決意 side ルイス
「そういえば貴方、自分の影を使ってユリカの身辺を探っているみたいね」
「・・・・・・僕はまだ、ユリカが何らかの術を使って僕らを洗脳していると思っています。修行中も監視させ、全ての者を洗脳できるわけではないとわかりました。何らかの条件があるはず。サイモンは完全に手遅れですが、エバンス達は僕が忠告した後、少し改善が見られました」
「まだ条件はわかっていないの?」
「はい。彼らにも魔力残滓や麻薬などの類は見られませんでした。ただ、僕が洗脳される条件は分かったので今調べさせています」
「条件は何だったの?」
「香水です。今薬師に成分を調べさせています。それに禁止薬物が入っていればそれを理由に捕らえようと思っていたのですが・・・、父上は今すぐ巫女と婚姻して子を成せと。それから・・・───父上はジュスティーノ王国を落とすつもりでいます」
「・・・ええ、知っているわ。───だからルイス・・・貴方覚悟を決めなさい」
「覚悟・・・?」
母が真剣な眼差しでこちらを見つめる。
「貴方が国王になるのよ」
──────僕が?
「あの人はもうダメだわ。民の事を何も考えていない。国庫を軍事費につぎ込んで他を疎かにしてるせいで、民の生活は苦しくなるばかり。あの人何を言っても聞き入れないの。もう限界なのよ。国民が未だ巫女という幻想を抱いているから抑えられているだけで、本当はもういつ暴動が起きてもおかしくないの。巫女のせいで善良な貴族達は内政を離れて爵位を返上し、亡命した者達も多いわ。彼らは国を捨てたのよ。愚かな王家を見限ってね。こんなに貴族達が爵位返上してくる国なんて前代未聞よ」
母が自嘲しなから何かを思い出すように語る。
きっと僕らが修行の旅に出ている間にいろいろあったのだろう。母自身も、もう父を見限っているらしい。
「真に国を想っていた彼らは、見抜いていたの。国王のした事、巫女のした事、そしてアーレンス公爵家は何の罪も犯していないこと。それらを憂いて、国王の対応に呆れて、去ってしまったわ」
という事は、今父の周りには強欲な奴らしかいないということだ。
もう議会も機能してるとはいえない。
母のいう通り、誰かが一掃しなければならないというのなら、きっとそれは僕の役目なのだろう・・・。
まだ幼い弟の治世に憂いが残らないよう、僕が 新しい王家と議会を作り直さなければならない。
「───母上、僕は戦争を止めたい。今の国民は戦争には耐えられないでしょう。それからレティシアの指名手配も撤回させなければならない。その為に僕が国王になる事が必要だというなら引き受けましょう」
「分かったわ。ではジュスティーノに密書を送りましょう。王宮内の臣下達も私側についている者がいるわ。後はあの人を退位させる証拠固めをするだけ。巫女の対処については貴方に任せるわね」
「ありがとう、母上」
「───貴方には、辛い役を負わせる事になるわね・・・」
母が悲しそうな顔をして、震える手で僕の頬を撫でた。
「ごめんなさい」と謝る母に僕は頭を振る。
「・・・僕も、国に混乱を招いた元凶です。巫女に惑わされ、多くの臣下の信頼を失った。僕に出来る事はレティシアとこの子を守る事と、弟が安心して即位できる国になるよう、中継ぎとして力を尽くすだけです」
それが僕に唯一できる償いだから───。
「それからこの子の事だけど・・・私の離宮で面倒見るわ。巫女達には見せない方が良いと思うの」
そうだ。
ユリカに見られたら逆上して何をするかわからない。
レティシアに代わって、必ず僕がこの子を守る。
「ホント、貴方の小さい頃にそっくり。なんて名前なのかしらね。話すのが楽しみだわ」
「・・・そうですね」
ぷくぷくとした頬を撫でると、眉間にシワを寄せた後に寝返りをし、上にかけていたシーツを蹴飛ばした。
先程までベッドに対して縦に寝ていたのに、今は真横になって大の字で寝ている。
どうやら寝相が悪いらしい。
「ふふっ、可愛らしいわね」
「ええ、本当に・・・」
◇◇◇◇
「ふえっ、ははうえ・・・っ、ははうえ~っ、どこ~?」
子供の泣き声が聞こえる・・・。
何故?と考えを巡らせた所で、昨夜の記憶が一気に甦る。
勢いよく状態を起こし、ベッドの上の人物に目を向けると、「ひっ」と悲鳴をこぼして小さな子供がシーツにくるまった。
「ははうえ~・・・っ、うええええんっ、こあいよ~・・・っ」
震えながら泣く我が子に、僕はなるべく優しく聞こえる音量で語りかけた。
「大丈夫だ。もうここには怖い人はいない。僕が守ってあげるから、レティシアが迎えに来るまで一緒にここで待っていよう」
「ははうえ?・・・ははうえ、おむかえ来る?」
「ああ、来るよ。もうすぐレティシアに会えるよ。だからそれまで僕と一緒に待っていよう。僕の名前はルイス。君の名前は?」
「──────アレクしぇい」
「・・・アレクしぇい?・・・ああ、アレクセイっていうのかな?」
こくんと頷く小さな頭が可愛らしくて、愛しさが込み上げる。
「アレクセイ、お腹空いただろう?朝ご飯を一緒に食べよう。ほら、おいで」
「・・・・・・・・・」
僕が両手を広げて待っていると、おずおずとシーツから這い出て、警戒しながら僕に近づく。
アレクセイは僕の顔を見て少し驚いていた。
きっと自分と似ている事に気付いたのだろう。
確信はしているけど、まだレティシアに確かめてもいないうちに勝手に父親を名乗るわけにはいかないから、その時まで待とう。
不安がっているアレクセイを抱き上げて、その小さな体を抱きしめる。
安心してもらえるように、背中をトントンと軽く叩いた。
「大丈夫だ、僕は君の味方だよ」
そう言って頭を撫でると、「ふええ~ん」と泣き声を上げながら僕の首にしがみついた。
ああ・・・、可愛いな。
レティシア。
この子を産んでくれてありがとう。
嬉しくて、幸せで、申し訳なくて、
涙が出た。
誰にも手出しはさせない。
レティシアも、この子も、
絶対に死なせない。
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