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二つの選択



『魔王様が…、魔王様が意識不明の重体なんです!!』






───は?


………魔王が?



……嘘でしょ?




『レティシア嬢!聞いてますか!?』


「何で…何でそんなことになってるの!?」



『いろいろあって詳しい話をする時間はないんです。ザガンから貴女が転移の魔石を持っていると聞きました。それを使えばガウデンツィオにすぐ帰って来れると。それを使って魔王城に戻って来てはくれませんか?』


「意識不明って…、治癒の魔石が効かないくらい酷いの?」


『魔王様は病にかかられています。治癒の魔石を試しましたが一向に回復されません』




ヒュっと喉が鳴った。




『生物兵器』




真っ先に頭に浮かんだのはその魔道具だった。魔王ルートのバッドエンドである至上最悪の戦闘魔道具。


細菌が体内に入り込んで内臓組織を蝕み、魔力を吸って体内で繁殖していくのだ。時間が経つと内臓が壊死して死に至る。しかもこれは感染するから厄介なのだ。



混血魔族は力じゃ魔王軍に勝てないから、正面から挑むのではなく確実に殺す為の道具を作った。



確かに治癒魔法は怪我は治せても病気は治せない。

確か病気は神聖魔法で浄化するしかなかったはず。




「聞いてアドラ。魔王以外にも同じような症状で倒れている人はいる?」


『魔王軍に何人か、同じ症状でふせっているものがいます』



「治癒の魔石の他に、結界の魔石も少量だけど残していったわよね?それまだ残ってる?四天王はちゃんと使ってる?」


『ええ、貴女が以前言っていたので戦いの前に全員身に着けています』




それならきっと魔王もつけていたはず。それでも病になったのなら何かしらのトラブルで体内に細菌が入ってしまったのだろう。



「とにかく同じ症状の者達を一部屋に隔離して誰も入って来られないように結界を張って。そして世話に当たる者達には私が作った結界の魔石を必ず身につけさせて。結界のない者にはうつる病だと思うから、世話する者は最小限に抑えてね」




『・・・わかりました。それで、戻ってきていただけるんですか?』


「―――帰りたいと思ってる!でも今すぐは無理なのよ…っ」


『アレクの事ですか』


「そうよ。元気になってきたけどまだ完全に心が癒えたわけじゃない。そんな中途半端な状態でそっちに行けば、また何かの拍子に心を壊してしまうかもしれない。私一人じゃ決められないの。少しだけ時間をちょうだい」



『わかりました。どうか一刻も早いお戻りを…』





ブツんと映像が切れた。







なんで…、



なんでこんな事になってしまったの!




「どうしたらいいの・・・っ、アレクの事を考えたら今ガウデンツィオに戻るなんて出来ない。私1人だけで行くなんて論外だわ。いつ戻れるかわからないもの。今は絶対にアレクから離れてはいけない時なのに・・・っ」




アレクを優先すれば、魔王が死んでしまうかもしれない。


アレクを連れてガウデンツィオに行けば、またアレクのトラウマを作るかもしれない。やっと以前のアレクに戻ってきたのに・・・っ。




でも───、





『『レティシア』』





魔王とヴォルフの姿が脳裏に浮かぶ。 




もし私の選択で彼らを失う事になった時、


私は耐えられるのだろうか・・・?


 

アレクの前で、笑って生きていけるのだろうか?







