悪役令嬢と元婚約者② side ルイス
「何故、言ってくれなかったんだ?・・・何故、黙って私の前から消えた?」
もし、打ち明けてくれていたら、
何に代えても2人を守った。
ユリカじゃなくてレティシアを選んだ。
そしたら今頃3人で一緒にいられたかもしれない。
夫として、父親として、
2人の側にいられたかもしれない。
そんな資格ないと思いながらも、今まで捨てきれなかった別の未来に執着して、口から出た言葉にハッとする。
同時に、レティシアの表情が抜け落ちた。
口にして初めて、その思いが傲慢だった事に気づく。
ヒュッと喉が鳴り、喉奥が窄まる。
情けない事に、手が震え出した。
「あ・・・・・・、ちが・・・・・・ごめ・・・・・・」
口の中の水分が無くなり、声が掠れる。
早く謝らないといけないのに、無表情になったレティシアの反応が怖くて言葉が出てこない。
違う。
違うんだレティシア。
僕はただ、君を失いたくなかった。
離れたくなかった。
「・・・レ・・・レティシア・・・」
「何故───ですか。逆に聞きたいわ。あの頃の貴方と私に、子供の事を打ち明ける時間はあった?ユリカが召喚されてから、貴方は護衛だと言って片時も離れずユリカの側にいたじゃない。忘れてしまったの?」
───そうだ。
どうして、忘れてしまっていたんだ。
当時、淑女マナーについて注意するレティシアをユリカが怖いと言い出し、仕方なく距離を置いていた。
レティシアの言う通り、2人の時間は一気に減ってしまったのだ。
ユリカへの気持ちがとっくの昔に消え去っていたとしても、居なくなったレティシアはその事を知らない。
彼女の中では、僕は裏切り者のままだとわかっていたのに。
さっきの発言は、僕は絶対に言ってはいけない事だった。
国の立て直しで忙しくて疲れていたから、無意識に感情が表に出てしまった。
でもそんな事は何の言い訳にもならない。
「言おうと・・・したわ。だから学園が終わってから王宮に行ったの。でも貴方はユリカを私室に招き入れて彼女を妻に望み、キスしてた」
「あ・・・・・・・・・あ・・・・・・」
体の震えが止まらない。
レティシアの失った表情から、
彼女の傷の深さを思い知る。
「───言えるわけ、ないでしょ」
光が消えたレティシアの瞳から、涙が溢れた。
ただ静かに、声も出さずに泣いている。
それがより一層、悲しさを漂わせた。
「ち・・・違うんだ・・・、僕はあの頃冷静じゃなくて・・・、最近までユリカに洗脳されてた事もあって・・・、ホントは、本当に僕が愛していたのはレティだったんだよ!」
動揺して一人称が僕に戻ってしまった。
でも今は国王としての体裁を気にする余裕がない。
レティシアが一気に遠くなってしまった。
「嘘じゃない・・・っ、僕はレティを愛してた。そして今でも・・・ずっと、愛してるよ・・・っ」
ずっと愛してた。
ずっと会いたかった。
そんな君との間に、アレクがいた。
愛さないでいられるはずがない。
僕とレティの子供だ。
側にいたいと、願う事をやめられない。
堪えきれずに、僕の瞳からも涙が溢れた。
「・・・・・・女神に・・・言われたの」
「・・・?」
「巫女には・・・女神の加護があって、自分に好意を持つ者達に魅了魔法をかける事が出来るって・・・」
「魅了魔法・・・?」
「相手の好意を増幅し、魅了して、巫女の庇護者を作る加護が授けられていたみたい」
「魅了・・・・・・女神の加護・・・? ・・・じゃあやっぱり、最初から僕らはユリカに洗脳されて!?」
僕がそう言うと、無表情だったレティシアが悲しそうに笑って首を横に振った。
「違うわ。女神の加護は洗脳じゃない。増幅するだけ。敬愛、親愛、恋情、羨望、いろんな好意を増幅するだけ。だから国民の希望の象徴となり、学園でも羨望の眼差しで見られた。でも巫女に好意を持たない者に加護の力は効かないの」
どこかで、洗脳なら自分は被害者だ。
だから救われるかもしれない。
そんな希望が一瞬湧いて、一瞬で消えた。
レティシアの言葉で、察してしまった。
「・・・貴方のユリカへの想いは───」
「言うな!・・・違う、・・・絶対に違う!全部魅了魔法のせいだ!」
僕の本心じゃない!
僕が愛してたのは昔も今もレティシアだけだ!
僕は俯いて頭を抱えた。
認めたくない。
認めたくないのに───、
「あの頃、貴方はユリカに恋していたのよ───」
その言葉に、僕は絶望した。
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【新連載始めました。良かったら読んでみてください(^^)】
◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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