魔王城へ帰還
「レティシア嬢!」
転移した場所は魔王の執務室だった。
「アド!」
「アレク、お久しぶりです。貴方が無事で良かった」
「えへへ~」
アドラに頭を撫でられ、アレクは笑みを浮かべる。
「アドラ、すぐに魔王の所に行きたいからアレクと両親を安全な場所に案内してくれる?それから信用できる人に護衛してほしいの。ロジーナの件があるから、貴方に人選を任せたい」
「大丈夫です。それについてはもう手配済みです。ネルガルの使役魔が護衛につきます。彼等は冥界の者で主であるネルガルの命令だけを遂行する忠臣達です。それから――」
アドラと話している途中でバン!と乱暴に扉が開いた。
「レティシアとアレクが戻ったってホントか!?」
「ケンチャロス!ネりゅ!!」
久しぶりに会ったケンタウロスとネルガルの姿に、父に抱っこされていたアレクは嬉しさと興奮で彼らに向かって手を伸ばす。
「おー!アレク!おかえり!!怪我もなさそうだな。良かった良かった。ったく一時はどうなるかと気が気じゃなかったぜ」
「ほんとだな。心配したぞアレク。無事でなによりだ」
「きゃはははっ」
ケンタウロスに高い高いをされて喜んでいるアレクの笑顔を見て、やっぱりこの場所がアレクの故郷なのだと目の当たりにする。
オレガリオやジュスティーノでは見られなかった、はじける笑顔がそこにあった。ここがアレクにとって一番安心できる場所なのだろう。
「ネルガル、アレク達の護衛の件お願いします」
「ああ、ちょっと待ってろ」
そう言うとネルガルは魔法陣を2つ展開し、その中から全身黒い軍服を纏った超絶美形の黒髪の男女が姿を現した。
「お前達に命じる。アレクとレティシアの両親を外敵から守れ」
「「御意」」
「こいつらは人型を取っているが、冥界の幻獣なんだ。強さは俺が保証するし、俺以外に意思の疎通ができないから裏切る事はない。安心しろ。それからこれ、ザガンから預かった」
手を出すように促されたので手のひらを差し出すと、魔石のペンダントを渡された。
「これは?」
「お前の治癒の魔石を加工した魔道具らしい。これをアレクの首にかけておけば緊急時にアレクを治癒するし、お前がアレクの所へ転移する為の拠点代わりになるらしいぞ」
「そっか!自分の治癒の魔力を追って転移すればすぐにアレクの元に飛べるものね!ザガン、私の話覚えててくれたのね!」
もう二度とアレクを奪われたくなくて、チラッとザガンにGPSのような魔道具を作りたいと話したことがある。
それを覚えていて作ってくれたんだわ。
「アレク」
「あい!」
「はい。これつけておいて。ザガンがアレクのお守り作ってくれたんだって。絶対外しちゃだめよ」
「わ~きれいなの。わかった。大事にすりゅね!」
「このお守りさえあればお前は無敵の男だぞ。最強だな!絶対外すなよ」
ケンタウロスの『無敵の男』『最強』という言葉に反応して目をキラキラさせているアレクを見て、また笑ってしまった。やっぱり、アレクは私が思っているよりもたくましいのかもしれない。
「みんな、ありがとう。お父様、お母様、アレクをお願いします」
「大丈夫よ。私達だってこれでも高魔力保持者の魔法士よ?侮ってもらっちゃ困るわ。」
「俺達もアレクを守るよ。だからレティシア、頼むよ。魔王様を助けてくれ」
「俺からも頼む」
「レティシア嬢。お願いします」
四天王の三人が私に向かって頭を下げた。
「やめて三人とも!頭を上げてちょうだい!私にできることは全部するつもり!だからどうかアレクをお願いします!」
そして私は魔王の元へ向かった。
◇◇◇◇
アドラに連れられて隔離部屋の扉の前に立つ。
「待ってアドラ、念のため。……『鑑定』」
そう言って私はアドラに鑑定魔法をかけ、体に異常がないか調べる。
「大丈夫そうね。治癒と結界の魔石も身に着けてるみたいだし、じゃあ入りましょう」
「よろしくお願いします」
扉を開けて中に入ると、そこは地獄絵図のようだった。
痛みで暴れる魔王軍の軍人達を拘束の魔道具でベッドに押さえつけている。
遮断魔法が施されていたのか、部屋の中は阿鼻叫喚の声で溢れていた。
「なんてこと…っ」
あまりの光景に体が震える。
「魔王様は一番奥です」
手で促された方へ駆け寄り、ベッドに眠る男を見て目を見張る。
「ヴォルフガング!!」
そこには死人のように真っ青な顔をして呻き声を上げている魔王がいた。一目で重症だとわかる。
他の軍人達よりも症状が悪化しているのだろう。私の呼び声にも反応できないほど意識が混濁している。
時間がない。
震えた体で、それだけは頭に浮かんだ。
私はこの部屋にいる全員に鑑定魔法をかけた。
乱されるな。集中しろ。動揺して魔力暴走なんか起こせない。
全員の頭上に次々と『細菌感染』『内臓損傷』『内臓壊死』『出血多量』という恐ろしい文字が浮かび上がる。
やっぱり私が想像していた魔道具を使われた可能性が高い。全員早く浄化しないと確実に死ぬ。
病室の中心に立ち、両手を頭上に掲げて神力を高める。
「ワイドキュア」
私の体から強い浄化の光が天井に広がり、霧雨のように患者に降り注ぐ。
「く…っ」
「レティシア嬢!」
ふらついた私をアドラが支えてくれた。
複数の病人を一気に治しているので魔力をごっそり持っていかれる。
それでも重症患者が多いからやめるわけにはいかない。
魔王軍所属の軍人はほとんどが高魔力保持者で細菌の繁殖に最適な体を所持している。
魔力が桁違いに多い魔王なら一番病の進行が早いはず。
時間が勝負だ。この一回で完全に細菌を殺さないと、魔法を止めた途端また一気に繁殖する。
「アドラ…っ、魔力回復薬持ってる?」
「持ってます!」
「じゃあ魔法止めたらすぐ私に飲ませて…っ」
「わかりました!」
さっきまで痛みで叫んでいた者達の声が止み始めた。鑑定魔法で浮かび上がらせたステータスの状態異常が次々と消えていく。
魔王の方に視線を移すとまだ『内臓壊死』の文字が消えていない。魔王以外の者達の状態異常が消えたのを確認して治療魔法を魔王だけに注ぐ。
「うぅ…っ」
ヤバい…思ったより治療に時間がかかってもうすぐ魔力切れ起こしそう…っ。お願い、早く…っ、早く治って!!
膝がガクガクと揺れて立っているのが限界になりそうなその時、魔王の『内臓壊死』の状態異常が消えた。
それを見届けた瞬間、私は安堵から、
床に崩れ落ちた。
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◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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