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国王の失脚 side ルイス




「ルイス、私達はもうジュスティーノに戻るわ。アレクも無事に連れ戻したし、誘拐犯も捕まえた。後は貴方が片づけるべき問題よ」


「…ちょっと待って!さっき話し合う時間をくれるって言ったじゃないか。僕らは話し合わなきゃいけない事があるはずだ」



「全てが片付いたら。と言ったわ。まだ何も解決していないでしょう?現実は、貴方が考えているよりも残酷よ。この国が犯した罪は到底許されるものじゃない。その罪を、貴方達王族は今後死ぬまで背負っていかなくてはならないわ」



厳しい表情で話すレティシアを見て、その言葉の意味を思案する。



───やはり、父の罪は本当だったか。


もしかして、彼等の後ろにいる集団は捕らえられていた者達なのか?だから彼らから怒気が溢れ出ているのだろうか。



「1階の備品室の床に、隠し階段があるの。そこから地下二階に下りれば陛下の秘密がわかるわ。それから2階の北側奥の部屋にエバンス達がケガをして倒れているから、早く治療をしてあげて」


「………わかった」




3年ぶりにやっと会えたのに、レティシアもアレクセイも行ってしまう。


2人に行って欲しくない・・・。側にいて欲しいと喉まで出かかっているのを何とか堪える。



僕にそんな事を言う資格はない。


ましてや今、僕はクーデターを起こして国王を失脚させようとしている。証拠内容によっては関わった貴族達を始末しなければならない。


罪を逃れようと何処で誰が牙を剥くかわからない状況で、2人をオレガリオに留め置くのは危険が伴う。



行かないでくれなんて、言えるわけがない。




そのまま俯いて耐えていると、書類の束と水晶を持った魔族が僕達に近づいてきた。護衛が剣を構え直すが、僕はそれを止めた。



「・・・私は魔王軍四天王のザガンと申します。今回オレガリオ国王が行った犯罪は、国際裁判の元で裁かせていただきます。ジュスティーノとの協定通り、くれぐれも国王を逃がさないでくださいね。裁判で裁くまでがお仕事ですから決して()()()()()()()()()。・・・ということで、こちらが国王の犯罪の証拠です」



言外に、取り逃せば僕らの命は無いと言っているのだろう。口調は柔らかでも瞳が隠しきれない怒りを滲ませている。


彼から受け取った書類の多さに思わず顔を顰めた。



「本物はジュスティーノに持ち帰るので、そちらは複製品になります。裁判での効力は無いのであしからず。こちらの過去見の水晶は一定の魔力を注げば観る事が出来るのでご確認を。ただ、内容がエグイので覚悟して観て下さい」




その言葉の意味を、僕は後で吐き気がするほど思い知る事になる。





「・・・ルイス。───もう気づいてると思うけど、私、女神から神聖魔法を継承したの。スタンピードの原因だったゲートを閉じたのは私よ。もうユリカに巫女の資格はないと女神が言っていたわ。指名手配の件も言い掛かりでしかないから、ジュスティーノから正式に抗議させてもらうわね」




レティシアの僕を見る瞳は、終始厳しい眼差しのままだった。







その後、後宮の裏庭に巨大な転移魔法陣が敷かれる。


転移魔法は最上級魔法だ。



1人で転移するだけでもすごい事であり、我が国で使えるのは魔法士団長の1人しかいない。それでも他国まで転移するのは無理だ。



だというのに、目の前の魔族達は30名近い人数を一度にジュスティーノへ転移させようとしている。



ケタ違いの魔法技術にただ驚愕するしか出来ない。



魔法陣が青く光出す。




「・・・っ、レティシア!必ず・・・っ、必ず全て片付けるから・・・!だからまた会ってくれ!話をさせてくれ!」


「・・・・・・わかったわ」



レティシアの腕の中で眠るアレクを見つめる。また会いたい。もう会えなくなるなんて嫌だ・・・っ。



魔法陣の文字盤にどんどん魔力が行き渡り、青白い光が強くなっていく。



最後に一つだけ、レティシアに確かめたい。




「レティシア!お願いだ、教えてくれ」


「・・・・・・・・・」


「アレクセイは・・・・・・アレクは僕の子だよね?」




僕が核心をつくと、レティシアはじっと僕を見つめた後、悲しそうな笑みを浮かべて小さく頷いた。




そしてそのまま、アレクとレティシアは僕の前から消えた。








──────ああ、やっぱり。



アレクは僕の子供なんだ。






『ルイしゅ!だっこちて』


『ルイしゅ!あしょぼー!かくれんぼしゅりゅ!』



『ルイしゅ!』





アレクの可愛い姿が脳裏に浮かぶ。


連れ去られて、頼る親がいない雛鳥のように、不安に怯えながらも純粋に僕を慕ってくれたアレク。



共に過ごした時間はたったの数日間だったけど、その存在そのものが愛しくて、嬉しくて、───悲しかった。


本当はずっと、父親だと名乗りたかった。

でもその資格がない自分が悲しかった。




「・・・・・・アレク・・・・・・レティシア・・・・・・」




涙が溢れる。



失ったものの大きさに、未だ心が現実を受け入れられていない。

 


どんなに欲しても、3人一緒の未来は手に入らない。





レティシアの瞳を見て、もう気づいているんだ。


取り返しがつかない事を───。





レティシアの中に、もう愛は残っていない。









◇◇◇◇




「殿下」


「副団長はどうした?」



「ここは私1人でも大丈夫なので、先程の魔物襲撃で負傷した者達の治療に向かわせました。一体何が起きたのですか?命令の為に動けなかったので詳細がわかりません」


「ここまで魔物が入り込んでいたようだな」



国王の私室に来るまでに、数体の魔物の死骸が床に転がっていた。



「父上はどうしている?」


「ここから出せとしばらくお怒りでしたが、魔物の襲撃があってからは大人しくしています。───やはり黒でしたか?」



「ああ・・・。ホントに、とんでもない事をしてくれたよ」




僕は手を上げて、連れて来た王宮騎士達に命じる。




「緊急事態及び王妃命令により、今から私がこの国の最高権力者となる。お前達に命じる。大罪人であるオレガリオ()()()を捕縛せよ」



「「「「「御意!」」」」」





部屋の結界が解かれ、騎士達が国王の私室に入り、中にいた父を捕縛する。




「何をするお前達!!不敬だぞ!!」


「父上」


「ルイス!これは一体どういう事だ!」



「貴方には本日をもって国王を退位してもらいます」


「なんだと!?」




「これから貴方は獣人及び魔族の誘拐、人身売買及び虐待により、国際裁判にかけられる。それまで牢に入っていただきますよ」

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