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レティシアが消えた王都では② side 公爵家




「本気で私と別れる気なのか」


「ええ。貴方が娘より国を選ぶと言うのなら」



「・・・・・・・・・」




フランツはスカーレットをジッと見つめた。




スカーレットは隣国の第三王女だ。長男である国王を含め、2人の姉にもとても可愛がられた末の妹である。


この国の学園に留学したのがきっかけでフランツと出会い、恋愛結婚に至った。



だがそれは決してすんなりと事が運んだわけではない。


隣国の王女と公爵子息という身分の違いや、国同士の壁もあり、当時同級生であった王太子(現国王)は魔法至上主義者で、移民を多く受け入れて国力を上げてきた新興国の王族であるスカーレットを事あるごとに見下した。


そして彼女の母国を移民と交わったせいで魔法が廃れた田舎の辺境地と貶め、王族であるスカーレットに数々の無礼を働いた事で一度国際問題になりかけた事がある。



当時の国王が王太子に対して長期謹慎を命じて再教育するという事で問題を収めたが、その時に生じたスカーレットの傷は未だに彼女の中に燻っていた。


それ以降、王家とは必要最低限の付き合いしかしてこなかったが、レティシアが8歳の時に変化が訪れる。



レティシアに縁談が舞い込んできたのだ。

それも打診ではなく王命で。


フランツに連れられて王宮に参内したレティシアを、王子のルイスが見初めた事で決まった王命だった。



いくら嫁いできたとはいえ、スカーレットは元王族だ。



そんな妻を持つ自分に打診もなく王命を下してきた国王に対して、フランツとスカーレットは怒りに震えた。


性根は学園の頃と何も変わっていなかったのだ。



そして最悪な事に、もう国王を止める事のできる前国王はこの世にいない。


前王妃は病で離宮に療養中であり、全て国王の思いのままだった。




唯一の救いはレティシアもルイスを愛し、幸せそうにしていた事だけだろうか。



生まれてすぐに乳母と教育係に預けられて育ったルイスは、両親に似ず実直で文武に長けた青年に成長していた。


彼がレティシアを愛し、慈しんでくれたからこそフランツ達は娘の幸せの為に国王の理不尽な要求にも耐えてきたのだ。




それを他の誰でもない、ルイス自身がぶち壊した。

2人の宝であるレティシアを、裏切ったのである。




フランツとて、怒りを感じている。


不敬罪に問われないなら直ぐにあの親子3人を斬り殺しているだろう。愛するスカーレットだけでなく、愛娘のレティシアまで傷つけられ、抑えきれない程の殺意が芽生えている。



ただ国王は愚王であっても馬鹿ではない。自分に刃向かう人間には容赦がないのだ。やり方を間違えればスカーレットとレティシアの命が危ない。


だからこそ慎重に立ち回らなければならないのに、命に代えても守りたい妻と娘は、どんなに囲っても簡単にフランツの手から這い出て自ら先陣切って戦おうとする。



でも、そんな事になるだろう事はフランツはとっくに知っていた。


学園時代、当時の王太子の振る舞いに真っ向から挑んだ彼女に、



『弱き者を守る為に戦うのは権力を持った者の務めである



どんなに馬鹿にされても王族としての矜持を忘れずに真っ直ぐ前を向いて歩く彼女に、何度惚れ直したかわからない。


そして当時の学友であった貴族達も、未だ彼女を慕っている者は多い。


彼女が本気で動いた今、国内情勢は変わるだろう。



もう人質に取られていたレティシアはいない。




フランツもようやく腹を決めた。



国か娘かなんて迷う必要はないのだ。フランツにとって大事なのは今も昔もスカーレットとレティシアだけなのだから。




「大人しく私に守られていて欲しいのに、まったく君って奴は・・・。何かを守る為に自ら剣を握って挑んでいこうとする性質は、レティシアにも受け継がれてしまったようだな」


「あら、それが私の魅力なのではなくて?そこに惚れたと言っていたのは貴方でしょう?」



不敵な笑みを見せた妻にフランツは声を上げて笑った。



「ああ。違いない。さっきも娘を守る為に生きると言い切った君に惚れ直した所だよ」


「当然でしょう?愛する貴方との子供なのよ。母である私が守らないで誰が守るの」






この日、アーレンス公爵家は隣国への亡命を決意した。



秘密裏に事を進める為に王家の目を欺き、時間を稼がねばならない。それがレティシアを国から無事逃す事にも繋がる。



フランツは領地の親族達に早馬を出した。



宛名の人物しか読むことが出来ない上級魔法を掛けたインクを使用し、今後の自分達の動きを知らせる。


自分は爵位を譲渡、または返上し、隣国へ向かう。爵位を継ぎたい者、隣国へついて行きたい者は受け入れる旨を手紙に認めた。



領民達の事が気がかりだったが、今や巫女を崇拝する国民がほとんどで、領主の娘のレティシアより巫女を王妃に望む声が大きくなっている事はフランツの耳にも届いていた為、彼らを連れて行く選択肢はなかった。





国が沈みかけている。




それを察した貴族達だけが水面下で動き出していた。






◇◇◇◇




────同日夕方、謁見の間。



国王夫妻とルイス王太子、アーレンス公爵夫妻が対峙している。


5人の間には公爵であるフランツが放った言葉により、とても緊迫した空気が流れていた。





「フランツ・・・悪いがもう一度言ってもらえるか?」



国王夫妻とルイスは3人とも目を見開いて公爵夫妻の言葉を待った。



「はい。我が娘、レティシア・アーレンスとルイス王太子殿下の婚約破棄を求めます。理由はルイス殿下と神の巫女であるユリカ様との不貞行為。これは立派な契約違反であり、破棄するには十分な理由かと存じます」



アーレンス公爵の言葉にルイスは青褪めた。



「なっ、何を言っているんだ公爵!前から言っているように僕は王命で巫女の護衛をしているだけで───」


「昨日夕方、レティシアは青褪めた顔で邸に戻り、その後心労で倒れました。王宮に殿下に会いに行った所、どうやら衝撃的な現場を目撃したそうで」


「え・・・?」




ルイスの顔色が青から白に変わっていく。


公爵夫人の言う衝撃的な現場に身に覚えがあった。まさかアレをレティシアに見られていたのかと思うと体が勝手に震え出す。



国王夫妻とルイス付きの護衛の顔が歪んだ事により、周りの人間はルイスとユリカの関係を前から知っていたのだと察した。



どこまでアーレンス公爵家を侮辱するのか。怒りに満ちたスカーレットの握る扇子がミシミシと音を立てる。




「陛下もルイス殿下も巫女を正妃に望んでおられる様子。我がアーレンス公爵家はそれを汲んで身を引きたいと思います。本当なら契約違反で破棄としたいところですが、解消という事で手を打ちましょう。レティシアは昨日の心労が祟って心を閉ざしてしまいました。いつ回復するかわからないと言われ、侍医の勧めで昨日のうちに領地の別荘に向かわせ、療養させております。廃人のようになってしまった今、半年後の結婚式どころか妃として立つ事も無理かと思います」



レティシアの心境を思うとスカーレットの目から自然に涙が溢れ、その様子が周りにレティシアの話は真実なのだと印象づけた。



「そんな・・・っ、レティ!!」




ルイスは絶望した顔で床に膝をつき、泣き崩れた。


そんな王太子を無視してフランツは再度国王に願い出る。





「レティシアと王太子殿下の婚約解消を求めます」

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