火急の知らせ
「「「…世界の…消滅…!?」」」
皆同様に信じられないとでもいうような顔をしている。
うん、まあ、そうだよね。
私も自分が転生者じゃなければ信じてないと思う。
この世界が乙女ゲームに似ていることや、自分や魔王が転生者だということ、過去にポンコツ女神が失敗して何度も世界を滅亡させていることは流石に言えなかった。
言っても信じてもらえるか微妙だし、重要なのはそこじゃない。
「実は私は女神から神聖魔法を授かっているの。先日のオレガリオでのスタンピードは故意に発生させたものだった。後宮の中に魔物の住処と王宮を繋げるゲートが開かれていて、私が神聖魔法を使ってゲートを浄化して閉じたのよ」
「レティが浄化を!?」
父は更に驚いている。
浄化は巫女特有の魔法であり、魔力ではなく神力を使う事は両親も知っている。ユリカが召喚された時に元国王が神の巫女に纏わる話を公表したしね。
そんな特別とされている神聖魔法を娘の私が使える事について疑問しか湧かないのだろう。
まあ、百聞は一見にしかずだ。
私は胸の前で手を組み、祈るポーズを取って神力を可視化させた。青白い光は神力特有の色だ。魔力も属性によって色が変わる。
「本当だわ・・・、レティシアの纏ってるものは神力なのね。水属性の魔力だったらもっと青に近い水色だし」
「私達は、スタンピードの時に実際にレティシア嬢が魔物を浄化する所を見ている。だから・・・、女神に力を授かったレティシア嬢が言うなら、世界の消滅の話も本当なのだろうな・・・」
「なんてことだ…。レティ、その神力の事はここにいるメンバーの他に誰か知っているのか?これはとんでもないことだ。他国にレティの力が知られたら、きっと権力者達に狙われる事になる」
父の言葉に皆が動揺を見せた。
「このメンバーのほかには魔王達が知っているわ。彼等にもお父様と同じことを言われて神力の事を黙っているように言われたの」
「魔王…」
ルイスがその名前を聞いて顔を顰める。
「一応言っておきますけど、魔族は…魔王はオレガリオで言い伝えられている恐ろしくて残忍な種族ではありません。ただ竜人族やエルフ族のように高魔力保持者が多く、魔法に長けた種族なだけで、魔王はちゃんと民の為に国を治めていましたし、むしろ他国による人種差別に心を痛めていました。オレガリオに残っている魔族の資料はほとんどデタラメです。捕らえられた魔族の捕虜やアレクを助ける為にオレガリオに乗り込んできた姿を見れば、民想いの良き王である事がわかってもらえると思います」
「そうだな。元国王の方がよっぽど狡猾で残忍で恐ろしい人間だったよ」
「王太子時代から本当にクズだったわよね」
ここぞとばかりに元国王に対して毒を吐く両親に、ルイスも王太后様も居たたまれないのか視線を逸らした。
すると今度は従兄弟がルイス達に追い打ちをかける。
「今は我がジュスティーノ王国のように移民を受け入れた他種族国家が世界的に増えている。他種族を蔑み、閉鎖的な政治を長年行ってきたオレガリオ王国の方が異常なんだ。だから狭い視野でしか情勢を見れず、こうして破綻した。国として生き残りたいならその洗脳じみた選民意識を改めた方がいい。我ら監視役の3カ国はその差別的な風潮を決して許しはしない。復興支援の規約にも関わるからくれぐれも臣下や民達の教育をよろしく頼むよ」
「――――わかりました」
「それから、レティシアの力は口外しないよう箝口令も出しておいてくれ。レティシアの後ろには我らジュスティーノとガウデンツィオがついている。貴方の息子であるアレクに危険が及ばない為にも、そこは徹底した対策を頼むよ。レティシアの力なしでやっていけるよう尽力してくれ。我らもその為に支援をしていくつもりでいるよ」
「有難きお言葉、痛み入ります」
本来なら第2王子である従兄弟が一国の王に対して取る態度ではない。でも見張られている立場としては甘んじて受け入れるしかないだろう。それがオレガリオが犯した罪なのだから。
