元婚約者との再会と、巫女との対峙
視界がまた白く染まっていく。
下界は私を呼び出した時の状況のままだから直ぐに浄化しろと女神が言っていた。
無音だった神の領域から、徐々に現実に引き戻されるのがわかる。いろんな音や声がだんだん大きくなっていく。
不意にギュッと私の胸元を引っ張られた気がして下を見ると、アレクが大きな瞳に涙をいっぱい溜めて「ははうえ」
と小さく呼んだ。
「迎えに来たよ。アレク」
そう言って私はアレクの額にキスを落とした。
大丈夫。守ってみせる。一緒に帰ろうアレク。
皆の所へ。
「ピュリフィケーション」
背後に瘴気を感じ、直ぐに神聖魔法を詠唱する。
魔法が発動したのを感じ、閉じていた瞳を開けると、自分の体が何かに包まれているのに気づいた。
その匂いに懐かしさを感じる。
「ルイス・・・」
私とアレクを抱きしめていたのは、3年ぶりに会うルイスだった。
魔物から私とアレクを守ろうとしたのだろうか。
「殿下!!」
後方から血相を変えてルイスの護衛達が駆け寄って来るのが見える。
「レティシア・・・、何で君が・・・その力・・・」
「・・・・・・久しぶりね、ルイス」
振り向くと、私が神聖魔法を使って魔物を浄化した事に、ひどく驚いているルイスの顔が見えた。
久しぶりに会うルイスはあの頃とは違い、大人の男へと変わっている。もう、私の知っているルイスではない。
ルイスは私と目が合うと震え出し、涙を流した。
「レティシア・・・、レティ・・・っ、夢じゃない、レティシアだ・・・、本物のレティシアだ・・・っ」
そう言うとルイスはまた私を強く抱きしめた。
「ちょっとルイス!」
「レティ・・・っ、レティ・・・っ!!」
「ルイしゅ!ぐるちい・・・っ」
「あ・・・、ご、ごめんアレク!」
慌ててルイスが体を離す。
「・・・さあアレク、ここを出ましょう。皆が待ってるわ」
「あい!」
「待ってくれレティシア!!さっきの力は何だ?それと、どうして君が魔族と・・・」
「ルイス、今は悠長に話している暇はないの。外の音、聞こえているでしょう?」
耳を澄ませば、王宮が破壊される音と逃げ惑う人達の悲鳴が聞こえるはずだ。
「・・・・・・・・・っ」
「王太子として優先すべき事をしてちょうだい。私はジュスティーノの使者達とやるべき事をするわ」
貴方の最優先事項は臣下達の安全を確保し、国王を捕縛する事。
言外にそう含ませるとルイスは険しい顔をして目を閉じ、「わかった」と呟く。
そして目を開けた時には王太子の顔をしていた。その場にいた護衛達に王妃の避難と他の騎士達と合流し、情報の収集を命じる。
その間に、こちらも下の階にいた諜報部隊のメンバーが戻ってきたので、いち早く魔王達と合流する事にした。
「レティシア!」
階段を降りようとした時に、ルイスに呼び止められる。
「・・・全てが片付いたら、話をさせてくれ」
振り返るとそこには、縋るような瞳で私を見るルイスがいた。
「──────ええ、また後で」
きっと、アレクの事だろう。
親権をめぐって争う事になりませんようにと祈りながら、その場を後にした。
ギュッとアレクが私の首にしがみつく。
震えて泣く小さな体を、私は存在を確かめるように抱きしめた。
「ははうえ・・・っ、ははうえ~、ふえええん」
「いっぱい怖い思いさせてごめんね、アレク。もう大丈夫よ」
「ふえええんっ」
宥めるようにアレクの頭を撫でる。
連れ去られてから怒涛の日々だったはずだ。怖い思いも沢山しただろう。
まだたった2歳の心に大きな負担をかけてしまった事がとても悔やまれる。
・・・ロジーナの事は絶対許さないわ。
◇◇◇◇
離宮の外に出ると、離宮周りにいた大型の魔物達は全部倒され、気絶していた王宮の人達もお互いの無事を確認して喜びあっていた。
諜報部隊の人からもらった子供用の認識阻害ローブをアレクに着せ、人を避けて魔王達を探す。
すると、門のところでローブを来た集団に1人の女性が絡んでいるのが見えた。
「あ・・・───」
一目で気づいた。
「ユリカ・・・」
私の目の前で、ユリカと魔王が出会っていた。
まだ遠く離れているのに、私の呟きが聞こえたのかのように魔王がこちらに気づき、私の元に転移してきた。
「アレクは無事だったようだな」
そう言って魔王は安心したように少し微笑み、アレクの頭を撫でた。
「まおーしゃま・・・?」
「よく頑張ったな、アレク。皆で迎えに来たぞ」
「うああああん、まおーしゃまー」
私以外に知っている顔を見て安心したのか、手を伸ばして抱っこをせがむアレクを魔王は抱き上げ、その背中を優しく撫でた。
「もう大丈夫だ」
えぐえぐと嗚咽を溢しながら魔王にしがみついているアレクを見て、すごい懐いてるなぁ・・・なんて思いながら眺めていると、「どういうこと!?」と、耳を刺すような甲高い声が聞こえた。
声の方に視線を向けると、走って来たのか肩で息をしているユリカがいた。
そして目を吊り上げて私を睨みつける。
「何でアンタがヴォルフガングと一緒にいるのよ!」
面白いと思っていただけたら評価&ブックマークをいただけると励みになります(^^)