女神の選択①
早朝、王宮内の聖堂。
認識阻害ローブを羽織り、転移魔法でこっそり聖堂に入った。そして女神像の前で祈りを捧げる。懐かしい。
国を出る前、よく祈っていた。
最後の方は祈るというより、ユリカを恨む気持ちを抑えるのが大変で、気持ちを落ち着かせる為にここで懺悔したり、与えられた試練が酷すぎる!なんて愚痴ってた時の方が多かった気がするけど・・・。
魔力を神力に変換し、体に纏わせる。
そして祈る事10分ほどで声が聞こえてきた。
『レティシア』
名を呼ばれて目を開けると、再びあの白い空間だった。
『レティシア』
それは、聞き覚えのない声で───、
振り返ると見知らぬ女性が立っていて、ポンコツ女神とは違って白に近い銀髪に、濃い紫の宝石眼を持つ美しい女性がそこにいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・え?どちら様?」
『ふふふっ、初めまして。レティシアさん』
え?ホント誰?
どういう状況?
辺りを見回すと、やはり以前来たあの白い空間で、ここが神の領域である事は理解した。
「ええと・・・、貴女も女神様という認識で良いのでしょうか?」
ただの直感に過ぎないけれど、今目の前にいる存在が、ポンコツ女神とは比べ物にならない力を持つ存在だというのを肌で感じる。
圧倒的な神力。
『そうね。普通は他所の世界にお邪魔するなんてあまりないのだけど、たまにあるのよ、こういうケース』
「───・・・あのちびっ子女神様はどちらに・・・?」
『一応いるわよ。ただでさえ弱っていたのに昨夜また膨大な神力を使ったから姿を保てなくなってしまったけれど』
「え!?消滅したってこと?じゃあ私達も消えてしまうの!?」
嘘でしょう!?
今までどれだけ頑張ったと思ってるのよ!
アレクを無事取り戻す事ができて、これからやっと平穏な暮らしを送れると思ったのに、全部消えちゃうの・・・?
あまりのショックに膝の力が抜けて地面に崩れ落ちる。
『ああ、勘違いさせてごめんなさい。消滅はしてないわ。この世界を維持する為の神力しか残ってないから姿が見えないだけ。でもちゃんと存在してるから大丈夫。空気になったとでも思ってちょうだい』
「・・・・・・・・・? 」
更に言ってる事がわからない・・・。
とりあえず私達は消えないということで良いのだろうか?
神の思考はよくわからないのでもう聞き流す事にする。価値観が違い過ぎる。突っ込んでも沼にハマるだけで一生わかり合えなさそう。
引き気味に目の前の女神に相槌を打っていると、クスクスと笑い声が聞こえた。
『貴女、この間神様をチェンジしろって叫んでた子よね』
聞かれてたんか・・・。
そういえばポンコツ女神が必死に私の口を押さえてたもんな。やっぱ神様って他にもいるんだ。
「ご無礼な事を申し上げて大変申し訳ありませんでした」
『いいのよ。貴女の怒る気持ちは理解できるから。あの子はまだ新米で運営や他者の機微に疎いのよねぇ。それに転移とか転生の技術って何気に高レベルだから細心の注意を払わなきゃいけないのに、流されて簡単に手を出すからめちゃくちゃになるの。上の者に統治能力がないと下界の者達は気の毒よねぇ・・・』
めっちゃ憐れみの目で見られてる。
めっちゃ上から目線。まあ神様だからいいのか・・・。
───いいのか・・・?
ていうかこの時間は一体何?
