姑息な手
誤字脱字報告ありがとうございます。とっても助かります(>人<)
魔王はあれから2日、未だ目が覚めていない。
その間私は魔王城の中を徹底的に浄化し、魔力回復薬を使いながら状態異常無効化の魔石を作った。そしてアレクや両親、魔王軍の皆に配った。
魔王が倒れた事によって転移できなかった民達は、ネルガルとケンタウロスによって保護されていた。
相手が使用している対魔族用の魔道具は、認識阻害も含めてネルガルの使役する死霊騎士には効かない為、混血魔族の連合軍は一時撤退をせざるを得なかったらしい。
また、ジュスティーノから連絡を受けた獣人国の軍人達が増援にかけつけてくれ、四天王達は部下と獣人族達に民の警護を任せ、また魔王城に戻ることができた。
そして、魔王城で今後について作戦を練っていると、部屋の外からドタドタと複数の足音が聞こえ、魔王の執務室のドアがバン!!と音を立てて開く。
皆、魔王の部屋の扱い酷くない…?
そして入ってきたのは久しぶりのザガンとドワーフ達だった。
「出来た…っ。出来たぞ新魔道具!!これでアイツらを木っ端みじんに粉砕できる!!魔王様に手を出した事を死ぬほど後悔させるまで簡単に死なせてやらないけどね。フフフフフフフッ」
目の下に真っ黒なクマを携えて不気味に笑う美青年は、ここ最近ずっと工房に閉じこもってドワーフ達と魔道具を作っていたらしい。
よく見ると後ろのドワーフ達も目の下にくっきりと隈が出来ている。
「ザガン、お疲れ様です。新魔道具とは一体どんなものなんですか?」
アドラが問うと、ザガンは得意げな顔をして魔道具を目の前にかざす。
「魔力増幅と魔力封じの腕輪だよ。オレガリオの後宮の地下でアデリーヌ達の所業を過去見の水晶で録画したでしょ?その工程を見て僕達も再現してみたわけ。まあアイツらは魔力が弱すぎて魔法陣の構築に沢山の生贄を使うというエグイやり方をしていたけど、僕みたいな天才錬金術師には生贄なんて必要ないんだよね。元々高魔力保持者だし、魔法陣の開発なんてお手の物さ。アイツらに作れて僕に作れないものなんてないね!」
「おー!でかしたぞザガン!これなら一気にアイツら追い込めるな!アデリーヌ含めた幹部達だけ魔力の多さが桁違いだから中々攻め落とせなくてイライラしてたんだよ」
「あっちに光魔法を使う人間がいるのも痛いな。ダメージを与えても端から回復させてきやがるからキリがねえ。多分そいつも魔力増幅装置を身に着けてるんだろう」
四天王が魔道具を囲んで作戦会議を始めたので、私はザガンに近づいた。
「ザガン、久しぶりね。治癒の魔石のペンダント、ありがとう。何度か自分の魔力を追う練習をしたら、ちゃんとアレクの側に転移できたわ」
「それは良かったよ。アレクの魔力が安定する年頃になったらアレクの魔力を仕込めばいいよ。それまではこの方法でやってみて」
「うん。ありがとう!」
自分の魔力を探して転移魔法を使うのは初めてだったので、あれから何度か感覚を覚える為に練習した。
突然現れた私にアレクも両親もびっくりしていたけど、アレクは「ははうえ!しゅごいね~!」とキラキラした顔をして私を見ていた。
いつか自分も転移魔法を使えるようになりたいそうだ。
魔王城が育った場所だからか、アレクは今のところ落ち着いている。
転移でこまめにアレクの所に行ってはハグをしている。
両親がアレクにずっとついていてくれてるし、ケンタウロス達も会議の合間に顔を出してくれてるのも大きいと思う。
「そういやアレクの魔力といえばさ、アイツ光属性の魔力持ってんだろ。あんなちっこいのに治癒魔法使えてびっくりしたぜ」
ケンタウロスがふと思い出したかのようにとんでもない発言をしたので私は目を見張った。
「え?なんの話?」
「え?知らんの?俺の顔の傷、アレクが治してくれたんだよ。かすり傷だったから気にしてなかったんだけど、アレクが痛そうだっつって、『いたいのいたいのとんでけ~』って謎な呪文を吐いて俺の顔の傷を治したんだよね」
「うそ!?アレクが!?」
『いたいのいたいのとんでけ~』は私が泣いているアレクによく言っていた言葉だ。
成長期に治癒魔法を使いまくるわけにはいかないので、あまりにひどい傷の時だけ弱い治癒魔法を使ってた。
まさかアレクもそれを真似たっていうの?
