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愚か者たち




ゲートを閉じた後、外に残っていた魔物もザガン達が全て処理し、ようやくスタンピードは終わりを告げた。



ジュスティーノから持ってきていたMP回復薬を飲んで元気になった私は、腕の中でスヤスヤと眠るアレクの温もりを再度噛み締めていた。  



「アレク」



居なくなったと知った時のあの絶望感は二度と味わいたくない。


全て終わったらザガンとドワーフに相談して防犯カメラとGPS機能付きの魔道具を作ると決めた。


今ある魔力追跡魔道具を改良すればできるはずだ。

ヴォルフにも協力してもらって絶対作ってみせる。



アドラにまた金儲けだと相談すれば開発費を出してくれるだろう。




もう誰にもアレクは奪わせない。

私の大事な子。



例えルイスであっても、絶対に渡さない。










◇◇◇◇





「レティシア、ちょっといいかな?」



ザガンに呼ばれて魔王と一緒にある部屋の前に連れて行かれる。扉を開けて中に入ると、見覚えのある男達がいた。



「こいつら知ってる?部屋ごと結界張ってあったから怪しいと思って解除したら、コイツらが倒れててさ」


「──────王太子の側近達だわ」




目の前には大怪我を負ったエバンスとトリスタン、騎士達が血を流して倒れている。多分あの量の魔物に対処出来ず、この部屋に避難して結界を張ったのだろう。



正直国を背負う者としては情けない…。


でも武力を誇る忠臣や、内政面で優秀な忠臣達は王家の巫女への扱いと悪政に失望し、ほとんどが国を見限って出て行ってしまった。


残っているのは彼らくらいしかいないのだ。



私は大きなため息をついた後、瀕死の彼らに治癒魔法を施した。彼らの事は大嫌いだけど、死んでほしいとは思っていない。


少なくともユリカが現れる前までは、彼らは私を次期王太子妃として尊重してくれていた。


彼らもまた、子供の頃から付き合いのある幼馴染のようなものなのだ。次期国王のルイスを支えていく同志でもあった。




ユリカが現れて全てが泡となって消えたけど───。




「お前はお人好し過ぎるぞ」



魔王に心底呆れたような顔をされる。



「国を復興させるには彼らの家の力が必要よ。他の貴族達はまともなのがいないの。皆国を見限って亡命してしまったみたいだから」



あんな性悪女を崇めた民達にも思う所はあるけれど、魅了されていたのだから仕方ない。



「ん・・・」


「あれ・・・?怪我が治ってる・・・?」




続々と彼らが目を覚まし、自身の体を確認する。


出血を伴う怪我をしたにも関わらず、どこにも痛みがない事に驚いていた。そして彼らはやっと私達の存在に気づき、私の顔を見て驚愕する。



「レティシア嬢!?」


「何故ここに!?」



エバンスとトリスタンが驚いて立ち上がる。



「お二人とも、お久しぶりですね」



「……もしかして…、貴女が治癒を…?」



エバンスが恐る恐る聞いてきたので頷いた。



「ええ。この場で治癒魔法を使えるのは私だけなので」



「……そうですか。命を救っていただき、ありがとうございました」



皆が私に頭を下げたけど、複雑な表情をしていてどうみても感謝している人間の顔ではない。


まあ、ユリカの魅了にやられていた彼らにとっては、私の事なんて愛する巫女を傷つける害悪な存在としてしか見てないのだろうけど…、




でも流石にこの態度は腹立つ!!


内心助けなきゃよかったと舌打ちした。




「そうだ…っ、魔物は!?国王の愛妾が魔法陣を発動させて沢山の魔物を呼び出したんだ。王宮はどうなっている!?」



……は?



「この部屋に結界を張って今まで隠れていた人間が今更何を言っているの?」



「何だと!?」


「お前こそ反逆者のクセに!!」


「指名手配犯がエラそうに言うな!!」


「今すぐ貴様を捕縛してやる!」


「巫女様を害した悪女め!!」



そう言って騎士達が次々と私に向かって暴言を吐き、剣を構える者まで出た。




───ないわ。


流石にこれは無い。



背後にいる魔王からどす黒いオーラを感じる。


気持ちは分かるけど、目線で制した。魔王の手を煩わせるほどの人達じゃないから。




未だ騎士達が私を睨み、剣を構えてごちゃごちゃ言っている。


エバンス達に視線を移して様子を窺うけど、彼らを注意する素振りは全くなく、冷たい瞳で私を見ているだけなので彼らと同類だとみなした。




なるほど。


あ~そうですか。



ブチッと自分の中で線が切れる音がする。



確かに魔王の言う通り、私お人好しだったわ。

馬鹿につける薬はないってこの事ね。


アレクの抱っこを魔王にお願いして、再び彼らに向き合う。



私が怒気を全開にすると、彼等が少しだけ後ろに後ずさった。私の魔力に当てられているのだろう。


だって私の魔力は今となってはオレガリオで断トツ1位だと女神のお墨付きをもらっているからね。



こいつらみたいな雑魚なんて相手にならないのよ。


その証拠に魔法士であるトリスタンが顔面蒼白でガタガタと体を震わせている。



「貴方達は命の恩人に向かって口の聞き方がなっていないようね。やっぱり気が変わったわ。助けた事をなかった事にする」



「「「は?」」」


時間回収(タイムコレクト)



私は彼らに手をかざし、先程施した治癒魔法を回収する。


重傷のままだと出血多量で本当に死ぬから『死なないけどめっちゃ痛い』くらいに留めておいた優しい私。



「「「「ぐああああああ!!」」」」



治癒魔法が無かったことになったので、再び傷口が開いたり、骨折やヒビ、打撲などが復活して倒れ込むおバカさん達。


特定のモノに対する数分の時間逆行なら私の魔力でも可能なのだ。



「ぐ…っ、何をしたんだレティシア嬢!!」



床に倒れたエバンスが私を見上げて睨みつける。


でも私はそれを超える眼力で魔力の威圧を放ってやった。すると私を睨みつけていた顔が恐怖の色に変わる。



「貴方達には指名手配犯の私の施しなど必要ないみたいだから、治してあげた怪我を元通りにしてあげただけ。犯罪者の私に助けられるなんてプライドが許さないでしょう?ごめんなさいね、余計な事してしまったみたいで」


ぺこっとお辞儀をしてきびすを返す。



「さ、もうこの部屋に用はないわ。行きましょう」



魔王とザガンを出口に促して退出しようとすると、後ろから叫び声が聞こえた。



「まっ、待ってくれレティシア嬢!!ぶ、無礼を働いて悪かった…っ、だから…、だからもう一度治癒を…!!このままじゃ魔物が来たら全員殺されてしまう!」



エバンスの叫び声に全員がこくこくと首を縦に振り、縋るような目でこちらを見てくる。


すごい手のひら返しに吐き気がしそう…。


こんなに意地汚い人達だったっけ?昔は真面目で優秀な側近達だったのに、何故こんなに落ちぶれてしまったのよ。



ユリカに魅了されて心根が腐ってしまったのだろうか。



「た、頼むよレティシア嬢!!また治してくれ!」



彼らの必死の懇願に、私は慈悲の笑みを浮かべた。




答えなんて決まってるわ。






「絶っっっっ対イヤだね!!」




私、悪女なんでね!

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