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あるかもしれなかった未来 side ルイス





「アレクセイ、少し時間が出来たから一緒にいられるよ。ほら、おいで」



グズグズと泣いているアレクセイを抱き上げて、背中をさする。


母の離宮に匿ってから、アレクセイは侍女達に構われて笑顔が見られるようになり、だんだん元気を取り戻したかのように見えた。



でも、やはり我慢して元気なフリをしているのだろう。



日が暮れると寂しさを堪えきれなくなるのか、レティシアを恋しがって泣いている。



「ふえええんっ、ははうえ~、お迎えまだ?・・・ぐすっ、・・・アレク、いい子にしてりゅよ・・・?ははうえ何でこないのぉ?ふえっ、がえりたいよぉ~、うええええん」




こうして夕方になると僕にしがみついて「皆の所に帰りたい」と泣くんだ。




母上付きの影の調査で、愛妾のいる後宮の地下に魔族の女が捕らえられている事がわかった。


アレクセイを攫ってきたのはその女で、しかもガウデンツィオから攫ってきたという。




つまりレティシアは魔王がいるガウデンツィオにいたという事だ。どういう事だ?魔王は討伐対象だぞ!?


世界を滅ぼす力を持つ危険な男だ。



魔族はずっと邪悪な存在だと教えられてきたのに、レティシアとアレクセイは魔王に手厚くもてなされていたという事か?



アレクセイが話すガウデンツィオでの暮らしは、とても平和に楽しく暮らしていたような口ぶりだった。



一瞬、魔王の妾という単語が頭に浮かぶ・・・。


いや、レティシアの性格上そんな立場にはならないはずだ。




でも・・・公爵令嬢が一人で子を育てるなど無理なのでは・・・?


魔族の国で、魔王に囲われて暮らしていたから平和に暮らせていたとしたら───?




妾じゃなかったとしても、恋仲・・・、


もしくは───妻に・・・、






瞬時に胸焼けを起こしたような不快感が込み上げる。




勝手に頭の中でそんな思考を巡らせ、勝手に激しい嫉妬に駆られるなんて、自分はなんて滑稽な男なのだろうか。



でも、一度頭に浮かんだらその可能性が頭から消えない。




アレクセイを見る限り、恵まれた環境で大事に育てられたのがわかるからだ。



レティシアはとても綺麗だ。


子供の頃から彼女に焦がれる令息は沢山いた。僕もその中の一人だった。



そんな魅力的なレティシアが王家のしがらみから解放された今、もう誰かのモノになっていてもおかしくない。




その可能性に、胸を切り刻まれたような痛みが走る。


王命とはいえ、巫女を婚約者にしている僕に傷つく資格なんてない。しかも一度は愛を交わし合い、その様子をレティシアに見せてしまったのだから。




それでも、レティシアを想う気持ちを消せない───。


子供の頃からずっと好きだったんだ。


今も愛してるんだ───。




ユリカにさえ出会わなければ、今頃僕らは結婚してレティシアとアレクセイと3人で王宮で暮らせていたのに。


もう叶う事のない、あるかもしれなかった未来を想像して、それを壊してしまった後悔に押し潰されそうになる。



ユリカが憎くて堪らない。




腕の中で泣き疲れて眠るアレクセイをベッドに運ぶ。


きっとまた夜遅くにお腹が空いて起きるだろうから、その時に一緒に居られるように仕事を片付けておこう。



「・・・アレクセイ」



愛しい我が子の頭を撫でると、涙が込み上げる。




「悔しいよ・・・。僕も君が生まれた時から側に居たかった・・・っ」



今の僕はアレクセイにとって他人でしかない───。






「レティシア・・・───っ」













◇◇◇◇





「ルイス、ジュスティーノ国王から返事が来たわ」




僕の執務室に来た母が、心痛な面持ちで一つの書簡を取り出した。




それを受け取り、中身を読む。

そこには信じられない事が書いてあった。




父が魔族と獣人を各国から誘拐し、人身売買や奴隷として使っている可能性がある事。


父の愛妾が人間と淫魔の混血魔族で、最近の悪政を見ると既に傀儡にされている可能性が高い事。


速やかにこれらの事実解明を行うなら、協力関係を結んでも構わない事。




彼らからの返事は、父の罪を記した告発状だった。



「人身売買・・・?奴隷・・・?どれも国際法に触れる犯罪じゃないか・・・。父上が本当にそんな事を!?」


「これがもし他国にバレたら我が国はおしまいだわ・・・っ、ジュスティーノは言外に、陛下の罪を暴いて裁かなければ、自らが罪を暴くと脅しているのよ。最後の一文がそれを語っているわ」





最後の一文・・・、





『協力関係を結ぶにあたって、そちらが誘拐したアレクセイを速やかにこちらに引き渡し願う。彼はアーレンス一族の者である』




書簡を持つ手が震える。


ジュスティーノにアレクセイの情報が漏れている。




内通者か・・・間者か?


もしくは両方か。




「母上、すぐに承諾の返事を書いてください。父上には罪を償っていただく。ただし、アレクセイの引き渡しも共同捜査もこの王宮で行いたい。彼らにその権限を」


「な・・・っ、ジュスティーノをここに引き入れるつもり?こんな王族の醜聞を直接彼らの目に晒すっていうの?」


「もうそんな事言っていられない段階になっているという事ですよ、母上。王宮にはまだ父上の駒の方が多い。ジュスティーノの情報が正しければ、魔族である愛妾が王宮内の人間を掌握してるかもしれないんだ。誰を信じていいかわからない。だったら最初から父上と対立しているジュスティーノと手を組んだ方が確実に父上を潰せる」



「・・・・っ、わかったわ。でもわざわざ王宮である必要がある?彼らを結界内に入れたら絶対に王宮魔法士が気づいて混乱を招くわ。だったら別の場所でも───」


「それでいいんですよ母上。混乱させるんです。魔族がこの王宮にいる限り、下手に動いたらアレクセイに危害を加えられるかもしれない。魔族に対抗できるのはユリカの浄化の力だけだ。それならジュスティーノを引き入れて混乱を起こせば魔族や父上の目も逸らせるでしょう。その隙に引き渡せばいい。出来ればその混乱時に父上を退位させ、父の罪の証拠も手に入れたいですね」



もうなりふり構っていられない状況にまで我が国は落ちていたらしい。父上と愛妾によって───。



討伐する力を得る為に修行に行っていたのに、その修行は失敗し、挙句に国王が魔族の傀儡になっていた。



この状況で、ユリカは何の役に立つ?



僕が部屋に寄り付かないのをいい事に、修行の旅でユリカに心酔した騎士達と部屋で懇意・・にしていると報告を受けている。



王都に戻っても未だ教会で祈りを捧げるわけでもなく、男を誑かすことしかしない女。



彼女にこの危機を救えるとは到底思えない。





だが、王太子として利用できるモノは何でも利用して国を守るのが僕の務めだ。





「母上、ジュスティーノへの返事、お願いしますね。僕はユリカに協力を願い出ます」


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