オレガリオ入国
「レティシア、オレガリオに行く時にこれ着て。認識阻害のローブ。これ着てフードかぶれば人間にはほぼ見つからないから。まあ結界破る時はバレるけど、姿は確認できないと思うよ」
ザガンから魔道具・・・?なる黒のローブを受け取る。
今夜アレク救出に参加する者は全員着用だ。
「やっとアレクに会えるのね」
あの会議の後、ジュスティーノ国王である叔父様はすぐにアレク引き渡しを王妃に打診し、承諾の約束を取り付けてくれた。
そして引渡し条件である協力関係を結び、今夜オレガリオ国王の捕縛及び、混血魔族である愛妾の暗殺が行われる。
その指揮を取っているのがルイスらしい。
今夜、オレガリオでクーデターが起こる。
その騒ぎに紛れてアレクを救出する予定だ。
アレクについては王妃とルイスによって丁重に保護されているらしい。
日が暮れると私を恋しがって泣くが、ルイスや侍女と遊べるくらいには元気にしていると、アレクの様子が詳しく書かれていた。
王妃の私への配慮だろう。
もうきっと、ルイスの子だとバレている。
アレクがいる時に内乱なんて・・・と、取り乱しそうになったけど、逆に良かったのだろうか。
もし何もなかったら、素直にアレクを返してもらえなかったような気がする。
王妃の手紙から、王妃とルイスにとってアレクの存在がとても大きいものになっているような気がしたからだ。
可愛がってくれるのはありがたいけれど、
アレクは絶対に渡さないわ。
◇◇◇◇
「レティシア・・・」
「ヴォルフ!なんか貴方に会うの久しぶりな気がするわ」
「うん・・・。こういう時は僕は全然役に立たないから、魔王に任せてるんだ」
「何言ってるの。ザガンが作る魔道具の発案はほとんどヴォルフだって聞いたわよ?めちゃくちゃ役に立ってるじゃない。このローブもそうでしょう?」
「そうだけど・・・、そんなの日本の時に遊んでたゲームや漫画で見た知識を言ってるだけで、僕の力じゃないよ」
「何か随分と後ろ向きね?何かあった・・・?」
どことなく落ち込んでるように見えるヴォルフは私の質問に俯いた。
「ヴォルフ?」
「レティシアは・・・アレクと一緒に帰ってくる?」
「え?」
「だって・・・王太子に会うんだよね?アレクは今・・・、実の父親と一緒にいるんだよね?もしかしたら、復縁を迫られるかもしれないじゃないか。アレクはあんなに人懐っこくて可愛いんだ。実の息子ならきっと手放したくないはずだよ。それに、レティシアの事も欲しがるかもしれない」
───復縁?
ルイスと・・・?
アレクと3人で暮らすって事───?
巫女がいるのに?
「巫女がいる限りそれはあり得ないと思うけど?」
「でも・・・っ、万が一、万が一復縁を迫られたら?」
前のめりになってやけに必死なヴォルフにちょっと後ろにのけぞる。
「──────うーん・・・、正直何とも言えない。私個人の気持ちとしては答えはNOよ。彼の浮気現場見ちゃってるからもう信じられないし、私の知らない所で巫女と結婚して勝手に幸せになればいいと思ってる。でも、アレクがルイスを望んだら、復縁もあり得るかもしれない。一生会わせるつもりなかったのに、2人は出会ってしまったから」
「・・・・・・・・・!!」
魔鳥が見せた映像や王妃の手紙からも、アレクがルイスに懐いているのがわかる。
「私はアレクの母親だから。お腹にいる時から、あの子を守るためだけに行動してきた。アレクの幸せは何か、今もずっと考えてる。父親がいなくても寂しがらせないように頑張って育ててきたつもりだけど、アレクの本音はアレクにしかわからない。アレクの幸せにルイスが必要だと言うなら、私はそれを叶えるわ。ガウデンツィオに帰りたいと望むなら帰る。私はアレクにとっての最善を選ぶだけ」
「──────そっか」
「うん」
「・・・・・・レティシアは素敵な母親だね。アレクが羨ましいな」
そう言って、ヴォルフは寂しそうに笑った。
「今回、オレガリオの国王を失脚させてレティシアの指名手配も取り下げてくれるって言ってたけど、何があるかわからないから気をつけて。1人で暴走しないでね。まあ、暴走しても魔王が守ってくれると思うけど。とにかく魔王の側から離れないで」
「うん。分かった。大丈夫よ。私だって人間にしては強い魔法士なのよ?オレガリオの連中には負けやしないわ。返り討ちにしてやるから」
「ふふっ、確かにレティシアは逞しいからね。アレクと2人、無事に帰ってくるのを待ってるよ」
◇◇◇◇
その夜、
オレガリオへは私と魔王、ザガンと魔王軍諜報部隊の皆を伴って行く事になった。
ジュスティーノの騎士達も連れて行けと伯父様は言っていたけど、彼らを連れて行ったらジュスティーノの攻撃と受け取られかねないし、魔王軍の幹部や諜報部隊のメンバーは上級魔族だ。
1人1人が一騎当千並みの戦闘力を誇っているので、魔王は人間族の騎士達の同行を断った。
私とアレクを守る事を最優先にするから彼らの事まで守れないとして───。
そして、その選択は正しかったと現地に飛んでわかった。
王宮の結界付近に転移した時、驚くべき光景が目の前に広がっていたのだ。
それは、王宮内を大量の魔物が闊歩し、人々が逃げ惑う阿鼻叫喚の光景だった。
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