「・・・・・・・・・っ」










◇◇◇◇






「お父様!お母様!!」



バン!と勢いよく両親のいる部屋に突撃したせいで両親が悲鳴を上げて驚いている。



「びっ、びっくりした!何・・・っ、どうしたのレティシア」


「仮にも元公爵令嬢がはしたないぞ、レティ」




「そんな事より話を聞いて!お願い、私を助けて!どうしたらいいのかわからないの・・・っ」



両親に先程アドラと話した内容を伝える。


説明しているうちに、どんどん怖くなって涙が出てきてしまった。───そう、私は怖いのだ。




魔王を、



ヴォルフを失うのが怖い。




私が1番苦しい時、ずっと側で支えてくれていたのは彼らだ。彼らが私を保護してくれなかったら私とアレクは生きていないかもしれない。




でもアレクを想うと動けない。


危険な所に連れていけない。今アレクと離れるのもイヤ。怖い思いをさせたくない。泣かせたくない。



堂々巡りだ。



どうしたらいいの。



早く選ばなきゃいけないのに、2つの選択が重過ぎて体が震える。




「レティ」


「レティシア」




母が私を抱きしめて、背中をさすってくれる。


父は私の頭を優しく撫でてくれた。




「そんなの、どちらか選ぶ必要はないわ」


「そうだな」


「え?」



「両方選べばいいじゃない。私達も貴女と一緒に行くし、ジュスティーノに知らせを送ればいい。ジュスティーノには裁判の後処理でまだ獣人族の使者達が残ってるはずよ。協力を求めましょう」


「そうと決まればレティシア、ジュスティーノに魔鳥を飛ばすんだ。それからすぐに帰る準備をするぞ。私は殿下達に事情を話してくるよ」



そう言って父は部屋を出て行った。


両方選ぶ・・・?


そんなことできる?



「大丈夫よレティシア。貴女はアレクの母である前に、私達の娘でもあるの。親が子供を守るのは当然でしょう?私達も貴女とアレクの側を離れないわ。だからほら、もう泣かないの。これからアレクに説明しなくちゃ」


「説明って・・・?」



「あの子は貴女が思うよりも強い子よ。あの子にとってもガウデンツィオは大事な場所なの。毎日魔王様達に会いたいって言ってるでしょう?」


「うん」


「きっと魔王様達が困ってる事を話せば「僕がたしゅけに行くよ!」って言い出すに決まってるわ」






そして、母の予想は当たっていた。


眠っているアレクを起こして、急遽ガウデンツィオに帰らなければならない事情を説明する。


最初は喜んでいたけれど、今皆が怪我をして痛い思いをしてるから助けに行きたい旨を話すと、「僕も!僕もたしゅけに行くよ!」とまんま母と同じ事を言ったのでつい笑ってしまった。




「ありがとうアレク。でもこれだけは約束して。まだ魔王達の近くにわるものがいて、またいじめてこようとするかもしれない。そういう時は危ないから私やお祖母様達の言う事をしっかり聞くこと。絶対1人でどっか行っちゃダメよ。もしアレクが痛い思いしたら私は悲しいし、魔王達も泣いちゃうかもしれないわ。約束出来る?」


「あい!」


「ふふっ、アレクはお利口さんだから大丈夫よね。それに強い子だもの。皆で一緒に助けに行きましょう!」


「あい!」



むん!と拳を握って気合いを入れている息子を見て、さっきまで震えていた自分の事も可笑しくなってしまう。




アレクは私が思っているよりも強い子なのかもしれない。


ガウデンツィオで皆に育てられたから、肝が据わっているのだろうか?



そういえば、ユリカに詰められている時も私の事守ろうとしてくれたっけ。








そして私はさっきの魔鳥を通してアドラに今から帰る事を告げ、転移の魔石を握りしめた。


両親とアレクと自分にこれでもか!と防御と状態異常無効化の結界を張りまくる。



これで3人の感染と不意打ち攻撃からは守れるはず。




「あとは僕が対応しておくから安心して」



従兄弟が私達を見送りに来てくれる。その隣にルイスも眉を下げ、複雑そうな顔をして立っていた。



「ルイしゅ!またね!バイバイ」


「ああ。また・・・必ず会おうな」


「うん!またあしょんでね!」


「ああ」




ぶんぶんと無邪気に手を振るアレクに対して、ルイスは明らかに涙を堪えているのがわかる。


こんな急に離れるとは思わなかったのだろう。




「レティシア嬢・・・、アレクを・・・アレクを守ってくれ」


「ええ。絶対に守ります」







そして私達はガウデンツィオへ転移した。

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【こちらも連載中なので良かったら読んでみてください(^^)】


◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。


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