選ばれた者と、選ばれなかった者
「何でアンタが野放しでここにいるのよ!犯罪者のクセに!!」
なぜ認識阻害のローブを着ているのにユリカには見えているの?神の巫女だから?でも───、
『巫女の加護はもう取り上げたので魅了の力はありません。このままいけばいずれ神力も使えなくなるでしょう』
去り際に女神がそう言っていた。
という事は、残り少ない神力で私達を見ているという事だろうか。
ただでさえ目立ちたくないのに、ユリカに絡まれたせいで私達の存在が他の人間に認識され始めてしまう。
こんなところで足止め食ってる暇はないのよ!
王宮の方はまだ魔物が沢山いた。被害を止めるためにも早くスタンピードを終わらせないと!
「悪いけど、今は貴女に構っている暇はないの!ヴォルフガング、行きましょう」
「ああ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「いっ・・・」
目の前を通り過ぎようとした時、ユリカに手首を強く掴まれ、爪を立てられた。
「騎士はどこにいるの!?早くこの女を捕まえて!!国家反逆罪で指名手配されているレティシアよ!!」
「なっ・・・」
「うるしゃい!!ばか!!わるもの!!」
「は?」
場にそぐわない子供の声に、ユリカが眉根を寄せる。
「ははうえをいじめるなぁ!わるもの!ばかー!」
「アレク」
小さな拳を握りしめて、泣きながらユリカに向かって怒りを露わにするアレクを、魔王が後ろから抑える。
「え?ははうえ・・・?何でヴォルフガングが子供なんか抱っこして・・・───え?ちょっと待って・・・その顔・・・ルイス・・・?でも髪が水色・・・・・・」
アレクの顔を見てぶつぶつ呟いた後に、ユリカは驚愕した顔で私の顔───髪の色を見た。
マズイ!!
こんな大勢の場所でアレクの存在をバラされたら大事になる!!慌てて口封じの魔法を詠唱しようとしたら、その前に魔王が動いた。
「黙れクソ女」
ユリカは険しい顔で私に向かって口をぱくぱくさせているけど、声が消されているので何を言っているのかわからない。
「巫女様!」
先程のユリカの叫び声で騎士達がこちらに駆け寄ってくる。どうしようと焦っていると、魔王が「大丈夫だ」と呟き、相手が構える前に魔王が威圧を放って全員気絶させた。
その様子を見て呆然としていたユリカの隙をつき、私は手を振り解いて魔王とアレクを出口に促す。
ユリカが追ってきたけど、私はすかさず半円の結界を張って彼女を囲った。
閉じ込められたユリカは結界を叩き割ろうとしてもがくけど、巫女ではなくなった彼女にそんな力はない。可愛らしい顔立ちを醜く歪めてこちらを睨むユリカに、私は小声で事実を告げる。
「女神様は貴女から加護を取り上げたそうよ。貴女にはもう巫女の資格はないんですって。代わりに私が神聖魔法を引き継いだわ。これからこの国の浄化を行うから、これ以上私の邪魔をしないでね。私は凡人の貴女に付き合っている暇はないのよ。大人しくここで指を咥えて見てなさい。役立たずさん」
私が告げた事実に、ユリカは瞳が溢れそうなほど目を見開いた。
きっと今の私は悪役令嬢ばりの笑顔を浮かべているだろう。その証拠に目の前のユリカがブチ切れて結界内で暴れ出した。
その姿に軽く手を振りながら、私は踵を返してアレク達の元へと急ぐ。
「ははうえ~!」
アレクが心配したような顔でこちらに手を伸ばしてくる。
「さっきは守ってくれてありがとうアレク!とってもカッコよかったわよ~!」
「えへへ~」
アレクの手を取り、ぎゅうっと抱きしめてお礼を言う。額同士を合わせると照れたように笑ってくれた。
やっと笑顔が見られた。どれくらいぶりだろう。
可愛すぎて頬擦りする。
「大好きよ、アレク」
「僕も大しゅきー」
ユリカを黙らせた事で再びローブの効果が出始めたのか、人々はまた私達を認識できなくなったようだ。
皆の目は結界内で暴れているユリカに注目している。
あれは私より魔力が高い人でないと解けないからまだしばらく時間稼ぎになるだろう。
今のうちに目的を果たさねば。
「ヴォルフガング、魔物が何処から来てるのかわかる?どう見ても内部から湧いてるみたいだけど」
「あそこに見えている宮から瘴気の溜まりを感じる。もしかしたらロジーナが捕まっていた後宮かもな。不自然な現象だからゲートでも開いているのかもしれん」
「ゲート?」
「魔窟の門。最上級の闇魔法だ」
あれか───。確かに宮から煙が立ち上ってる。
ロジーナ・・・生きているのかしら。
「ロジーナの魔力を追える?とにかく早くスタンピードを終わらせたいの。これじゃもう一つの目的を果たせないわ」
アレク救出の他に、国王を国際裁判にかける為の証拠を見つけなければならないのだ。その証拠をジュスティーノに渡す事が開戦とルイス達の連座を免れるための条件だった。
女神から巫女の状況を聞いて、ルイス達が無条件でジュスティーノの要請を飲んだ理由がわかった。
ユリカが使い物にならなくなった今、当初掲げていた魔王討伐など無理な事にルイスは気づいていたのだ。
そんな中、ジュスティーノの後ろに獣人国やガウデンツィオが控えているとなれば、対抗する術のないオレガリオが血の海になる事は明らかな為、ルイスと王妃はジュスティーノの要請を受けるしかなかったのだろう。
それ以前に今、『善』だと担ぎ上げられていた巫女が私欲に塗れた愚か者だった事で、王家の言い伝え自体に疑問が生じ始めている。
本当に異世界の巫女は『善』の存在なのか。
人身売買されている魔族や獣人は『悪』なのか。
国王の罪が公になった時、
その根幹が揺らぎ始めるだろう。
少なくとも、ルイスが即位した後のオレガリオが厳しい事態に追い込まれるのは確実だ。
「わかった。ロジーナの魔力追跡はザガンに任せる。皆で転移するぞ。これ以上目立つと面倒だ。全員で一気に方をつけてさっさとジュスティーノに戻る」
「了解。・・・アレク」
腕の中にいるアレクに額を寄せる。
「ん?」
「いっぱい泣いて疲れたでしょう?少し寝なさい。ドルミール」
睡眠魔法をかけてアレクを眠らせる。
これから魔物の巣に行くのだ。さっきやっと笑ってくれたのに、これ以上アレクに怖い思いをさせたくない。
「貸せ」
「え?」
「俺がアレクを守る。俺の側が1番安全だからな。どうせお前は暴れるつもりだろう?」
そう言って魔王は私からアレクを取りあげ、抱き寄せる
「何をするつもりなのか知らんが、無茶はするなよ」
「ありがとう。善処します」
そして私達は皆で転移した。
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