巫女の本当の狙いは
「ア・・・アレクが王宮にいるのに内乱が始まるの!?」
嘘でしょう!?何で今なのよ!!
次々に明かされる情報に、私は冷静さを失わないよう手首を強く掴み、爪を食い込ませる。
血が滲んで痛むが、その方が気を紛らわせる事ができて魔力を暴走させなくて済む。・・・なんて思っていると、隣に座っている魔王に、その食い込ませている方の手を取られた。
ギョッとして隣を見上げると、何食わぬ顔をして会議の内容を聞いている。
繋がれた手からはまた魔王の少し冷たい魔力が微量で流され、私の魔力を制御した。
机の下で手を握られているから皆には見えていないけれど、魔力の高いザガン達なら何をされているか分かるだろうなと考えると、違う意味でまた動揺しそうになった。
「オレガリオから亡命した元有力貴族達とも連絡を取り合っているが、ジュスティーノ以外の国に亡命した者達の情報でも、やはり近隣国からのオレガリオの印象は悪いらしい。民に悪政を強いて亡命する者が後を絶たない国とね。そして軍事強化についても各国が危険視しているとか」
お父様もかつて交流のあった貴族達と亡命後から情報交換をしていたらしい。愚行に加担し、悪事を働いている貴族の情報を集めていたとか。
その悪事はやはり人身売買と奴隷についてだ。
時代と共に各国がグローバル化し、多種族との共存という選択肢が生まれた事で、奴隷制度はかなり前に各国で条約を結び、撤廃されている。
それにも関わらず、魔族と獣人の行方不明者が相次ぎ、それを手引きしているのがオレガリオ王国だという情報を諜報部隊が突き止めた。
おそらく、王宮魔法士もその一端を担っているはず。痕跡も残さず、身体能力の高い魔族や獣人を捕まえるなど至難の業だ。
それを可能にしているのは、やはり裏に混血魔族の介入があるからだろう。
そして今回、同じやり口でアレクが攫われ、今現在王宮のどこかに捕らえられている可能性が高いとみると、王宮関係者に混血魔族が入り込んでいるのでは。という結論に至った。
自由に高額の魔道具を使いこなして誘拐し、人身売買を行える権力者など、一人しかいない。
オレガリオ王国の国王だ。
そうなると、一番怪しい人物は───。
「国王の愛妾が混血魔族だと見て間違いないでしょう」
そう言って諜報部隊の隊長が調査結果の紙をザガンに渡した。
その書類を読んだザガンは大きなため息を吐いた。
「魔王様、予想通りです。あの女、こちらの慈悲で見逃してやったにも関わらず、恩を仇で返すとは」
「──────アデリーヌか」
「はい」
アデリーヌ…?
それがオレガリオ国王の愛妾の名前?
魔王と昔何かあった人なのかしら。
──────なんだろう。
少しモヤモヤする…。
ザガンから受け取った調査報告書を読んで魔王も深いため息をついた。
「間違いないな。国王の愛妾は混血魔族だ。あの女は人間と淫魔の混血だからな。恐らく国王は体で篭絡され、傀儡にされているんだろう。淫魔の体液は人間には中毒性がある。あの女が裏にいるなら、人間が魔族や獣人を攫えるカラクリについて何か知っていても不思議じゃない」
「愛妾が淫魔…!?国王を傀儡にするということは、その混血魔族がオレガリオ王家の簒奪を狙っての事ですか?その延長線で我がジュスティーノ王国に戦争をけしかけていると?」
伯父様が愛妾の正体に驚いて最悪な結果を導き出し、王太子達も顔面蒼白となった。
対人間との戦争でも甚大な被害を被るというのに、相手が混血魔族となればこちらに勝ち目があるかわからないからだろう。
それくらい、魔族や獣人族と人間には力の差がある。
「あの女がオレガリオとジュスティーノの乗っ取りを企てているのかはわからない。ただそれが狙いならアレクを攫った意味がわからん」
「どちらかというと、アレクはダシに使われたっぽいですけどね。例えば魔王様や僕ら四天王をガウデンツィオから離すために使われたとか───」
ザガンが顎に手を当てながら呟いた。
「懸念していた事が当たったか。つまり俺への復讐か?」
「こちらにちょっかい出してくる理由なんてそれしかないでしょう。まあ、あっちはアドラ達が対策してるでしょうから特に気にしなくても大丈夫だと思いますよ」
「ちょっと何?全然話がわからないんだけど!復讐って何?アレクが利用されたって何!?」
「僕ら魔王軍にとってアデリーヌは因縁の相手って事だよ」
「だから、それとアレクと何の関係があるの?」
「関係はない。アレクとレティシアは魔王様と僕らをこっちの問題に誘き寄せる為に使われたって事だよ」
「何の為に?」
「ガウデンツィオの守りを手薄にする為だよ。つまり、レティシアが前に言ってたゲームのシナリオ?通りに事が進もうとしてるってこと」
・・・・・・・・・それはつまり、ガウデンツィオで混血魔族との戦いが起こるっていうこと?
──────は?
なんで?
だって巫女はルイスルート選んだよ?
神聖魔法で魔王を討伐する前に両思いになってたし。
何でヴォルフガングルート入ってるの!?
え?ちょっと待って。
そもそも、よく考えてみると、現実的に見てヴォルフガングルートを解放させるの無理じゃない?
全員と結婚エンド迎えた時に解放される隠しキャラなんだよ?あのゲームは逆ハーレムエンドは無いもの。
でも・・・、確か攻略する順番は決まってた・・・。
ルイスは、側近3人をクリアした後じゃないと攻略出来ないキャラだった。
そしてヴォルフガングルートは、攻略対象4人クリア後のルイスルートから分岐してた。
──────え・・・ちょっと待って・・・。
そう言えば巫女って、どの順番で攻略対象に近づいてた?
思い出していくにつれて心拍数が上がる。
私がユリカに学園で苦言を呈していたのは、側近3人の婚約者に相談されたからだ。このままだと婚約破棄になると悩んでいたからユリカに注意した。
でも3人は既にユリカに心酔しててどうにもならず、そして最後は・・・ルイスを落とされた。
「・・・・・・・・・っ」
私は思わず魔王を見た。
「レティシア?」
まさか───、
ルイスと両思いになったにも関わらず、ゲームを離脱した私に執着して貶め続けたり、神のお告げと称して指名手配し、執拗に私を死に追いやろうとするのは、
ヴォルフガングを呼ぶ為なの───?
私からルイスを奪ったのも、全部ヴォルフガングを呼ぶ為の踏み台にするため?
現実には4人と結婚してヴォルフガングルート解放なんて不可能なのに、実際にこうしてルートが開きかけているという事は、この世界が・・・女神が巫女の意志を汲んでいるということだ。
つまりヴォルフガングがジュスティーノに来たのも必然で、これからオレガリオでアレクを救出する際に、巫女と運命の出会いをするかもしれないってことよね?
魔王を眺めながら、魔王と巫女が初めて出会う時のスチルを思い出す。
魔王と巫女が、・・・恋仲になる──────。
その想像をした時、アレクを攫われて痛みっぱなしの胸の傷が、さらに抉られたように痛んだ気がした。
でも私は、
それを見て見ぬフリをした。
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