もうすぐこの国を出るから、その前に今後の話を決めておきたくてポンコツ女神に会いたかったのだけど───、
アレクはともかく、私自身はもうオレガリオに関わるつもりはないんだよね・・・。
ユリカは巫女を降ろされてもう何の力も持たないし、私の指名手配は取り下げられたから今後は堂々と外を歩ける。
平民だから、もう自由だ。
こうして女神像の前で祈る機会もなくなる。
だから最後に女神と話したかったのだけど・・・、
「ということは、今後は貴女様がこの世界の神に・・・?」
『いいえ?私には私が治める世界があるから』
・・・じゃあ何故ここにいる。
『昨夜、こちらの人間を私の世界に1人受け入れたのよ。ユリカって子。知ってるでしょう?貴女も元は私の世界の住民だったものね』
「え!?日本の神様!?」
『日本というか、全部?世の中にはね、神の数だけいろんな世界が存在するの。世界や生命を生み出し、生命に宿る魂の管理が神の仕事であり───』
「あっ、あの!話遮ってすみません!ユリカを受け入れたってどういう事ですか!?まさか逃したんですか!?」
もう壮大なファンタジー話はお腹いっぱいなので気になる部分に話を戻す。ユリカを受け入れたってどういう事よ?
日本に帰したってこと?
ユリカが犯した罪はどうなるの!?
過去、彼女に貶められた者は私だけじゃない。冤罪で没落したり、愛する人を奪われて心を壊してしまったり、中には命を落とした者もいると聞いた。
ユリカの行動でどれだけの人が不幸になったと思ってるの!?
先日のスタンピードでも沢山の死傷者が出たのに、
なのに、何でユリカは女神に助けられてるのよ。
元巫女でも、ヒロインだから?
何をしても、庇ってもらえるの?
悔しくてギリリと歯を食いしばる。
『不満そうね?』
「・・・まあ、彼女にはかなり苦しめられたので、今まで重ねた罪に見合った罰を受けて欲しいとは思いますね。日本でだって普通に逮捕されてもおかしくない行いをしてましたし」
『そうなのよねぇ。あのユリカって子、召喚される前から随分と他者の恨みを買っていて業が深いのよねぇ・・・。あんな汚れた魂を見抜けないあの子にも呆れたもんだけれど、こればかりは経験値だからなぁ。生み出した世界観と上級者レベルの転移に手を出したのがそもそもの間違いね』
全然話が見えない・・・。
私が怪訝な顔をしていると女神が再び笑う。
『神も若い時は純粋で、疑う事を知らないの。万能ではないということよ。振り回された貴女達からしたら迷惑でしかないだろうけど』
ホントにな。
『という事で、ユリカは私が預かるわ。まあ・・・命は助けられたけど、彼女が召喚された日の時間軸に合わせずそのまま私の世界に戻したから、残りの人生かなり辛い事になるでしょうね。どのみち輪廻に乗るにはちゃんと魂の禊をしなきゃいけないから、それが終わるまで彼女はこれから自分のしてきた事が全部返ってくると思うわ』
「禊・・・?」
『そう。因果応報という言葉があるでしょう?汚れた魂の持ち主は、生きているうちに禊をしないと輪廻の輪に乗れない。ユリカは二つの世界で故意に人を陥れている。ここで罰を受けて処刑された場合、この世界で犯した罪は許されても、元の世界で犯した悪事は無かった事にはならない。つまりここで死んだらユリカは輪廻の輪から外れて魂のまま、悠久の時を苦しむ事になる』
だから・・・、ユリカを逃したの?
死んだ後も、苦しむ事になるから・・・?
『そう。あの子はそれを避けたかった。自分が未熟なせいで人生を狂わせてしまった。自分が犯罪者にしてしまったって思ってるのよ。だから二つの世界の禊ができる選択を取った。それで処刑される前に無理して神力を使い、ユリカを逃したの。そして自分は神体を失ってしまったというわけ』
「・・・・・・・・・」
あの子はもう、下界にも神界にも干渉できない。
ただこの世界を維持する為に、
神体もなく、空気のようにここに在り続けるだけ。
もう、会えないの。
ホント、あの子っておバカさんよね?
そう言って、目の前の女神は笑みを浮かべた───。
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