絶対許さない
「ユリカが・・・処刑・・・?」
しかも、ルイスが決めたの───?
信じられない事実に呆然とする。
だってルイスは、
『ユリカ・・・。君が愛しくてたまらない。もっと早く君に出会えていたら、君を妻に欲したのに』
あんな切ない声でユリカに口付けて、彼女を求めていたじゃないか。
例えユリカへの愛情が女神の加護による魅了魔法の影響であっても、ルイスが巫女へ抱いた情は親愛や敬愛ではなく、恋心だったのは事実。
だから魅了され恋仲になったのだ。
恋をしなければ、男女の愛情は増幅されようがないのだから。
ユリカが女神の加護を失っても愛情は存在するはずなのに、それが何故処刑という結末を迎えているのだろうか。
そこまで考えて不意に再会した時のユリカを思い出す。
私に対して取り繕う事もなく敵意を剥き出しにしてきた。
『何でアンタがヴォルフガングと一緒にいるのよ!』
落ち着いてあの時の状況を思い返すと、どう見てもユリカは私に嫉妬していた。ヴォルフガングから離そうとしていた。
やっぱりユリカの狙いは魔王で、ルイスはユリカが本当に好きなのは魔王だという事を知ってしまった?
でも、その後続けられた報告内容はそんな次元の話じゃなかった。
「罪状は巫女としての待遇を享受しながら役目を放棄し、冤罪を被せて一部の貴族達が国を離れる原因を作った事。王族に薬を盛って洗脳した事。先日のスタンピードで王太子命令に背いて1人だけ逃亡し、多くの死者や負傷者を出すきっかけとなった事など、他にもいろいろと余罪があるらしい」
…………は?
驚きの情報量と内容に私は愕然とする。
冤罪を捏造したのはともかく、王族に薬盛ったって・・・・・・え?ルイスに薬を盛ったってこと?
あ・・・そう言えば以前・・・、
『でも・・・、ルイスは巫女より貴女を愛していました。だから貴女を失った時、自力で魅了魔法を解いた。並大抵の事ではありません。その後に巫女が使用した香水は洗脳の魔道具でしたが・・・』
言ってた───。
そういえば女神が言ってた!洗脳の香水使ったって!
その原料が精神干渉の禁止薬物だったのだろうか・・・。
しかも先日のスタンピード…浄化もしないで一人で逃げたんだ…それで離宮にいたのね…。
「何やってんのユリカ・・・」
呆れて何も言えない・・・。
それで女神はユリカから加護を取り上げたのか。
日本人なのに、どうしてそんな簡単に犯罪の一線を越えられるの?彼女は未だこの世界がゲームだと思ってるんだろうか。
だから犯罪を犯しても大したことないと?
この世界で生きてる人間は、ただのゲームキャラクターだと思ってるの?
もうここまでシナリオ崩壊してるし、女神も中途半端に手を加え過ぎて収拾つかなくなってるのに。
ここはゲームの世界に似てるけど、ゲームじゃない。
選択肢のコマンドだって出てこないし、ゲームのようにボタンを押せば自由に場所を移動できるわけでもない。ステータス画面だって見えない。
ゲームの中じゃないのに。
何故この世界にも法律があると気づかないの?
「前国王の裁判が終わって国民の反応が落ち着いてから刑を執行し、公式にはスタンピードで負傷して死んだことにするらしい。それから国際裁判にはオレガリオ元王妃の出席が決まった。新国王は立て直しで国を離れられないからな。その後に国の再生案についてこの王城で協議することになっている。あの国は未だ食料難だからな。今までのような好待遇の援助はできないが、国が荒れて民がこちらに雪崩れ込んできたら仕事が増えて困る。近隣国にも支援について打診する予定だ」
「そうですか…」
「窓口は私と妻が請け負いますよ。元々ずっとその役目を担っていましたからね」
「フランツ、よろしく頼む」
「俺達は消えた愛妾を捜索せねばならないからガウデンツィオは裁判には出れない。だが獣人国に知らせを出したのでそちらから出席してもらえるだろう。混血魔族らが作った対魔族用と対獣人用の魔道具が出回ってる可能性が高い。そちらの捜索も俺達と獣人国で担うが、何か新しい情報が出たらすぐに知らせて欲しい」
「分かった。ジュスティーノも協力させていただく」
「感謝する」
「それからレティシア」
「はい、伯父様」
「オレガリオ新国王が裁判終了後にお前との面会を希望している。どうする?」
「・・・・・・・・・」
正直に言えば、会いたくない。
アレクを渡せと言われたらどうしよう。
もちろん絶対渡すつもりはないけど。
気が重い───。
でもルイスとアレクが出会ってしまった以上避けられない道なのだろう。逃げても仕方ない。それで執着されても困るし。
アレクの幸せを考える為にも、ちゃんと向き合わなきゃいけない問題だ。
ケジメをつけなくちゃ。
「───お受けしますとお伝えください」
◇◇◇◇
ジュスティーノ王国地下牢。
「・・・っ、魔王様!ザガン様!ああ…っ、お会いしたかったです」
こんな状況なのに恍惚とした表情で魔王達に話しかけられるロジーナがユリカ並みに図太く見える。
私は魔王とザガンの後ろから顔を出し、鎖に繋がれたロジーナの前に出た。
さっきの色目を使った表情から一転、憎悪の表情で私を睨みつける。
ふざけんじゃないわよ・・・。
何睨んでるの?
怒ってるのはこっちなのよ!!
バシン!!
肌を打つ音が地下牢に響いた。
全く反省していないロジーナの態度にブチ切れて、私は思い切り平手打ちをお見舞いした。
ロジーナの頬が私の手形で赤くなっていく。
「何するのよ!」
「なぜアレクを裏切ったの。あんなに貴女に懐いていたのに…何故誘拐なんかしたのよ!」
許せない。
なぜ私じゃなくアレクに手を出したの。
ロジーナが誘拐なんかしなければ、
アレクが赤ちゃん返りするほど傷つくことも、ルイスにアレクの存在を知られる事もなかったのに。
あのまま、平穏に暮らせていたのに。
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【新連載始めました。良かったら読んでみてください(^^)】
◆魔力なしの愛されない伯爵令嬢は、女神と精霊の加護を受けて帝国の王弟に溺愛される。
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