神聖魔法
「ロジーナ・・・」
ロジーナの魔力追跡を行なって転移した場所は、後宮の地下らしき場所で、手足を鎖で繋がれた状態でボロボロのロジーナが横たわっていた。
見るからに瀕死状態なのがわかる。
どういうこと?
ロジーナは混血魔族と通じてたんじゃなかったの?
「魔力封じの魔道具を付けられているな。これでもロジーナは上級魔族だ。それをここまで弱らせるとは、相当強力な魔道具なのだな」
「そうですね。とても興味深いですが、とりあえずこの女は罪人なんでこのままにしときましょう。先に調査の方に向かいます」
ザガンがロジーナの首に付けられている首輪を興味深そうに見つめながら諜報部隊のメンバーに指示を出す。
「私も行くわ。魔物は私が浄化する」
「浄化?」
皆が驚いて私の顔を見た。
「私、離宮で女神に呼ばれて神聖魔法を授けられたの。この国の瘴気を浄化するように頼まれたのよ」
「・・・は?神と話したのか・・・?何故レティシアが?それは神の巫女とかいうさっきのクソ女の役目だったんじゃないのか?」
「ああ・・・さっき妄想ばかりを吐き散らかしていたあの変な女ですか?」
ザガンと魔王はユリカを思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔をしている。相当気味悪がられてるけど・・・何したんだユリカは・・・。
「その神の巫女が、役目を果たさないからクビになったの。それで代わりに私が呼ばれて何とかしてくれって頼まれたのよ。とにかく被害が大きくなってるから早く止めに行きましょう」
「・・・どこかにゲートが開いてる可能性が高い。それを探せ」
「「「「御意」」」」
地下から一階に出ると、後宮は既に半壊して瓦礫の山だった。崩れた天井から夜空が見えている。
そしてその瓦礫を更に破壊しながら、魔物が続々と後宮の外に出て行く姿が見えた。
「ワイドピュリフィケーション」
一階にいる魔物が全て浄化され、跡形もなく消えた。
その事態に皆が驚いてこちらを見る。
「さあ、早くゲートを見つけましょう」
私はニッコリと笑って先を促した。
「・・・・・・・・・」
今のは思ったより多く魔力を持っていかれたのがわかる。
どういう原理なのかはわからないけど、私の神聖魔法の原動力は私の魔力だ。
異世界転移してきたユリカには魔力が無いため、女神の神力を分け与えたけど、私の場合は既に豊富な魔力が備わっているので、詠唱時に神力に変換するよう調整すれば良いだけらしい。
ますます『巫女を異世界から攫ってくる意味とは?』と謎が深まったけど、もうあえてツッこまなかった。
それからやはり私の魔力量は人間の女性にしては飛び抜けているらしく、ガウデンツィオで魔法の特訓をした事も相まって、現在ぶっちぎりで国一番の魔力量らしい。
そこはやはり転生チートだったようだ。
その私でもスタンピード並みの浄化を行うのはかなりの魔力を使う事が分かったから数は打てない。
やっぱり元を絶たないと───。
「レティシア、無理はするな」
魔王がじっと私を見て念を押してくる。
何なのかしら。魔王だから私の魔力残量値でも見えるのだろうか?とりあえずごまかしが効かなそうなので正直に話しておく。
「・・・広域の浄化は魔力をごっそり取られるから、早く元を断ちたいわ。急ぎましょう」
「わかった。お前はゲートを閉じる事に専念しろ。それまで魔力を使うな」
「でもまた魔物が湧いて・・・・・・あれ?・・・・・・左奥の部屋から出てきてる・・・?」
一度全てを浄化した事で、魔物達が左奥の廊下の曲がり角から飛び出してくるのが見えた。
「間違いないな。ゲートはあの奥にあるんだろう。お前達、あの廊下から魔物を一匹たりとも外に出すな」
「「「「「御意」」」」」
ザガンと諜報部隊のメンバーが先行して魔物を倒していく。とても連携の取れた動きで捌くのがとても早い。
どんどん魔物達を奥に追い詰め、曲がり角を曲がった1番奥の部屋から禍々しい気が溢れ出ているのを感じた。
全身鳥肌が立つほどの禍々しさだ。
これが瘴気の溜まり───。
黒く澱んだ瘴気が奥の部屋に充満し、部屋の内部が見えなくなっている。これでは中がどうなっているのかわからない。
「これじゃ中が見えないから浄化するわ」
魔王がギロっと私を睨んだ。
「この規模なら大丈夫だから睨まないでよ」
ちょっと今日の魔王、私達に過保護じゃない?なんか調子狂うわね。
「ピュリフィケーション」
真っ黒な瘴気で満たされた部屋が、魔物ごと浄化されて中が姿を現す。
こちらも既に半壊状態で床一面に魔法陣が敷いてあり、その中心部に瘴気の水溜まりのようなものがブクブクと泡立つように湧き立っていた。
「やはり魔窟の門か」
「これが・・・・・・あっ、また魔物の頭が湧き出てきた!」
首まで出た所で、すかさずザガン達が魔物の首を刎ねた。
急いでこのゲートを閉じなければキリがない。
ただでさえイレギュラーな事態なのに、アレクを抱えたまま長期戦に持ち込まれるのはコチラに不利でしかないわ。
両手を前にかざし、魔力回路を全開にして手のひらに魔力を集める。
「聖なる光の柱よ、悪しき闇を打ち払い、滅せよ。フォルテルーチェ」
手のひらから最大出力で変換された神力を放つ。
眩しいほどの光柱が立ち上がり、魔法陣を囲っていく。
禍々しい瘴気の溜まりが暴れるように跳ね上がり、地を這うような呻き声がゲートの中から鳴り響く。その声の振動が痛いほど肌をピリピリと刺激した。
「・・・・・・くっ」
「レティシア!!」
魔力が凄まじい勢いで流れ出ていく。
時間にしてはたった数十秒しか経っていないはずなのに、どんどん魔力を削られる事で果てしなく長い時のように感じた。
お願い早く閉じて・・・・・・っ!
祈るように魔法陣を見つめると、次第に魔法陣に記された文字が消えていく。
それに比例して瘴気の溜まりが小さくなり、最後に断末魔のような声をあげて魔法陣ごと消えた。
「やった・・・っ、ゲートが消えたわ・・・っ」
「レティシア!」
安心したのと同時に膝の力が抜け、その場に倒れそうになった所を魔王が片手で抱き止め、支えてくれる。
「無茶するなと言っただろうがっ」
「・・・でも、私しかゲートを閉じれる人いないじゃない・・・」
肩で息をしながらも、反論する。
頑張ったのに何故怒られるのよ。
他にどのような選択があったというのだ。
「そんな事はない。魔法陣が書かれた床ごと木っ端微塵に粉砕すればいいだろうが。それでもダメなら俺がゲートに潜って魔窟ごと消滅させてやる」
魔王が本気出して魔力をぶっ放したら世界滅亡のバッドエンドしか見えないからやめてほしい。
既にリセットで無かったことになってるけど、前の世界で貴方4回も世界を滅亡させてるからね!
「却下・・・。ヴォルフガングこそ永遠に魔力を使わないで欲しいくらいだわ。───・・・でも、心配してくれてありがとう」
彼を見上げてお礼を言うと、「お前は何もわかっていない」と言われ、思い切りため息をつかれた。
解せぬ。
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