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愛妾の目的 




天蓋付きの大きなベッドの上で、国王の愛妾であるアデリーヌが男の上に跨り、激しく腰を揺らす。



「アデリーヌ様・・・っ」




アデリーヌの下で艶のある呻き声を出すのは国王ではなく、後宮付きの若い護衛騎士だった。



「いいわっ、そのまま貴方の魔力を全部私によこしなさい」



腰の動きを早めると、あまりの快楽に騎士が悲鳴をあげる。


そして男の若々しい肌がどんどん萎んでいき、あっという間にミイラのような姿になってコト切れた。





「中々の魔力ね。ごちそうさま」




妖艶に微笑んで干からびた男の上から腰を上げた時、部屋の外から慌ただしい声が聞こえる。




「来たわね」




アデリーヌが人差し指をクルッと回すと、一糸纏わぬ姿が淡く光り、胸の露出が激しい真っ赤なマーメイドドレスに身を包んだ。


そして近づいてくる足音に耳を澄まし、部屋の扉が開く前にある部屋に転移する。




転移先は魔道具が保管してある部屋で、そこで待機していた1人の男に指示を出した。



「キース、外が騒がしくなってきたわ。そろそろ潮時ね。力も大分溜まったし、ここにあるもの全部頂いて彼らと合流するわよ。王宮に散らばってる者達にも伝達お願いね」


「御意」





キースと呼ばれた男は何もないただの壁に亜空間を開き、大量の魔道具を収納していく。



「さて、邪魔されちゃ困るから、アレを開きましょうか。この為にロジーナといろんな男から魔力を吸い続けたんだもの」




アデリーヌは両手を前にかざし、魔力を放出する。


手首に装着している腕輪が共鳴するように光り、アデリーヌを中心に渦巻き状の煙が立ち上がった。




魔窟の門(ヘルゲート)




アデリーヌが詠唱すると、床一面に青く光る魔法陣が浮かび上がる。




「アデリーヌ様、全て納めました」


「ご苦労様」





アデリーヌがキースと微笑み合ったその時、部屋の扉が勢いよく開いた。




「何だこれは!!何故お前がここにいる!」



入室してきたのは魔道具や不正の証拠を確保しに来たエバンス達だった。



「あら、無能な坊や達、ご機嫌よう」



「何だと!?くそっ、何だこの魔法陣は!お前ら何をした!」



魔法陣から竜巻のような風と強大な魔力が放出され、エバンス達は完全に気圧された。


何の魔法か分からないが、魔法陣から湧き出ている黒い沼のような液体が禍々しいものである事だけは肌でピリピリと感じる。




淫魔は魔力の弱い下級魔族のはずなのに、何故こんな強大な魔力を使いこなしているのか。


こんな巨大な魔法陣は筆頭王宮魔法士でも展開できないだろう事実に、エバンス達は戦慄した。



混血魔族だからといって力を見くびり、下に見ていた事で予想外の結果に陥っている。




「ほんと、この国の人間はみ~んな無能ばっかりで御し易(ぎょ やす)かったわ~。国王にも私のために(・・・・)魔道具作ってくれてありがとうってお礼言っておいてくれる?───生きてたらの話だけど」



