ジュスティーノ王国
「オレガリオ・・・?嘘でしょ!?」
魔王から、アレクが攫われた背景にオレガリオの人間と混血魔族が関わっている可能性が高いと言われ、取り乱してしまった。
「アレクがオレガリオに行ったらルイスの子だってすぐにバレるじゃない!絶対無事じゃ済まされない!無事だとしても王家に盗られるかもしれない!早く・・・っ、早くアレクを助けに行かなきゃ!」
動揺して再び魔力が乱れ始める。
「レティシア、落ち着け。お前は国際指名手配されてるんだぞ。撤回されない限り人前を歩けないということを忘れるな」
「・・・・・・っ」
魔王に手首を掴まれ、少量の魔力を流された。
その魔力にさっきまでの自分の失態を思い出し、また暴走しないよう魔力の乱れを正していく。
落ち着け。
私は魔力暴走を起こしている暇はないんだから。
一刻も早くアレクを迎えに行かないといけない。
今までこんなに長時間離れた事なかったから、きっと私を恋しがって泣いてるはず。
「とりあえず、俺とザガンとお前達親子を連れてジュスティーノ王国に転移する。そこで諜報部隊を合流し、情報共有を行う」
「ジュスティーノに?」
「オレガリオの情勢に今一番詳しいのはジュスティーノだもの。それに、指名手配されているレティシアを守れるのはお兄様と魔王様しかいないわ」
「お母様・・・」
「私達は王家を潰すつもりで動いている。全ては愚王の失策のせいだ。レティの指名手配は絶対に撤回させるよ」
王家を潰すという父の発言に驚く。
「お父様、戦争をする気なの!?」
「するつもりはない。潰すのは王家と悪事を働いている貴族だけだ。だが、あちらはそう思っていないだろう。ジュスティーノ王国はオレガリオの支援を期間限定とした。あの愚王がそのまま引き下がるとは思えない。この数年軍事強化に努めてきたから何をするかわからんだろう。外交の観点から見ても、どのみち早めにあの愚王には退場してもらわねばならん」
「詳しい話はジュスティーノに行ってからだ。早く行くぞ」
魔王に促され、私達はジュスティーノ王国に転移した。
◇◇◇◇
「ガウデンツィオ国王、ようこそお越し下さいました。ジュスティーノ王国国王マクシミリアンです」
「突然の訪問で申し訳ない。私はガウデンツィオ国王ヴォルフガングだ。緊急事態の為、至急お互いの情報共有を行いたいのだがよろしいか?」
「はい。アレクセイもレティシアも私にとって血の繋がった親族です。国を挙げて力を尽したいと思っています」
「お兄様」
「スカーレット、フランツ、レティシア…、よく来たな」
久しぶりに見た伯父様は、目にクマが出来ていて疲れが滲み出ていた。
やっぱり、私の事で迷惑をかけているのだろうか・・・。
居たたまれなくて俯くと、頭に大きな手が乗って優しく撫でられた。
「こら、その顔は何か余計な事を考えているな?お前は何も悪くないだろう。俯かず、前を向いて堂々としていればいい」
「伯父様…」
「大丈夫だ。何も心配するな。早くお前の子供を助けにいこう」
「…はいっ。ありがとうございます」
◇◇◇◇
その後、ザガンや商会にいた諜報部隊、従兄弟の王太子や第2王子、王妃様も集まり、会議室でアレク救出の話し合いが行われた。
諜報部隊により、ザガンが新しく開発した追跡魔道具を使用したところ、ロジーナの魔力残滓をオレガリオの後宮と思われる場所で感知したとの報告があった。
ロジーナは魔王城で働いていた為、魔力登録を行っていた。だから残滓を追う事ができたのだ。
でもアレクセイは違う。客人扱いだから魔力登録はしていない。そもそもまだ2歳で魔力コントロールなんかできないから登録のしようがない。
登録できていれば、すぐ居場所がわかったかもしれないと思うと悔しくて唇を噛みしめてしまう。
嫌な予感が当たってしまった。
やっぱりアレクは王宮にいる。
オレガリオが関わっているかもしれないと聞いてから、アレクを攫えるほどの力がある者なんて王家か高位貴族しかいないもの。
アレクは私の髪色にルイスにそっくりな顔をしているから、すぐにルイスの子だってわかるわ。
もう既にバレているかもしれない───。
もし、あの性悪巫女にアレクを見られたらと思うと、体が震える。私を憎んでアレクに危害を加えられるかもしれない。
怖い───。
再び冷静さを失いそうになった時、魔王の声が聞こえた。
「レティシア、お前の魔力で魔鳥をオレガリオに飛ばせ。お前に似た魔力を探らせるんだ。散々練習したんだ。できるだろ」
「わ、わかった!やってみる!」
そうだ、私はガウデンツィオで魔法の練習もしていた。
アレクが危機に陥った時に守れるようになりたくて、ヴォルフに教えてもらって魔鳥の作り方や亜空間魔法、短距離での転移魔法を使えるようになった。
今の私ならアレクの魔力を探せるはず。
手のひらに鳥型に魔力を構築する。すると水色と青のグラデーションが綺麗な魔鳥が完成した。
そして仕上げに認識阻害魔法を重ねがけする。
王宮には王宮魔法士が結界を張っているから諜報活動のような真似は結界で弾かれる。
でも、それは結界を張った者より魔力が低い場合にのみ適用される。
王宮魔法士は国内トップ10に入る魔力量を誇るけど、私は神聖魔法以外は全属性の魔法を使える高魔力保持者なので、彼らに引けを取らない魔力量を持っている。
そしてガウデンツィオに来てヴォルフや四天王達に魔法の特訓をしてもらったから、私の魔力量は更に上がった。
ガウデンツィオでは大した事ないけど、オレガリオでなら負けないわ。
「お願い、アレクを見つけて」
窓を開けて魔鳥を放つ。
私の魔力量なら隣国のオレガリオまでちゃんと届くはずだわ。
早く見つかるよう祈りをささげる。
「さて、会議の続きをしてもいいだろうか」
ジュスティーノ国王マクシミリアンの声に一同頷く。
「皆も知っていると思うが、オレガリオからレティシアの国際指名手配の通達が周辺諸国に渡った。そしてこのジュスティーノには更に二つの書簡が届いている。一つはオレガリオ国王から正式な書簡と、もう一つは王妃からの極秘での密書だ」
王妃から極秘での密書───?
訝しんでいると、伯父様の隣に座っている従兄弟の王太子が2つの書簡を読み上げた。
オレガリオ国王の書簡には皆の表情が歪んだが、王妃の書簡には目を見開いて驚いていた。
それもそのはず。
王の書簡には、食糧支援について勝手に期限を設け、期限が過ぎれば関税をかけるなど暴挙であり、侮辱していると訴え、取り下げなければ開戦するという脅迫状だった。
そして王妃の方は、国王の乱心による開戦を避ける為、国王を退位させ、王太子のルイスを新国王として即位させたいので協力してほしいという嘆願だった。
オレガリオで今、内乱が始まろうとしていたのだ。
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