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それぞれの守りたいもの




「レティシア、お前はジュスティーノに残れ」


「え…?」


「アレクがまだ精神的に不安定だろ。今ガウデンツィオは危険だ。お前はここに残ってアレクの側にいろ」


「でも……………」





何か言いたいのに、それ以上の言葉が出なかった。



覚悟を決めなければとついさっき気を引き締めたばかりなのに、魔王の言葉にもう揺れている。


ガウデンツィオの民の事が心配なのは嘘じゃないのに、アレクの事を想うと一歩が踏み出せない。




これ以上あの子を危険に晒したくない。


もう離れたくない。




それでも押し寄せる罪悪感に潰されそうになる。



俯いて震えている私の頭に、ふわりと暖かい手が乗る。




「気に病むな。ガウデンツィオを守るのは俺達の仕事であってお前の仕事ではない。お前の仕事は、アレクを守る事だ」


「――――――――うん」


「俺達が負けるわけがない。…それに、お前が残した結界と治癒の魔石があるからな」



「……うん」




――――大丈夫だよね?


もうシナリオは崩壊してるんだから、バッドエンドになんかならないよね?ゲーム通りいかないよね?


魔王も私も闇落ちしてないし、この世界を滅ぼすほどの魔力を持っている魔王が負けるはずがない。



きっと、大丈夫だよね?




不安に駆られていると、魔王がわしゃわしゃと私の頭を撫でた。




「大丈夫だ。ガウデンツィオを出る前に手は打ってある。アドラ達を残したのはその為だ。何かあった際は民達が獣人国に転移して避難できるようにしているし、獣人国と援軍の約束も取り付けている。何も恐れることはない。全てが終わるまで、お前はアレクとここで待っていろ」




獣人達もこの戦いに参加しているの?

それはシナリオにはない展開だ。



彼らの戦闘能力は高いから、ガウデンツィオにとっても心強い戦力になる。それに民達の避難場所が確保されているなら被害は少なくて済むだろう。


アドラならしっかり対策を練っているはず。




「…うん。わかった。待ってるわ」


「頭が鳥の巣みたいになってるぞ」


「…うん。貴方のせいだよね」


「ふっ。―――じゃあな」




最後に私の頭にポンと軽く手を乗せて、


そして離れた。




「―――うん。気をつけて」





魔王の後ろ姿を眺めながら、強く願う。






どうか、皆無事でいて。










◇◇◇◇




「アレク、おはよう」


「おあよー」


「ぎゅ~!こちょこちょこちょ~!」


「きゃはははっ」



愛しい我が子を抱きしめて、大きなベッドをゴロゴロと転がる。


オレガリオから戻って2週間ほど経ち、アレクは大分笑うようになってきた。


日中、視界に私がいれば両親や従兄弟達と遊ぶ様にもなった。



その間私が何をしているのかというと、現在針子さんと抱っこ紐を開発している。


これがあれば長い時間アレクと離れずに行動できるから。



日本人の記憶を掘り起こしてるんだけど、薄ぼんやりとしか覚えてなくて難航中。


リュックサックの知識はあるからそれを応用して手探りで試作品を作っているところだ。


従兄弟達の乳母だった侍女長も、平民の針子さんも、この抱っこ紐は絶対売れると言ってくれたので、完成したらまたアドラに見せようと思っている。




またきっと、あの日常が帰ってくる。






「ははうえ」


「ん?どうしたのアレク」



トコトコと私の元にやってきたアレクを抱き上げて膝の上に乗せる。



「まおーしゃまとジャガンは?どこ行っちゃったの?」




私はその質問の答えに一瞬詰まった。でもすぐに気を取り直して笑顔でアレクの頭を撫でる。



「今お仕事でずっとお出かけしてるのよ」


「・・・しょっか」



忙しくてしばらく会えないと言うと、しょぼんとして寂しそうな顔を見せた。


少し落ち着いては来たものの、アレクはジュスティーノに初めて来たので知らない人が多く、まだこの場所に馴染めていない。



「じゃあ、いつおうち帰れる?早くおうちかえりたいの」



ぎゅっと私に抱きついて帰りたいと甘えるアレク。



「そっか。そうね、早く帰りたいわよね。・・・でもごめんね。今はまだちょっと無理なんだ。皆お仕事があって、それが終わるまではまだ帰れないの。だからもう少しだけ私とここでお留守番してようね」


「・・・あい」



「私も早くアレクと一緒に帰りたいわ。また庭のブランコに乗って、皆でご飯食べて、ドワーフ達といろんなモノ作って、ケンタウロスの背中に乗せてもらったりね」



あの日々を思い出しながらクスクスと話していると、アレクもフワっと笑顔が溢れた。



「うん!はやくみんなに会いたいね~。ヴォーフといっしょにブアンコいっぱい乗りゅの!ケンチャロスにもあしょんでもりゃうの!」



「ふふふっ、楽しみね。じゃあ皆のお仕事が終わるまで、帰ったら何して遊ぶか今からいっぱい考えとこう!」


「あい!」



「ぎゅ~!」


「きゃ~!」



私はアレクを思い切り抱きしめ、頬擦りをする。顔中にキスを降らせるとくすぐったそうに笑い声をあげた。




アレクはやっぱりガウデンツィオに帰りたいのね。




そうだね。私も早く帰りたい。




早く皆に会いたいね。

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