「これは魔力測定が楽しみですね」
「そうだな。魔王軍の中で揉まれて屈強な戦士になるのも夢じゃないかもしれないぞ」
───アレクに光属性の魔力が…。
確実に私の血を継いでいるのがわかって、なんだか嬉しい。
そんな想いに浸っていると、ズンっと肩に重いものがのしかかったような、不穏な気配を感じた。
「な…にこれ」
「レティシア嬢も気づきましたか」
アドラの問いかけに顔を上げると四天王達の表情が厳しいものに変わっていた。
「膨大な瘴気が発生したな」
「アイツら、魔王軍を攻めあぐねているからって、何かを召喚したか?」
「何かこの感覚…オレガリオでも感じたことある気がするな」
私はザガンと顔を見合わせて察した。
再び部屋の外からドタバタと足音が聞こえ、ノックの後に部下がそのまま部屋に入ってきた。
「アドラメレク様!!諜報部隊より伝令です!市井でスタンピードが発生しました!警護についている者や民を含めて既に死傷者が出ています!至急応援と医療部隊の出動を求むとのことです!」
「わかりました!すぐに向かうと伝えて下さい」
「御意っ」
「やっぱりアイツらオレガリオと同じようにスタンピードを起こしたんだね。どうすんのこれ。ゲート閉じるのレティシアしかできないよ。あとは以前魔王様が言ってたようにゲートの魔法陣を粉砕するか、魔窟に乗り込んで魔物を皆殺しにするかの3択だね」
ザガンがこめかみに手を当てて悩まし気な表情をしている。他の四天王の眉間にも皺が寄っていた。
ゲームでは、神聖魔法の中の最上級魔法である『神の裁き』で相手の連合軍を全滅させていたっけ。
でも・・・、神聖魔法の使い手として何の修行もしてこなかった私が、いきなり最上級魔法なんて使える?
集団治療でさえ魔力切れ起こして倒れる寸前だったのに、何千人という敵を相手にそんな大魔法を使えるのだろうか。
「前者は魔王様が許さないだろうな。後者の2択は市井の損害が大き過ぎるのと、敵に魔窟に乗り込んだ隙を突かれる可能性がある」
ネルガルは頭を掻きながらため息をつく。
「ちっ、姑息な手ばっか使いやがってイライラすんなぁ」
ケンタウロスは壁をドン!と叩いて怒りを露わにした。
「・・・とりあえず魔王軍の医療部隊と第三部隊を現地に向かわせましょう」
「アドラ、これ使って!それつければ部下達全員を転移させられると思う」
ザガンから魔力増幅装置を受け取ったアドラは、それを腕に装着した途端、驚きで目を見開く。
その変化が私にもわかった。多分今のアドラは魔王と並ぶくらいの魔力量だ。
「───これは・・・すごいですね。これなら私にも民達をまとめて獣人国に避難させられそうです。では部下達を現場に派遣して来ます。後の事は任せます!」
そう言ってアドラが部屋を出て行く。
「・・・・・・・・・」
私はザガンの作った魔道具を手に取った。
さっきの、アドラの魔力量の跳ね上がり方が凄かった。
私もコレをつければ、最上級魔法を使えるかもしれない。あの魔法さえ使えれば一撃で戦いを終わらせられる。
皆を助けられる。
私とアレクを守ってくれたガウデンツィオを、私も守りたい。アレクにとってそうであるように、私にとってもガウデンツィオは第二の故郷なのだから。
「ザガン、私もコレ使っていい?」
「───まさか、レティシアも行くつもり?」
「うん。スタンピードを早く鎮められるのは私だけだから。行くよ。私はその為に帰ってきたんだから。アレクとの穏やかな生活を取り戻す為にも、私も戦うわ」
「───ダメだ」
不意に聞こえたその声に振り向くと、
執務机に腰掛ける魔王の姿があった。
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