女神の選択②
怖い───。
目の前の女神の笑みを見て、少し震えてしまっている。
笑顔なのに、無機質な印象を受ける。
感情があまり伝わって来ない。
同僚の女神が事実上、体を失くしたというのに笑っているのだ。
『えー?だって、ユリカはね、元からああいう性格なの。私の世界にいた頃から魂が真っ黒だったもの。黒い魂の持ち主はね、息をする様に嘘をつくし、欲しいものはどんな手を使っても手に入れるし、敵は容赦なく蹴落とすわ。あの子がユリカを召喚したと聞いた時はホントびっくりした。私の世界の人口何億人いると思ってるの?その中でユリカを選ぶって、ホント愚かとしか言いようがない。実際この世界でも好き勝手やってたから処刑対象になったんでしょ?まあ、見た目清純なお嬢様だから騙されちゃうのもわかるけど。でもねぇ、神があんな女に引っかかっちゃダメでしょう』
一言も喋ってないのに、さっきから私の思ってる事が筒抜けなのも怖い・・・。
『私からすればあの子はただのおバカさんよ。最後のチャンスだったのに、何でユリカなんか助けて自滅しちゃってるのかしら。1から10までやる事全部ズレてると思わない?ホント困った子よね』
一見、プンプンと可愛く怒っているように見えるけれど、実際は違う。
この人、すごく怒ってる。
特にポンコツ女神に対しての怒気がすごい・・・。
だって、彼女の強い神力に気圧されて震えが止まらないもの。
『はあ。・・・まあいいわ。ところでレティシアさんは何であの子を呼んでたの?代わりに私が聞いてあげるわ』
「いえ・・・、あの・・・私もうすぐこの国を出るので、最後にまた会ってお別れを言いたかっただけです・・・っ、あと、彼女からもらった神聖魔法はどうすれば良いでしょうか・・・?か、返した方が良いですか?」
怖い・・・帰りたい・・・、
早く帰りたい・・・、
『いいんじゃない?そのままで』
「え?」
『私の世界じゃないし、返された所でもうあの子も何も出来ないし』
突き放した口調に急に不安に襲われる。
そうだ・・・。この目の前の人はこの世界の神じゃない。
という事はいずれ去ってしまう。
神が不在でこの世界は成り立つの?
ついさっき、世界を維持するだけの最低限の神力しか無いと聞いたばかりだ。
それってある日突然、神力を失って世界が消滅する可能性もあるんじゃないだろうか。
それを考えると、目の前の女神の怒りも分かる気がする。
あのポンコツ女神の行動は本当にやる事なす事ロクでもない。視野が狭くて、直情的で、全然神様らしくなかった。
根本的な問題に気づかず、表面だけ取り繕ろうとして悪化してる。純粋も度を超すと愚鈍でしかない。
今のこの現状だって、ユリカの魂を助けるのに神力使って空気になったとか、何の冗談よ・・・。
この間私に、自分と世界は一心同体だから自分が消えたら世界も消滅するって言ってたよね?だから協力してくれって私を呼びつけて巻き込んだよね?
なのに、何で言った本人が自滅してんの!?
自分の世界を滅亡させたくないからって人を巻き込んでおいて、自滅の理由がユリカへの罪悪感って、マジで勘弁してほしい・・・っ。
そのせいで他の民を消滅の危機に晒していいのか?
きっと、目の前の女神がキレてるのはそういう所なんだろう。
彼女にとっては業の深いユリカがどうなろうと自業自得だから興味もなくて、そんな者の為に自滅して他の民を危険に晒してるポンコツ女神に、同じ神として腹が立っているのかもしれない。
そんな女神が生み出したこの世界を、神達は保護してくれるのだろうか?
別に興味ないから消えても良いと思っているんじゃないだろうか・・・?
だって、目の前の女神からはこの世界に対する思い入れも感情も全く感じられないし、守る義務など無いのだろう。
そんな考えに行き着くと、顔から血の気が引き、また恐怖で体が震え出した。
『ふふふっ、貴女、頭良いわね。あの子より貴女の方が統治に向いてるかも。───まあ、大体貴女の思っている通りよ。神界でこの世界を保護する話は出ていない。基本的には自己責任で他の神の統治に干渉したりしないものなのよ。私が今ここにいる事自体がレアケースなの。今回最後のチャンスだったにも関わらず、あの子が空気になったのと、元住民の調査をしにきただけ。だからこの世界が自然消滅する可能性は否定できないし、消えた方が良いと思ってる神がいるのも事実ね』
「そんな・・・」
『でもオレガリオが滅びない限りは大丈夫じゃないかしら。あの子の神力の起点はこの国の土地だから、女神信仰がなくならない限りは大丈夫でしょう。神界は保護もしないし害したりもしないスタンスだから、そんなに心配なら女神信教を布教させれば?信仰者が増えれば神力が高まるから、いつかまた神体をとれるかもよ?』
え・・・私また尻拭いさせられるの───?
『だって、現状で貴女しか消滅を回避する方法を知らないじゃない。私はもう自分の世界に帰るし、ここに来る事は多分二度とないわ。別に貴女も自由にしていいのよ?空気になったあの子に振り回される事もないわ。神の存在など忘れて自分の人生を生きなさい』
「でも・・・っ」
『これ以上は話しても仕方ないわ。私が話せる事は全部話した。もう戻りなさい』
また視界が白く霞み、女神の顔が薄れていく。
『もう神はいない。これからは、貴女達一人一人が世界を作りなさい。自分の生を全うすればいい。本来、それがあるべき姿なのよ』
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◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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