裁判の判決
国際裁判によるオレガリオ元国王の判決が下った。
裁判所でザガンから託された過去見の水晶による映像は、一部のみを抜粋した映像にも関わらず、裁判に参加した者達を震撼させた。
流されなかった映像がどれだけ酷かったのか容易に想像がつく証拠映像で、傍聴席にいた者達の中に体調不良を訴えて退席する者が出たらしい。
元国王に下された判決は、オレガリオ内で三日間の磔の後、断頭台での斬首。
各国へ仔細を通達の後に刑を執行。
公開処刑となった。
そして、この裁判によって人身売買に関わる闇組織が摘発され、オレガリオに留まらず近隣諸国でも逮捕者が続出した。
それはオレガリオも同様で、元国王だけで無く宰相や騎士団長など、以前国を出ていった忠臣の後釜に立った王族派貴族が次々と捕まり、死刑が確定した。
ルイス達に関しては、本来連座で処刑でもおかしくない事件だったが、過去見の水晶の証拠映像により、元国王以外の王族は関与していない事が証明されたのと、証拠を全て提出した事でルイス達は連座を免れた。
でも先日のスタンピードで王宮が破壊された事や、多くの死傷者を出した事、内政を担う多くの貴族が処罰された事で、オレガリオ王国は実質的に壊滅状態に陥り、とても苦しい状況に立たされている。
元国王の罪と判決は国民に衝撃を与え、王家の威信も失われてしまった。
罰は逃れたものの、国の信用が地に落ちてしまった事により、新国王であるルイスはあくまで第二王子が成人するまでの中継ぎの王とされた。
また第二王子の教育については、国の再生の為にオレガリオに隣接している3つの国が監視役として復興支援を行う事に決定した為、成人まで3つの国に留学しながら外交を学び、信頼関係の構築に努める事となった。
オレガリオの混乱時に国の乗っ取り等が起きぬよう、政治的な意味も含まれているらしい。
そして今日は、オレガリオ王太后がジュスティーノの王宮に参内している。
裁判が終わり、復興支援の内容を伯父様達と協議するためだ。その席に私も呼ばれている。
「レティシア。無事でよかった。元気そうで安心したわ。貴女にも、アーレンス公爵家の者達にも本当に申し訳ない事をしました。許されるとは思っていませんが、謝らせて下さい」
そう言うと王太后は私に深く頭を下げた。
「面をお上げ下さい!王太后様。裁判が終わり、罪人は裁かれました。もう全て済んだ事。元国民として一日も早いオレガリオの復興をお祈り申し上げます」
「───貴女の国際指名手配は撤回され、冤罪によるものだと各国に通達されました。いつでも、オレガリオに戻ってきて良いのよ。私達は大歓迎だわ」
王太后の言葉には曖昧に微笑んでおいた。こういう時、妃教育が役に立っている事を実感する。
王太后は聡い方なので私の気持ちは察しているだろう。
話題を変えるように、私の腕の中でスヤスヤと眠るアレクに目を向けた。
「一目見た時から気になっていたのだけど、不思議な布を巻いているのね。それにアレクセイが包まれて眠っているわ」
とても興味深そうに王太后がアレクの顔を覗きこみ、そしてその寝顔に「可愛いわね」と、笑みを浮かべた。
「これは抱っこ紐というモノで、非力な女性でも子供を長時間こうして抱きながら移動したり、作業ができるのです。子供も心地よいのか、安心して寝つきが良くなったり
、情緒が安定するようです」
アレクの頭を撫でながら答える。
あれから試作品が出来たので、現在お試し中。
紐の太さや縫い付ける位置の調整は必要だけど、なかなか良い感じに出来た。
実際、赤ちゃん返りで夜泣きするようになったアレクを寝かしつけるのが楽になり、寝つきも良くなったのだ。
アレクも気に入ったようで、甘えたい時に抱っこ紐を持ってくる。
「アレクセイはとても怖い思いをしたものね。私達が至らなかった為に、可哀想な事をしてしまったわ。───アレクセイに触れても良いかしら?」
「ええ」
「本当に、ルイスの小さい頃にそっくりだわ・・・」
そう言いながら、王太后は涙ぐみながらアレクセイの頭をそっと撫でる。
「・・・不甲斐ない祖母でごめんなさいね」
「・・・やはりご存知ですよね」
「貴女の髪の色と、ルイスと同じ顔をしているのだもの。一目見ればわかるわ。本当はアレクセイと一緒に戻ってきて欲しいのだけど、同じ女として貴女が受けた仕打ちを思うと、そんな事とても言えないわ。それが貴女達の幸せに繋がるとは到底思えないもの」
王太后は悲しそうに表情を崩し、アレクセイから手を離した。
「アレクセイには幸せになってもらいたい。そして貴女にも。・・・本当に、ごめんなさい」
王太后の瞳から、堪えきれなかった一筋の涙が流れた。
◇◇◇◇
「元国王は今、心を閉ざして廃人のようになっているらしい。愛妾の件が相当ショックだったようだ。王太后の問いかけにも一切反応せず、最後の面会だというのに、王太后や殿下達を思いやる言葉は別れの際まで出なかったと聞いた」
会議を終え、王太后が客室に戻った後に父が口を開いた。
元国王は、愛妾の正体が混血魔族で、国庫と人身売買の利益で作った魔道具を全て持ち逃げして消えた事を知ると、発狂したらしい。
「あの方は、一体何がしたかったのかしら」
「さあな。王太子時代から愚か者だったから知らん。それを臣下達が支えていたのに、巫女が現れてからは崩壊する一方だったな」
女神が巫女を召喚しなければ、
ユリカがゲームの主人公のように、巫女として真面目に目の前の事に取り組んでいれば、
たった1人の人を愛せていれば、
巫女を通して女神の加護が国に与えられ、女神信仰も深まり、国は繁栄できたのだろうか。
───今となってはもうわからない。
「今、近隣諸国に亡命した貴族達に戻ってもらえないか連絡を取っている。元国王の判決は既に公表されているからな。既に一部の者達からは良い返事をもらえている。やむ得ずに一度国を捨てたとはいえ、皆にとって祖国である事には変わりはないからな」
「お父様達はどうするの?」
「私達はジュスティーノで商人として生きるよ。魔王様に恩を返したいし、平民の方が身軽に動ける。貴族に戻ったら好きにお前やアレクに会いに行くことも難しくなってしまうからな」
「そう・・・」
「お前は、またガウデンツィオに行くのか?」
「うん。そのつもりでいる。アレクが帰りたがっているし」
「まあ、アレクにとっては生まれ故郷だからな。───皆無事で、解決するといいな」
「うん・・・」
「───それと、ルイス陛下から改めて面会を希望する書簡が届いたそうだな。王太后と共にオレガリオに行くつもりか?」
「ええ。ルイスと約束したから。アレクの親権についてもキッチリ話してケジメをつけないといけないもの」
「そうか。私は今回行けないが、スカーレットとお前の従兄弟のジュスティーノ第二王子達が同行してくれる。気をつけて行ってきなさい」
「はい」
そしてついに、
ルイスと面会する事になった。
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【新連載始めました。良かったら読んでみてください(^^)】
◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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