「アデリーヌ!!待て!!」



エバンスが剣を持ち、アデリーヌに近づこうとするが、魔法陣から放たれる突風で近づけない。



三日月型に目を細めたアデリーヌは、「では皆さんご機嫌よう。バイバ~イ」と手を振り、背後の男と一緒に姿を消した。



彼女達が消えたと同時に地響きが鳴り、魔法陣の中から次々と魔物の頭が湧き出てくる。




「うああああっ!!何で王宮内に魔物が!」


「しかもCランクからAランクの魔物までいるじゃないか!」


「誰か王宮魔法士団に知らせろ!魔法陣を消去しないと魔物が溢れ出るぞ!!」


「わかりました!」



エバンス達は素早く部屋を出て、扉を氷魔法で固める。



「トリスタン!!ユリカ!!どこだ!」


「「エバンス!!」」



トリスタンとユリカ達が2階から駆け降りてくる。



「アデリーヌはいなかったぞ!代わりにベッドにミイラの死体があった!」



「アデリーヌは魔道具の保管庫にいた!魔道具を全部持ち逃げして消えたんだよ!しかも魔物が────」




その時、激しい衝撃音が鳴り響く。



「「「「!?」」」」




そして先程の部屋から次々と魔物が出てきた。



「何で後宮に魔物が!?」


「だからアデリーヌだよ!去り際に魔物が湧き出る魔法陣を残して消えたんだ!トリスタン!早くあの部屋にある魔法陣を消してくれ!」


「無茶言うなよ!あんな魔物だらけの部屋に入れっていうのか!?」



「ユリカ!!早く浄化してくれ!魔物が外に出てしまう!」


「あ・・・・・・あ・・・・・・」



ユリカを守るようにエバンス達は魔物と戦うが、肝心のユリカが至近距離にいる魔物に怯えてガタガタと体を震わせているだけで、一向に参戦しない。



「ユリカ!!早く動け!!王太子命令受けているだろ!」




エバンスの叱責にビクッと体を揺らしたユリカは祈りのポーズを取り、神力を放った。


淡い光が下級の魔物を浄化して消え去るが、やはり上のランクの魔物は消えてくれなかった。



「ユリカ!一度じゃなくてずっと浄化しつづけてくれ!」


「も・・・やだ・・・こんな数ムリよ・・・っ、何で今が命の危機なのに女神が現れないの!?巫女が窮地に陥る事が神聖魔法を覚醒させる条件でしょ!もうヤダ!誰か助けてー!」



「「ユリカ!!」」




ユリカはエバンス達を置いて後宮から逃げ出した。



その為、魔物発生源である魔法陣にエバンス達は近づけず、抑えきれずに王宮内に大量の魔物を放つ結果となった。











◇◇◇◇





「あらあら、あのアバズレ巫女ちゃん逃げちゃったわ。本当に女神は何であんな娘を召喚したのかしらね。まあ、あの娘が馬鹿なおかげで私は今まで動きやすかったのだけど。その点については女神に感謝だわ」




どこかの古城の王の間で、アデリーヌは水晶玉の映像魔道具をクスクスと笑い声を上げながら眺める。



巫女のおかけで監視の目がずっとそちらに向かい、後宮で大人しく国王の寵愛を受けているだけの自分はノーマークだったのだ。


平民の踊り子で何の後ろ盾もないアデリーヌを、周りはただの情婦(・・・・・)と見下し無害だとみなした。




アデリーヌが見た目が人間なだけの魔族だとも知らずに。




「それにしても、あのアバズレ巫女ちゃん、何で自分の魅了魔法の力が衰えているのかわかってないみたいね」


「本人自身も無意識に魅了魔法を使っていて、自分にそんな力がある事に気づいてないみたいですが」



アデリーヌの側に仕えているキースが呆れたように呟く。




「まあ、相手を洗脳する魔眼とは違って、魅了魔法は女神の愛し子に与えられた加護の力だから、鑑定しても誰も気づかないしねぇ」



「その力が衰えているという事は、女神の寵愛が薄れているという事ですか?」



「でしょうねぇ。あの娘は好き勝手やりすぎたもの。でもまあ、あの娘が発端で魔王をガウデンツィオから剥がせたし、ロジーナのお陰で予定より早く魔力増幅の魔道具も作れた。うまくいき過ぎて怖いくらい」



「──────いよいよですね、アデリーヌ様」



「ええ。イグレシアス(亡き夫)の仇、必ず取ってやるわ」



「アデリーヌ様、魔王達がオレガリオに着いたみたいですよ」




キースの声に水晶玉に視線を移したアデリーヌは、黒いローブを着た集団の中にいる、長身の男を睨みつける。


角は隠されていても、身に纏う王の覇気が水晶越しでもわかる。





アデリーヌからイグレシアス(最愛の夫)を奪った、夫の異母兄。


そして、最愛の子まで──────。




「愛されない不義の生まれのクセに・・・っ」




ギリリっと拳を握り締めるアデリーヌの手から、血が滴り落ちる。



その藍色の瞳には、激しい憎悪が揺らめいていた。





「キース、皆を集めなさい。魔王城を攻めるわよ」

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