国王の罪
※一部残酷な表現がありますのでご注意ください。
「魔王様・・・っ」
「魔王様!!ありがとうございます・・・っ」
「レティシア様、ありがとうございます・・・っ」
数十人の魔族と獣人族が私達に涙を流しながら何度も頭を下げる。
調査を再開して見つけた隠し階段。
隠された後宮の地下二階に、そのおぞましい空間が広がっていた。
あまりの光景に涙と吐き気が込み上げる。
アレクが眠っていて良かった。
スタンピードと同じくらいの惨い光景が広がっていたのだから。
やはり国王と愛妾は魔族と獣人族を攫い、人身売買と実験体として利用していた。
壁や床に飛び散っている血痕のシミと、一箇所に集められた大量の骨の山がそれを物語っている。
私達が隠し階段を見つけて地下二階に降りた時、生き残っていた彼らはかなり衰弱していた。
私達に怯えを見せたけど、魔王とザガンがフードを取って顔を見せ、「助けに来た」と告げると声を上げて泣き出した。
私はエバンス達よりも彼らを先に助けるべきだったと激しく後悔し、全員に治癒魔法をかけた。
そしてやはり彼らの首に魔力封じの首輪が着けられていた。
獣人族の首輪は力を吸収する効果があるらしく、非力になってしまった為に人間に抵抗が出来なかったらしい。
首輪は魔王の力で全部外した。
現時点でこの世界で一番の魔力を持つのは魔王だから、彼にかかれば壊す事など簡単なのだろう。
「ザガン、ここにある魔道具は全部持ち帰って調べろ。そして対抗できる魔道具を作るんだ。まだこの首輪がどれほど裏で出回っているのかわからん。至急ガウデンツィオと獣人国の民に防犯対策を施す必要がある」
「御意。過去見の水晶でこの部屋で起こった事の映像を記録しましたが、見ますか?レティシアにはおススメしないかな。ちょっとね…あまりにもエグいから」
ザガンからものすごい怒気が溢れている。
この部屋に残る血痕や骨の山から、きっとかなり残酷な映像が残されているのだろうと察した。
私を外したメンバーで映像を確認すると、全員からどす黒いオーラが発生し、皆の目が血走っている。
結果から言うと、彼らにつけられた魔道具は今までに攫われた彼らの血肉で作られたモノだった。
魔石で瀕死になるまで魔力を吸い取り、最後は血を搾り取られ、破棄されていた。
そして彼らの体で実験を繰り返し、改良を重ねてまた外から魔族と獣人族を誘拐するという行為を繰り返していたのだ。
あまりにも酷すぎる。
聞いただけでもその残酷さに震えるのに、映像なんか怖くて見れるわけがない。
同族である彼らの衝撃は、きっと私以上のモノだっただろう。
「・・・ヴォルフガング、今は捕虜になっていた皆を安全な場所に避難させることを優先しましょう?心的被害が酷い人もいる。すぐに医者の治療が必要だわ。アレクもいるし、早く皆でジュスティーノに帰りましょう!ね?」
もうここには居たくない。
それにこれ以上ここに居たら、魔王の精神状態にもよくない気がする。もう選択を間違えても時は戻せない。
だから何とかバッドエンドだけは避けたい!
「心配するなレティシア。わかっている。大丈夫だ。ザガン、国際裁判に必要な証拠は全部押さえたか?」
「ええ。これだけあれば十分でしょう。捕虜になっていた彼らの証言もあれば、処刑は免れないはずだ」
「なら問題ない。世界的に晒して模倣犯が出ないように公開処刑にしてやる」
「当然です」
地を這うような彼らの低い声が部屋に響いた。
ルイスと王妃は、この部屋を見てどう思うのだろう。
見ただけでわかる。国王の狂気的な差別意識が。
本当に陛下は高魔力保持者の人間以外は虫けらだと思っている。でなきゃこんな残酷なことができるわけがない。
陛下の犯罪についてはゲームで描かれていなかったけれど、ルイスや側近達のルートで魔王軍がオレガリオに攻め入る原因はコレではないかと思った。
民をこんな扱いされて怒らない国王などいないだろう。
エンディングでは年若いルイスとヒロインが国王と王妃に就任していた。
そのイベントの裏には、この犯罪が発覚した事によって国王が退位に追い込まれ、秘密裏に処罰されるという事情があったのではないだろうか。
だって陛下はまだ40代だ。退位するには早すぎる。
そう考えると距離が離れているはずのオレガリオとガウデンツィオが何故争う事になるのか、その理由がわかったような気がした。
そして最終的には同じ答えに辿り着く。
この設定は二次元のファンタジーな世界だから成り立つのであって、現実の世界に組み込むと穴だらけのお粗末なシナリオなのだと。
女神の失敗はそれに気づくのが遅すぎた事と、ゲームの世界を現実に作ってしまったこと。
だって皆、現実に生きているんだもの。
私達はゲームのキャラクターではない。
プレイヤーの選択肢で動いているわけじゃない。
この世界で生きている、血の通った人間と魔族だ。
ラスボスとされていた魔王は、実際はちゃんと国王としての務めを果たして国民を守っていた。
私も魔王も、討伐される理由なんかどこにもない。
シナリオなんか関係なく、幸せになる権利があるはずだ。
スタンピードも抑えた。
国王を失脚させる証拠も手に入れた。
あとは───、
魔王の腕の中で眠るアレクの頬を撫でる。
そして、アレクを包む魔王の手に自分の手を重ねる。
「落ち着いたら皆で帰りましょう。ガウデンツィオに」
「……レティシア」
どこかホッとした表情を見せる魔王に、私は微笑んだ。
シナリオなんてクソ食らえだわ。
滅亡なんてさせない。
全部終わりにして私達の自由を、
何の縛りもない、愛する人達と歩む人生を、
絶対に勝ち取ってやるんだ。
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