懺悔と想い
この話が抜けておりました。本当に本当に申し訳ありません(T-T)
問い合わせいただきありがとうございます!とっても助かりました!
「ホントに、間に合って良かった・・・」
私は、ひんやりとした魔王の手を握りながら呟く。
あの後、アドラがすぐに魔力回復薬を飲ませてくれたので、気を失わずに済んだ。
魔王はまだ目覚めない。
体は治療出来たけど、まだ酷い貧血状態なのだ。
失った血は魔法では作り出せないから、こればかりは自然治癒力に頼るしかない。
「───ごめんなさい・・・ヴォルフガング、ごめんね・・・ヴォルフ」
申し訳なくて涙が滲む。
さっきの死にかけていた彼を思い出し、罪悪感でいっぱいになった。
アドラに意識不明の重体だと聞いていたのに、頭のどこかで魔王は強くて無敵だと思ってたんだと思う。
だからすぐに駆けつけるという選択を取れなかった。
唯一、魔王ルートのバッドエンドだけは魔王が死ぬのに、こういう時だけ、もうゲームの強制力はないだろう。念のため結界の魔石も置いてきたから大丈夫だろう。と都合よく考えてた。なんて恩知らずなんだろう。
先程アドラから聞いた話を思い出す。
『本当は、レティシア嬢は呼ぶなときつく言われていたんです』
『どうして?』
『こちらはまだ内乱が終わってません。魔王城も結界に守られているとはいえ、殺伐とした空気に包まれていました。とても精神状態が不安定なアレクを迎えられる環境ではなかった。それに光魔法の使い手である貴方は回復が使えるので戦時中は重宝される人材です。もし戻ってきたら戦いに巻き込まれるでしょう?魔王様はそれを良しとしませんでした。アレクの為に、今は片時も母子を離してはいけないと言って…。何よりヴォルフ様が、魔王様に強く言っていたそうです』
ヴォルフが…。
私とアレクのために…。
『実際アイツらは新型の魔道具を使ってきたので、最初は手こずりましたが、ネルガルが扱う死霊の騎士達には効かない事がわかったので、彼に先陣を任せて敵部隊を瓦解させました。道具が優れていても戦闘経験と能力は魔王軍の方が上ですからね。隙をついて大分戦力を削ぐことができました』
『それなのにどうして魔王がこんな事に…?結界の魔石は魔王も身に着けていたのよね?それがあれば感染なんかしないはずなのに…』
そう言うと、アドラは気まずいような顔をして視線を逸らした。
『結界に阻まれて魔王城に攻め込む事が出来ないアイツらは、魔王城の前に囮を仕込んで、裏でターゲットを市井に替えていたんです。そこで隙をつかれてしまいました・・・』
『どういうこと?』
『魔王様とここにいる彼らは、獣人族と協力して民達の避難援助に当たっていたんです。民達を大勢で転移させるには魔王様の魔力でないと出来なかったからです。ですが安全に転移するには人数制限があるのと、受け入れ先の獣人国とも連携を取らなくてはならないので、1回転移させるごとに待機時間を要しました。――――我々は、敵にそこを突かれてしまったのです』
さらに詳しく聞けば、混血魔族率いる連合軍の一部が、避難民を装って転移待ちの行列に紛れ込んでいたらしい。
どこかで内部情報が漏れていたのだとか。
そして待ってる間、疲労の濃い民達のために近隣に住む者達が有志で炊き出しを行い、その食事を魔王軍にも差し出したのだとか。
そして、そこを狙われた。
アレクと同じくらいの年の子供が魔王にスープを差し出し、拙い言葉でお礼を言ったそうだ。魔王はそれを受け取って子供の頭を撫でた。
でもそのスープの中に、新型の魔道具で作り出した細菌が仕込んであった。
いくら結界の魔石を身に着けていても、口の中から体内に取り込まれては結界の意味をなさない。
状態異常無効化の魔法は神聖魔法だ。結界の魔石には付与されていなかった。当時の私は神聖魔法を使えなかったからだ。
毒では解毒されてしまう為、確実に殺す為に細菌の魔道具を開発したのだろう。その為にオレガリオの国庫を使ってまで殺人兵器を作り上げる混血魔族の殺意に恐れ慄く。
その後、先陣部隊のネルガルが情報を聞きつけ、死霊騎士を援護に向かわせた事で敵を見破って始末された。
魔王にスープを渡した子供は本当に避難民で、敵は対魔族用の認識阻害魔道具を身に着けていた為、魔王も認識できなかったらしい。相手の魔力が弱すぎた為に、大勢の民達の中に溶け込んでいた。
絶妙な隙を相手がついて来た結果だった。
『……意識が混濁している時、――――――貴女とアレクの名前を呼んでましたよ』
『……え?』
『だから魔鳥を飛ばして貴女を呼んでしまいました。――――目覚めたら、きっと私は怒られるでしょうね』
◇◇◇◇
「・・・・・・・・・」
青白い顔を見つめる。
もっと早く帰れば良かった。
貴方は私に助けを求めていたのに、私はアレクと天秤にかけて迷った。
魔王は私が辛い時、転移してまで私を助けてくれたのに。
凄い痛かったはず。苦しかったはず。
何度も気を失ってしまう程の痛みに苛まれたはずだ。
他の軍人達があれほど泣き叫んでたくらいなのだから。
私が早く転移していれば、その痛みをすぐに取り除くことが出来たのに――――、
「ごめんヴォルフ…っ、ごめんなさいヴォルフガング…っ」
ひんやりと冷たい手を両手で包み、自分の額に寄せる。
「ふ…っ」
泣く資格なんかないのに、堪えても堪えても涙が溢れ出た。
「……レ…ティ…シア?」
突然降った声に顔を上げると、魔王が朦朧とした瞳で私を見ていた。
「な…んで…、泣いて…る…の?」
───この身に纏う空気は……ヴォルフ?
「……くな、泣く…な」
そう言って私の涙を弱々しい力で拭った。
ヴォルフと…ヴォルフガングが交互に出て来てる。
意識が朦朧として人格が定まっていないのかもしれない。
「助けるのが遅くなって、ごめんなさい…っ」
「……泣…かない…で。レティ…シア…」
「だって私…っ、薄情者なの!ヴォルフやヴォルフガングにいつも助けてもらっていたのに、私はアレクと天秤にかけて迷ってしまった…っ、貴方達は恩人なのに、最低だわ私…っ」
堪えきれなくて泣き声が出てしまう。
罪悪感で潰れそうだった。
「…言った…だろ…。ア…レクを…守る…のが…、お前の仕事…だと…。子供は…親が…守るもの…だ…」
そう言って魔王は、私の涙を再び拭う。
その手つきが優しくてまた涙を誘った。
「いつも…私とアレクを守ってくれて…、ありがとう、ヴォルフ…。ありがとう、ヴォルフガング」
私が泣きながらも笑顔でお礼を言う。
きっと鼻水も垂らしてぐちゃぐちゃな顔だと思うけど、感謝の気持ちを伝えずにはいられなかった。
私の言葉と顔を見て、魔王は微睡ながら笑う。
「レティシア……」
「――――何?」
「……僕は…、…………俺は……」
握った手に、少しだけ力が込められた。
「レティシア………あ…いして・・・る」
『愛してる』
「・・・・・・っ」
───ズルい。
「・・・・・・・・・言い逃げなんて、ズルいでしょ・・・っ」
寝息を立てている魔王を見つめながら、素直になれず悪態をついた。
私がアレクの為に生きる事は変わらない。
それでも、
私が今流している涙は、
嬉し涙だった。