「話を戻しましょうか。レティシアの話をまとめると、ユリカと元国王の数々の愚行により、民達が疲弊して女神への信仰心が弱まってしまった。そのせいで女神の神力が弱まり、巫女の役割をこなせないユリカはクビにして、代わりに高魔力保持者のレティシアに神聖魔法を授けた。そして現在の女神は更に神力を失って体を失い、この国を維持する最低限の神力しか持ち合わせておらず、気を抜いたら女神は死に、愛と豊穣の加護が消えて国が滅ぶ。という認識で大丈夫かしら?」
「うん。そういうことなの」
母がわかりやすく要点をまとめてくれた。いろいろ省いた事実もあるけれど、致し方ない。目的は女神の神力を安定させることだ。それが世界の救済になる。
母の言葉を聞いてルイスと王太后様は顔面蒼白になっている。そして従兄弟は顎に指を添えて質問をしてきた。
「ちょっといいか。女神が消えてオレガリオが滅ぶのは理解したが、それが何で世界の滅亡に繋がるんだ?」
そうだよねぇ。私もわかんないわ。そこ一番説明に苦しむところなんだよね。
だってこの世界、モデルがゲームだからメインのオレガリオとガウデンツィオ以外の国はモブ要素でしかないのよ。
だからポンコツ女神のいい加減さがかなり浮き彫りとなっている。シナリオに出てこないから興味もなかったんだろう。
こうなっては仕方ない。
女神信教を布教する為にも、でっちあげるしかないわね。
「私もよくわからないのだけど、女神が消滅すると世界の均衡が崩れて波紋のようにどんどん大陸の加護が失われていくらしいの。それを防ぐためにユリカではなくて私が神聖魔法を授けられたのよ」
「うーん、よくわからないけど、女神が死ぬとそこから伝染するかのように大陸中の豊穣の加護が失われるってことか?」
「そう!たぶんそれ!」
よし、なんとか乗り切った!
「なんて恐ろしいの…っ。ただでさえ我が国は食料難なのに、これ以上加護の恩恵を得られなくなったら、我が国の民達は食物が育たなくて飢え死にしてしまうわ!レティシア、私達はどうしたらいいの!?」
「女神に祈りを捧げて下さい。女神を信仰する心こそが神力の源だと言っていました。一刻も早く疲弊した民の心を癒して女神への信仰心を失わないよう対策を取ってください。それが女神の力となり、オレガリオだけでなく世界の加護も失わずに済む」
「わかった。それは教会側と連携を取って早急に対応に当たると約束するよ。君の力のことも極秘扱いとして処理する」
「ありがとうございます。国王陛下」
◇◇◇◇
用意された客室に再び戻り、未だ起きないアレクの寝顔を眺める。
良かった。何とか信じてもらって対応を取ってもらえそうだ。
あとは他国で女神信教の布教活動ができないかジュスティーノの伯父様と魔王にも相談してみよう。それから私の力が悪用されないように身を守る護身用アイテムを増やした方がいいかもしれない。
それはガウデンツィオに着いたらアドラとザガンに相談ね。
そんな事を考えていると、突然部屋の窓を激しく突く音が聞こえ、驚きで飛び跳ねる。
「何!?」
窓の外に視線を向けると、大きな鷹が窓を開けろと嘴でつついていた。
「もしかして魔鳥?」
慌てて窓を開けると私の腕に止まり、魔力を流すとアドラの顔が映った。
「アドラ!?すごい偶然!ちょうど貴方に相談したいことがあって―――」
「レティシア嬢!!至急ガウデンツィオに帰ってきてくれませんか!?」
初めて見るアドラの取り乱す姿に嫌な汗が背中を伝う。
「…何?どうしたの?何があったの?」
「魔王様が…、魔王様が意識不明の重体なんです!!」
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◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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