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王太子の裏の顔 side ユリカ



「ない・・・っ、ない!香水がない!!」



ユリカは机の引き出しを全てひっくり返して探すが、どこにも見当たらない。




「何で!アレがないとルイスが私に(なび)かないのに・・・っ、これからルイスと会うのにどうして!」



引き出しの中に大事にしまっていた最後の一本が、いくら探してもみつからず、焦りを募らせる。



久しぶりのルイスとの面会。



こちらが何度会いたいと言っても「忙しい」の一言で済ませられ、痺れを切らして執務室に突撃したこともあるが、扉を叩いても居留守を使われているのか一切反応してもらえなかった。


それなのに、侍女からは毎日王太子の意向で巫女の仕事を言いつけられるのだ。



それは社会奉仕だったり、教会で祈りを捧げる儀式だったり、どれも退屈な仕事だった。


王命で修行を切り上げて王都に帰ったというのに、巫女を労う様子は微塵もない王宮の態度に腹が立った。




全部を浄化出来なかったとはいえ、少なからず成果は出したはずだ。


神のお告げでレティシアという脅威も教えてやった。




なのに、何故彼らはゲーム通りに動かないのか。

何故、以前のように自分を崇めないのか。



既にルイスルートのシナリオから脱線した展開になっている為、ユリカはどうしていいのかわからなかった。


もう頼みの綱があの香水しかないのに、それが何処にも見当たらない。



「何でよぉ!誰かに盗まれた!?まさか侍女達!?」





「違うよ」





突然背後から聞こえた低い声に肩を揺らす。


恐る恐る振り返ると、扉に背を預けてこちらを眺めているルイスがいた。



「ルイス様・・・っ」



ユリカは瞬時に恋する女の顔に切り替え、ルイスに駆け寄ろうとしたが手で制される。



「言質は取れたし、もうそういうのいいから」


「え・・・?」


「香水は僕が没収させたよ。()()()()()()()


「証拠品・・・?」




「王族に禁止薬物を盛った証拠だよ」


「──────は?」




何を言っているのだ、目の前の男は。

あれは好感度アップアイテムで薬物などではない。



「あれはただの香水よ!」


「いいや、成分を調べたら禁止薬物に指定されている精神干渉効果がある薬物の成分が検出された。それから魔法陣が組まれている事もね」


「魔法陣・・・?」




ユリカはまったく身に覚えがなかった。


自分は魔法陣など組めないし、禁止薬物が使われていた事など知るわけがない。


ただのゲームアイテムが、法に触れる代物だなんて誰が思うのか。



「知らない・・・っ、私は知らない!アレはただの雑貨屋で買ったものよ!ルイスだって一緒に行ったじゃない!もしそれが違法なモノだと私が知ってたら、ルイスを連れて行くわけないでしょ!?」


「うん。そうだろうね。でも君が違法なモノかを知ってたかどうかは問題じゃないんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()の方が重要だから」



「理由・・・・・・・・・?」




ユリカの背中に冷たい汗が流れる。


目の前の男の、愛情の欠片もない冷たい瞳に恐怖を覚える。


その瞳からは、軽蔑、嫌悪、怒気、そして殺意が込められていた。



ルイスから無言の殺意を向けられ、ユリカは初めて目の前の男がただのゲームキャラではない事を自覚する。


ゲームキャラなら、ルイスがヒロインをこんな目で見るはずがない。




「さっき自分で言ってただろう?アレがないと僕が君に()()()()って。君はアレが違法なモノだと知らなくても、用途は知っていた。そしてそれを正しく使い、僕を洗脳して傀儡にしようとした。サイモン達や他の騎士達にもアレを使ったんじゃないか?」


「違う!アレはルイスにしか効かな───・・・あ」




ユリカは慌てて口を押さえたが、既に遅い。


目の前の男はまた言質を取ったと言っているかのように口端を上げる。


溺愛キャラの裏の顔が、こんな冷徹な笑みを浮かべる王子だったなんて知らなかった。



きっとこの男は、非情な決断も下せるタイプの男だ。

王太子なのだから、その可能性は十分にある。



何かを守る為なら、邪魔なモノは排除する。

そうやって教えられてきているはずだ。

 


だってゲームでは、この男は長年婚約者だったレティシアを殺す決断をしたじゃないか。


正義を振りかざし、躊躇いなく宝剣でレティシアの体を刺したではないか。




ユリカの体がカタカタと震える。




「やっぱり、アレが()()()()()()()()()()()()()()()使ってたんだね?どうりで血液を調べても検出されないはずだよ。香水なら血液に残らず直接脳を刺激する事が出来るしね。そして魔法陣で僕の名前を刻み、その洗脳効果を僕1人に限定する事で効果が倍増されていた。香水に組んだ魔法陣自体に魔力が使われていただけだったから僕の体に魔力残滓が残らなかったんだ」


「知らない・・・っ、そんなの知らない!あの店が勝手にやったんじゃないの!?私はただルイスにもう一度愛されたくて・・・っ、自分を磨きたくて買っただけだもの!」



「だから、香水の成分について知らなくても関係ないと言っている。問題なのは君がアレの効果を知っていて、僕を洗脳する為に使ったという事実のみだ。それに、ただの香水があんなに高額なわけないだろう?あの店はとっくに摘発されてもう跡形もないよ。雑貨屋は表の顔で、裏では禁止薬物や毒物、麻薬を取り扱う組織の隠れ家だった」




ユリカはヒュッと息を飲む。


心臓の音が忙しなく鳴り、冷や汗が出る。

震えが止まらなくてひざの力が抜けそうだ。




「君は大罪を犯した自覚はある?」


「た・・・いざい?」


「王族である僕を洗脳しようとする事は大罪で、例外なく死罪だ。それから、君がこの部屋で騎士達と何をしていたかも知っているよ」



「───は?」



「婚姻済みだったら姦通罪でこれまた死罪だっただろうね。とりあえずもう僕との婚約は破棄する予定だ。誰の子種を持ってるかわからない女を王家に迎え入れる事は出来ないからね」


「───うそ・・・知って・・・た?」




とうとうユリカはその場にへたり込む。



「僕を洗脳した女が監視対象にならないわけないだろう?ずっと監視させてたよ。だから香水に気づいて没収したんだ。それにしても・・・君は随分と貞操観念が低くて人を騙す事に長けているね。エバンスやトリスタンに君がいろんな騎士達と睦み合っている証拠映像を見せたら、青ざめてその場で気を失ったよ。最近あの2人と会ってないだろう?どうやら2人の洗脳も解けたみたいだよ?」





冷たく嘲笑う王太子に、



ユリカは顔面蒼白になった。


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