やっと、念願の・・・ side ユリカ
ついに魔族がオレガリオに来た。
ユリカはその事に歓喜した。
「わかったわ!私が魔族を引き受ける!」
「──────それから、また勘違いして大きな顔されちゃ困るから、罪人の証をその首につけさせてもらってるよ。愛妾の件はあくまで減刑の条件であって、君が犯してきた罪と相殺にはならない。死罪か幽閉か、罰を受けるのは決定事項だ」
ユリカは牢に入る際に付けられた首輪に触れた。
「罪人の証に首輪なんて悪趣味ね」
先程まで顔面蒼白でガタガタ震えていたのに、今は落ち着いているどころか高揚しているように見えるユリカに、ルイスは違和感を覚えた。
「何を企んでいる?言っておくが、それはただの首輪じゃないよ。追跡魔法と即死レベルの毒が仕込んである。指定された範囲から出たり、反逆と取れる行動を取ったらすぐにその毒が首から回って死に至る」
「・・・卑怯だわ。───ふんっ、わかったわよ。とりあえずその愛妾を倒せばいいんでしょ!死にたくないからちゃんとやるわよ」
もうルイスに媚びる必要がないと感じたユリカは目の前の男を睨みつけ、雑な対応に切り替えた。
やっとオレガリオに魔族が来てくれたのだ。その中にきっとヴォルフガングもいるはず。
もうルイス達に用はないのだ。
この首輪だって魔王のヴォルフガングなら簡単に取れるはず。だからそんなに恐れる事はない。
やっと彼が会いに来てくれた。
と、ユリカは喜びで胸が高鳴った。
「決行は明日の夜だ。護衛としてお前に心酔している騎士達と、エバンスとトリスタンも同行させてやろう。僕は暗殺を邪魔させない為に父上を抑えなきゃいけないから一緒には行けない。彼女は淫魔の混血らしいから同性である君なら十分対抗できるだろう」
「へ~、淫魔ねぇ。実在するんだ。要するに王様は淫魔に体で篭絡されたってこと?最高権力者が聞いて呆れるわ」
「―――口を慎め、罪人。お前も淫魔みたいなもんだろ」
「…なっ!失礼なこと言わないでよ!もうヤダ!ルイスって実はこんな陰険キャラだったのね!最悪!こんな男と結婚しないで済んで良かったわ」
「気が合うな。同感だ」
「…………っっ」
ユリカはルイスの蔑んだ瞳に怒りが抑えきれず、憎々し気に睨みつけた。
最初からユリカの思い通りに動かなかった男。この男のせいでどれだけの労力を使ったかわからない。
一時は完全に落としたと思ったのに、レティシアが消えてから人が変わってしまった。
でも、もうそんな事はどうでもいい。
すべては彼に会うための布石だったのだから。
ルイスが地下牢を去った後、ユリカは彼との出会いに想いを馳せる。
ヴォルフとの出会いスチルは夜空に浮かぶ三日月と、満点の星が輝く夜だった。
『お前が神の巫女か?』
そう言って、大人の色香を醸し出した美しい男が、突然ヒロインを逞しい腕の中に包んで攫っていくのだ。
『お前を俺のモノにする』
と、獲物を見るような熱い瞳で。
そのスチル絵を思い浮かべ、
ユリカは期待で胸が震えた。
自分がもうすぐ、彼のものになるのだ。
◇◇◇◇
「エバンス!トリスタン!久しぶりね!王都に戻ってから全然会いに来てくれないんだもの。すごく寂しかったのよ?」
「ああ…。すまない。いろいろ忙しくて…」
「僕も…魔法士団の仕事で忙しかったんだよね…」
ルイスの言っていた通り、久しぶりに会った二人の瞳には全く熱量を感じなくなっていた。
この2人の愛もその程度なのかとユリカは心の中で舌打ちをする。
でも今日は気分がいいのでそのままスルーしてあげる事にした。これから念願だったヴォルフとの出会いが待っているのだから。
「闇夜に紛れて行くけど、失敗は許されないからここにいる全員に認識阻害の魔法をかけるよ」
そう言ってトリスタンは自分達3人の他に護衛達にも魔法をかけた。
そしてエバンスが今夜の作戦を皆に話す。
「殿下が今、国王を後宮に行かせないために手を打ってくれている。足止めが完了したら合図が飛んでくるので、合図と同時に後宮に向かう。後宮の門番は既にこちら側に引き込んであるのでそのまま内部に入れる予定だ。邸内に入ったら、トリスタンが使用人達を眠らせる。ユリカと騎士達は愛妾の部屋に直行してくれ。これが後宮の見取り図だ」
エバンスは見取り図を広げ、愛妾の部屋を指し示す。
「この2階の南側の奥が愛妾の私室だ。主寝室を挟んで手前が国王の私室となっている。今の時間帯はきっと寝室にいるだろうが、念のためこの3部屋の扉の前に見張りを置いてくれ。絶対に取り逃がすな。トリスタンは使用人を全員眠らせたらユリカのフォローを頼む。俺と数人の騎士は隠し通路の封鎖と魔道具及び犯罪の証拠を確保する」
「「「「「御意」」」」」
そして1時間後、ルイスから合図が送られてきた。
「ではこれより後宮に向かう!」
「「「「「はっ」」」」」
「ヴォルフ…、やっと…、やっと会えるのね」
ユリカは恍惚な表情を浮かべ、小さな声で愛しい男の名を呼んだ。
ヒロインの自分が必ず選ばれると疑いもしないまま。
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