ゲームシナリオの裏側②
「魅了魔法って・・・、あの洗脳するヤツ・・・?」
ルイスはユリカに洗脳されてたの・・・・・・?
本当は彼女を愛してなかった?
「いえ、魅了は洗脳ではありません。相手の敬愛、親愛、恋情、憧れなどの好意を増幅する力です。だから、それらの感情を持ち合わせていない人間には効きません。私は掟の範囲でしか下界に干渉できないので、巫女を危険から守る人間を作るため、魅了の加護を与えていたのです」
女神のその言葉を聞いて、もうルイスの事で痛む事はないと思っていた胸が、少し痛んだ。
「・・・・・・ふふっ、そっか。だから学園でも国民にも巫女は崇拝されるようになったのね」
巫女を好意的に見る者達は年齢や男女関係なく幅広い世代に信者がいた。
だから全ての者が異性に対する愛情を持っていた訳ではない。女神の言う通り、敬愛していた者も多かった。
ただルイス達の抱いた感情が、恋心だっただけの話。
その芽生えた気持ちの大きさがどうであれ、ルイスの中に確かに巫女に対する恋心があったからこそ魅了され、彼女に触れた。
それが事実───。
「でも・・・、ルイスは巫女より貴女を愛していました。だから貴女を失った時、自力で魅了魔法を解いた。並大抵の事ではありません。その後に巫女が使用した香水は洗脳の魔道具でしたが・・・彼はそれにも屈せず本当の気持ちを取り戻していました。そして今も───」
「女神様、私にそんな話を聞かせてどうしたいのです?彼との仲はもう何年も前に終わった事です。ルイスはアレクの父親。それ以上でもそれ以下でもありません」
もうその話は聞きたくない。
「レティシア・・・」
「それよりも私は、何で4回もバッドエンドになっているのかそっちの方が聞きたいわ。どうやったらそんな異常事態になるの?それを聞かない事には動きようがないんですけど」
「そ・・・それは・・・っ」
それから女神が話した内容に、私はただ呆れるしかなかった。
一度目の巫女は学園時代に早々にサイモンと恋仲になり、奉仕活動とは名ばかりのデートを繰り返し、たまに思い出した時にしか女神に祈りを捧げない為、巫女としての徳を積む事ができなかったのだとか。
修行についてもサイモンが四六時中守って甘やかす為、神力レベルが上がらず、当然国境の浄化は失敗に終わった。
神力レベルが足りないために神聖魔法も授けられず、人種差別に病んだ魔王がブチ切れて魔力を爆発させ、魔族以外の種族を滅ぼしたらしい。
────1度目ではちゃんとヤンデレキャラの仕事してたんだ・・・魔王。
2度目の巫女は側近3人と付き合いだし、奉仕活動や女神への祈りは前回の巫女同様に超テキトー。乱れた関係を送るウチに相手に三股がバレ、痴情のもつれで3人の決闘騒ぎにまで発展し、巻き込まれて後遺症が残る大怪我をしたらしい。
当然神聖魔法は習得できず、滅亡。
なんだその昼ドラ展開!マジか・・・。
3度目は逆ハー狙って失敗し、魔王を倒せず返り討ちに遭い、滅亡。
4度目も似たような恋愛沙汰起こして巫女の務めを果たさず、魔王によって終止符が打たれている。
そして過去のレティシアは、ほぼゲームのシナリオ通りに動いて攻略対象者に討伐されていた。
死に損じゃん!誰か助けろよ!!
明らかに巫女よりレティシアの方がマトモだろうが!
ここまでくると、ある疑問しか浮かばない。
「質問いいかしら?」
「はい。どうぞ」
「異世界の巫女、いらないよね───?」
「・・・は?」
「そもそも、巫女を異世界から召喚しなきゃ良かったのでは?それが全ての失敗の元凶よね。最初からこの国の民から巫女を選んどきゃバッドエンドなんて迎えなかったと思うのだけど」
フツー、そう思うよね?
初回の失敗なら仕方ないとしても、2度目の昼ドラの乱でフツーそう思うよね?
神様なのに、シナリオ無視できない掟でもあるの?
私の質問に女神は目をぱちくりとさせて、首を傾げていた。ダメだ、全然通じてない。
「だって・・・そういう進行で・・・」とか、「え・・・?呼ばない選択もあった?・・・でも勝手に話進むし・・・」とか、何やら急に顔面蒼白になってブツブツ独り言を呟いている。
「女神信仰者でもない異世界の年頃の女子が、美形の男達にチヤホヤされて無欲でいられるわけないでしょう?それで滅亡とか、当然の成り行きという感想しかないのだけど」
ゲームを知らなくても、周りに美形の男しかいなかったらよほどの事がない限り誘惑に勝てないだろう。あの無欲で純粋なゲームヒロインは2次元だから成立するのだ。
「今まで召喚した巫女は・・・全員死んだの?」
「・・・・・・一度は死にました。でも時を戻した事により、召喚自体がなかった事になっているので、異世界で暮らしてますよ」
「・・・そう」
あえてユリカの事は聞かなかった。
知りたくもない。
他にも何故にゲームの世界を再現した?とか、日本にも神様いるよね?お知り合いですか?とか聞いてみたいところだけど、聞いたら最後、沼に入って溺れそうな気がするのでやめておいた。知らなくて良い事ってあると思うんだ。
「・・・とりあえず、今やらなきゃいけない事はスタンピードを抑える事と国王を捕まえる事と、魔王の暴走を防げばいいってこと?」
「まあ・・・簡潔に言えばそうなります」
「具体的に私は何から始めればいいの?」
「貴女に神聖魔法を授けるのでこの国の瘴気を浄化してください」
「え?私神力使えないわよ?」
「大丈夫。私が貴女に授けます。貴女は今まで私欲の為ではなく、常に愛する人達と仲間の為に行動してきました。先程も命懸けで我が子を守ろうとした。そんな貴女を見て私は貴女に力を授けたいと思ったのです」
「────わかったわ。そのかわり、私と契約してほしいの」
「・・・・・・なんの契約ですか?」
「未来永劫、異世界の人間を召喚したりしないこと」
「・・・・・・・・・・・・」
「私達は貴女の駒じゃない。人の人生をこれ以上引っ掻き回さないで」
神への冒涜だろうか。
でも、言わずにはいられない。
だってこれ以上この女神に振り回されたくないもの!
私の言葉に、女神は叱られた子供のような顔で俯いた。
いや見た目子供なんだけどね。
「・・・・・・・・・わかりました」
「ありがとうございます、女神様。これからもイチ信者として祈りを捧げさせていただきますわ」
ニッコリ笑って女神と契約を交わす。
こうして私は、神聖魔法を授かった。
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