誘拐の理由
いつもロジーナの事を「ロイーナ、ロイーナ」と舌ったらずな発音で呼び、彼女に気を許して甘えていたアレク。
「アレクと一緒にいた時の貴女は、いつも優しい笑みでアレクを見ていたじゃない。だからアレクは貴女を慕っていたのよ?それは全部嘘だったということ?」
一瞬、ロジーナの顔が苦しげに歪んだ。けれどすぐに私を憎らしげに見上げる。
「・・・・・・・・・そうよ。全部演技!アンタが産んだ子供なんて可愛いと思った事なんか一度もない!」
「何ですって・・・!?」
「誘拐したのだって、アンタ達親子を魔王様から引き剥がすためよ!あの子を国から出せば、アンタは後を追ってガウデンツィオから出て行くでしょう?・・・アンタの事はずっと気に入らなかった。なんで弱い人間族が魔王様と四天王に大事に守られてるのよ!その場所を得るのに上級魔族の女達がどれだけ努力してきたと思ってるの!?私の方がずっと前から魔王様をお慕いしてたのに!!」
なによそれ───。
「まさかそれが理由・・・? アレクはそんな下らない嫉妬の為に危険に晒されたの?まだたったの2歳なのよ?」
「下らないって何よ!」
「下らないでしょうが!!私が気に入らないならアレクじゃなくて私をどうにかすれば良かったじゃない!アレクは関係ないのに、何で子供に手を出した!!」
私は魔力を全開し、最大の威圧をロジーナに放った。
「!!?」
ロジーナは咳き込んで鼻血を流し、私を驚愕した表情で見上げてくる。
格下だと思ってた私に気圧されて驚いているのだろう。
私は今までぬくぬくと遊んでいたわけじゃない。
現在の私の魔力量は魔王や四天王には及ばないけど、それより下の上級魔族には引けを取らないと自負してる。
ずっとゲームの強制力に殺されるかもしれないと怯えて過ごしてきた。
だからこそ、アレクを守る為に、2人で生き残る為に、ずっと鍛錬を続けてきたのだ。
神聖魔法を授かった今、ロジーナ1人を消し去るのは造作もないことだ。
ロジーナも私の威圧を浴びて本能的にそれを感じ取ったようで、さっきまで私に悪態をついていたのに、今は目の前で涙を流してガタガタと震えている。
私はそれでも怒りを抑えきれず、威圧を放ちながらロジーナとの距離を詰めた。
「かはっ・・・・・・あ、・・・うそ・・・何で」
ロジーナは吐血しながら後退り、手足を繋ぐ鎖の長さが限界になって進めなくなると、真っ青な顔で小さな悲鳴をあげた。
「大人のクセに、何を怯えているの?アレクは1人で、もっと怖い思いをしたのよ?」
アレクを傷付けた理由が下らなすぎて殺意が芽生える。
下手したらアレクは死んでいたかもしれないのだ。
むしろその可能性の方が高かった。
たまたま連れて行かれた先がオレガリオの王宮で、アレクの顔がルイスにそっくりだったから保護されただけだ。
運が良かっただけ。
そんな危険な状況に、2歳の子供を巻き込んだ。許せるわけがない。
怒りのままにロジーナの前に手をかざした時、魔王に制止され、怒りのぶつけ先を失った。
「レティシア。まだその女には吐いてもらわなければならない事がある。必ず厳罰に処すから今はその怒りを抑えてくれ」
わかってる。ロジーナは重要参考人だ。私の一時の感情で潰すわけにはいかない。悔しいけど、ガウデンツィオの事を考えれば耐えるしかない。
「・・・・・・・・・・・・わかったわ」
「・・・この女も今ので自分よりレティシアの方が格上だと気づいただろう」
「魔王様・・・っ、私はアデリーヌに騙されたのです!こんな・・・、こんな大事になるなんて思ってなかった!ただ私は・・・貴方の側にいるこの女が許せなかっただけで───」
「そんな事はどうでもいい。お前には内乱罪の容疑がかかっている。大人しく知っていることを全て話すんだな」
「内乱罪・・・!?そんな!私そんな事知りません!!」
「知らないじゃ済まされないんだよ。お前はこれから起こるかもしれないクーデターに間接的に関わっている可能性が高いんだから」
ザガンがロジーナの前にしゃがみ、視線を合わせる。
そして過去見の水晶でロジーナが後宮に囚われていた時の映像を見せた。
『やっぱり貴女を引き入れて正解ね!燃料作りが捗るわぁ。ずーっと高魔力保持者の魔族を捕まえたかったのよ。貴女が素直な娘で本当に良かった。すぐこちらの提案に飛びついてくれるんだもの』
『貴女のおかげで計画が早く実行出来そうだわ』
「このアデリーヌが言ってる『計画』ってなんだろうな?お前のおかげで早く実行できるらしいぞ?この後アデリーヌはオレガリオにあった魔道具全部持ち逃げして消えている。どこに行ったんだろうな?ガウデンツィオじゃない事を一緒に祈ろうな」
ザガンは一見爽やかに見える笑顔で、顔面蒼白のロジーナの前髪を掴み上げる。
「い・・・っ!!」
「仮にも上級魔族が、下級魔族である淫魔のハーフに騙されるなど恥を知れ。結果によってはお前の家族も連座だからな。自分の愚かさを悔いるがいい」
ザガンの言葉にロジーナは発狂した。
ひたすら「家族は関係ない」と額を地面に擦り付けて慈悲を乞う。
アレクを危険に晒したクセに、自分の家族への罰は回避しようとするなんて、どれだけ勝手な女なのか。
拳を握りしめ、魔力暴走しないようにひたすら怒りに耐えていると、魔王に手を取られて指が絡められた。
手のひらからひんやりとした魔力が少しだけ流れ込んでくる。
「魔力が暴走しそうになったら俺を呼べ。鎮めてやれるのは俺だけだからな」
「──────ありがとう」
この日から3日後、
混血魔族率いる連合軍が、ガウデンツィオに攻め入ったという連絡が届いた。
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【新連載始めました。良かったら読んでみてください(^^)】
◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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