父と子の対面
「フランツ様は、魔族や獣人が攫われ、人身売買や魔道具の実験台とされている話をご存知ですか?」
魔王の執務室にて、魔王、アドラメレク、フランツの3人が向き合っている。
「私に聞くということは、オレガリオ王国が絡んでいるということですか?」
「察しがよくて助かります。我々と獣人族の王は、以前から民達が行方不明になるという事件を抱えていた。調査するうちに、人身売買と魔道具の実験台として送られているという情報を掴みました。ですが決定的な証拠をつかめていないし、オレガリオを調べても同胞の魔力残滓が見つからない」
「それがオレガリオで開発されている魔道具に関係していると?」
「我々はそう考えています。通常、魔族や獣人は赤子か幼児でもない限り、身体能力の低い人間族に捕まる様な種族ではない。ですが、その魔族や獣人を実験台に魔道具を開発すれば、可能になる事もあり得るのではと」
フランツは険しい顔をして考え込んでいる。
「一つ確認ですが、貴方達アーレンス一族は関わってませんよね?」
アドラメレクが凝視するとフランツは顔面蒼白になり、必死に首を横に振って身の潔白を訴えた。
「し、知りませんよ私達は!!元より私達アーレンス公爵家は陛下に嫌われておりましたから、内政にはほとんど関わっていないのです。レティシアと王太子の婚約も、ジュスティーノとの繋がりを強化して食料支援を引きだす為に結ばれた婚約で、私達はずっと苦渋を飲まされてきましたから…」
「俺は今回のアレク誘拐もオレガリオが関わっていると思っている。レティシアの国際指名手配といい、偶然にしては出来過ぎている。貴方はオレガリオで人身売買や魔道具の実験に関わっていそうな人間に心当たりはないか?」
魔王に質問されてしばらく考え込んだフランツは、不意に何か思いついたように口を開いた。
「そういえば、陛下が愛妾を迎えられてから傲慢な態度が目立つようになり、内政が乱れたと貴族達が話していたのを聞いた事があります。当時は王妃派と対立しての事だと思われていましたが、国庫が軍事費に大幅に使われるようになったのもその頃からだったように思います。軍事費の主な内容は魔道具の開発費用でした」
「その愛妾は貴族か?」
「いえ…、それが平民の踊り子だったようで…、市井の視察に行った時に陛下が見初めたと聞いております。あまりに貴族マナーがなっていないので王宮では評判が悪いらしく、陛下は愛妾を守る為に後宮を作ったとか…」
「怪しいですねその愛妾…。それとも、国王が愚かなだけか・・・」
「愚王なのは事実ですね」
フランツがしれっと国王を侮辱する発言をしたので、よっぽど嫌いなんだろうと2人は苦笑する。
「それから、今議会にいるのは自分の私腹を肥やす事しか考えない貴族達ばかりなので、悪事に手を染めるとしたら全員怪しいですね。国を想う善良な貴族達は、神の巫女の振る舞いに疑問を呈して不敬だと言われ、ほとんど罰せられましたので」
「何ですかそれ。本当に愚王ですね」
アドラは信じられないとばかりに目を見開く。
「つまり、王家が悪事を働いても諌める者はいないという事だな?」
「そうです。私はこれからジュスティーノに向かい、亡命した貴族達や国王と話し合い、アレク救出の助力を願うつもりです。オレガリオ王家はもう救いようがない。少なくとも私はあの愚王と巫女を潰すつもりでいます」
フランツはもう我慢ならなかった。
胡散臭い神のお告げを鵜呑みにして無実の娘を指名手配された事で、国王と巫女に対して殺意が芽生えるほどの怒りに震えた。
妻も既に臨戦態勢に入っており、オレガリオ王家を潰すつもりでいる。
もしアレク誘拐を手引きしたのが王家なら、その場で息の根を止める事も辞さない覚悟を決めた。
「俺とザガンも一緒に行く。ジュスティーノ国王に面会したいから都合をつけてくれ。既にジュスティーノにいる諜報部隊には知らせを送っているから情報を集めていることだろう。アレクが攫われて数時間経っている。これ以上時間は掛けられない。皆でジュスティーノに転移するぞ」
「魔王様・・・っ、ありがとうございます!すぐに妻達にも知らせて来ます!」
部屋を出ていくフランツを眺めた後、アドラメレクはヴォルフガングに報告する。
「先程ネルガルから取り急ぎ報告がありました。エマの一族の配偶者の中に間者が数名いたようです。現在更なる取り調べで他に仲間がいないか自白させています」
「そうか・・・。やはりあの時主犯を処刑しただけじゃ甘かったな。連座で全て排除すべきだった」
ヴォルフガングの今までにない怒りにアドラメレクが少したじろぐ。
「あの者達は来ると思いますか?」
「わからん。だが可能性は高いな」
「獣人国や軍事同盟国には緊急で魔鳥を飛ばして知らせました。獣人国に関しては直ぐに協力体制を取ってくれるそうです。他の国も軍事介入に関して現在会議中で結論が出るまで保留となっていますが、情報収集はすぐにしてくれるとの事です」
「そうか。では作戦通りに進めろ。民の安全が最優先だ」
「御意。───でも、まさか以前レティシア嬢が言っていたゲームのシナリオとやらが本当に起こるかもしれないなんて・・・、未だ不思議でなりません」
「それを阻止する為にこちらも魔道具の開発をしてたんだ。シナリオ通りにはいかない」
「そうですね」
◇◇◇◇
同日、深夜。
「来たわね、ルイス」
「母上・・・この子は・・・?」
泣き疲れたのか、目元を赤くして眠る小さな子供を見て、ルイスは驚愕する。
「私もよく分からないのよ。さっき突然陛下がこの子を連れて来て、面倒みろと言われたの。でも・・・この子の顔を見てびっくりしたわ」
震える手を伸ばし、その柔らかな髪に触れると、堪えきれずに涙が溢れ出た。
「レティシア・・・っ」
愛する女の髪色をした、自分に瓜二つの小さな子供。
もみじのような小さな手をそっと握ると、今初めて会ったというのに愛しさが胸に広がる。
「僕とレティシアの子だ・・・っ」
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