゲームの展開からはだいぶ外れてる。私の記憶ではスタンピードはなかったと思う。でもこの戦いを終わらせるのは神の巫女の神聖魔法だった。今は私が神聖魔法を受け継いだけど、臨時で受け継いだだけで巫女として修行を積んだ訳じゃない。神聖魔法の知識があるだけで実践経験のない初心者なの。だから正直自分にできるか自信なかった」
病を治す治療魔法も、魔物を消す浄化魔法もぶっつけ本番で初めて使った。本当は何度も使って魔法レベルを上げなければならないのだ。
魔法技術はそうして精度を上げて行くものだけど、怒涛の日々でそんな時間どこにもなかった。
「でも───」
私は言葉を続けながら魔力増幅装置を両手に抱える。
「コレがあれば、今の私でも出来る気がするの。だから私は行きたい。───貴方も民を助けに行くんでしょう?」
魔王は目覚めたばかりで調子が悪いはず。顔色は前よりは良くなってきたけれど、未だ貧血なのは変わらないだろう。
それでも魔王ならきっと助けに行くと思う。
「だから私も四天王の皆と一緒に、貴方について行く。民を助ける為にも、この戦争を早く終わらせる為にも、私の力は絶対必要よ」
「命の危険があるとしてもか?」
「貴方と四天王が守ってくれるんでしょ?皆強いんだからそれくらい朝飯前よね?それに私だって皆を守れるわ。あっちの光魔法の使い手が戦意喪失するくらい、最上級の回復魔法でも守護魔法でも披露してやるわよ」
私は腕に魔力増幅装置をつけた。
「!?」
すごい・・・、本当に魔力が漲る。
力が湧き上がってくる。
これならイケる気がする!
よく考えたら私、この世に存在する全ての属性魔法使えるじゃないの!魔力さえ続けば無双できるんじゃないの!?
急に自信が湧いてきて好戦的な笑みを返すと、目の前の魔王が急にクスクスと笑いだした。
「レティシアらしいね」
「・・・・・・ヴォルフ?」
柔らかく笑ったから人格がヴォルフに変わったのかと思ったけど・・・、
私の問いかけにニッと笑った彼はどっちかわからない空気を纏っていて、違和感を感じた。
「??」
「わかった。ではそろそろ落とし前を付けさせてもらおうか」
魔王が立ち上がり、応接用の机の上に広げられた魔力増幅装置を手にし、装着した。
その瞬間、ブワッと魔王から円状に風が巻き起こる。
ヤバい───。
何この魔力量・・・っ、
魔力増幅装置をつけた私でも冷汗をかいてしまう。
四天王達も、絶対的王者の力を目の当たりにして小刻みに震えていた。
魔王は普段、常に魔力回路を何割か抑えている。魔力が低いものが近くにいると、魔王の魔力に当てられて体調不良を起こして倒れてしまうからだ。
でも今は抑える必要はない。
魔力回路を全て解放した魔王と、魔王軍と、私の魔法があれば、この戦いは絶対に勝てるわ。
そんな事を考えているうちに、四天王の皆も魔力増幅装置を身につけ、魔王の前に跪いた。
「今までの情報を踏まえ、これから総力戦で当たって一気に方をつける。ネルガルは魔王城に残り、門前にいる連合軍を叩いて一人残らず後ろに下がらせろ。俺とレティシアはアドラや獣人族と合流してスタンピードを抑えに行く。そうすれば敵は必ず隙をついてまた魔王城を落とそうとするだろう。ケンタウロスとザガンは市井までの中間地点で待機。魔王城と市井からそれぞれ移動した敵が大草原に向かうよう誘導しろ。1番人数の多い第一部隊を連れて行け。最後は草原で囲って一人残らず始末してやる」
「「「御意」」」
最後の戦いが始まる。
スッと私の前に手が差し出された。
「行くぞ。レティシア」
必ずアレクの元に帰ると心に決めて、
私は魔王の手に自分の手を重ねた。
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