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設定崩壊が止まらない男②




皆さんこんばんは。レティシアです。



そして前世の世界のヴォルフガングファンの皆様、ご愁傷様です。


もうこの世界に、クールでヤンデレ&俺様な魔王は存在しません。消滅してしまったようです。



目の前の男、転生御曹司の手によって・・・。




そして驚く事なかれ。


実は彼も私と同じ元オタクだったようです。




御曹司でオタク・・・これはこれで、別の乙女ゲームに出てきそうなキャラだよね。




そんな魔王ですが、


今何をしているかというと、






鬼の形相で漫画の原稿を描いております!




『魔王様!!どこで油売ってたんですか!もう明日の朝までに仕上げて刷らないと発売日に間に合いませんよ!!』


「わかってるよ!ちょっとイレギュラーが発生して血がブシャー!ってなって大変だったんだよ!今仕上げてる所だから魔鳥飛ばしてこないでくれ!」


『絶対納期守って下さいよ!』




ブツん。という音と共に映像が途切れ、魔王の唸り声と原稿を仕上げる音が部屋に響いている。



「・・・・・・・・・」






私はここでようやく正気に戻って現状を把握した。



転移魔法で連れ去られ、たどり着いた先は汚部屋と呼ぶに相応しい作業部屋だった。


場所的にはまだ迷いの森の中らしく、ここは彼が1人になりたい時に訪れる隠れ家らしい。



そしてさっきの魔鳥が映し出していた映像に映っていた男。上半身しか映っていなかったから一見人型の上位魔族に見えるけど、ゲームファンだった私は知っている。


彼は魔王軍四天王の1人、槍使いの戦士ケンタウロスだ。



めっちゃ強くてカッコいいのよ!四天王を主役にした二次創作もいっぱい生まれたくらい魔王軍のファンは多かったのだ。




なのに!!


この転生御曹司のせいで美丈夫のケンタウロスが!!





青ジャージ着てたよ!!




しかも漫画家の編集者みたいなのやってたよね・・・?


青ジャージ着て漫画家の魔王を追い込んでいるケンタウロスを見て、ショックで床に膝をついた私はファンとして当然だと思うんだ。




「戦士のケンタウロスが・・・っ」





おのれ御曹司!!


どこまで乙女の夢の世界を壊す気だ!!



魔族の国は一体どうなっている?

得体が知れなくて聞くのが怖くなってきた──。




「クッソ!何で僕はコイツを黒髪にしてしまったんだ!ツヤベタ面倒くさい!!トーン髪にしてしまったコイツも面倒くさい!!いっそ全員白髪かハゲにしてしまえば原稿早く仕上げられるのに!」




登場人物が全員ハゲの漫画なんて誰が読みたいんだよ。




「ああ、レティシアごめんね!ちょっと僕仕事で今忙しいから適当に休んでて!」


「・・・・・・・・・休めるスペースなど無いのだけど・・・」





とりあえず、この原稿用紙で溢れ返った汚部屋を何とかするしか無いだろう。


私は風属性の魔法を使って散らばった紙を浮かせてまとめていく。




「ていうか、この世界によく漫画を描く画材があったわね。まさかこれも魔王軍が作ったとか・・・?」



ケンタウロスが編集者やってるくらいなのだ。きっと他の四天王メンバーもこの転生御曹司に振り回されてキャラ崩壊を起こしてるに違いない。



そして、悲しいかな。



前世の私の推しキャラは、実はヴォルフガングだったのよ!作画担当も魔王軍好きで、私達は魔王軍の二次創作を描いていたのよ。




でも私が推してたのは目の前にいるコイツじゃない!


こんなあずき色ジャージ着て、原稿にペン入れしながら血走った目で「お前ら全員禿げろっ」と自分で作ったキャラに八つ当たりしてるヴォルフじゃないのよ!



乙女ゲームクラッシャーのせいで推しキャラが崩壊していく。その悲しみを想像して欲しい。




推しキャラの皮を被った小悪魔め・・・っ。




そんな事を悶々と考えながら部屋を片付け、あらかた原稿用紙がまとめ終わった所で「グ~」とお腹が鳴ってしまった。


そう言えば、逃げるのに必死で朝食を食べたきり何も口にしていなかった。恥ずかしくてお腹を押さえた所で魔王と目が合う。



「ふふっ、お腹空いた?キッチンに果物とか野菜とか食料あるから自由に食べていいよ。本当ならおもてなしするべきなんだろうけど、今はこの通り手が離せなくてごめんねっ」


「いいえ、こちらこそありがとう。じゃあお言葉に甘えるわね」




そう言って私はキッチンに入った。


予想とは裏腹にキッチンは割と綺麗さを保っている。作業場だけ汚部屋と化しているのかしら?



スパイスなども揃ってるし、材料を確認して簡単な物を作ることにした。


レティシアは料理の経験はないけれど、貧乏家庭生まれな前世の方の私は自炊など朝飯前だ。



硬くなったパンと、今朝狩ったのかウサギの卸した肉があったので、即席のパン粉を作って香草焼きにした。


残ったパンはフライパンで焼いてガーリックトーストにして皿に盛る。




「さて、一飯のご恩で持っていきますか」




2人分をトレイに乗せて作業場に戻ると、匂いに釣られた魔王が作業の手を止めてこちらに目を向けた。



「すごい良い匂いする!レティシアが作ったの?」


「ええ。食事を提供してくれたからお礼に貴方のも作ったわ。空腹だとイライラして仕事が捗らないわよ。効率上げる為にも食べた方がいいわ」



「ありがとう!───あれ?なんか部屋も綺麗になってる!」


「座るスペースないから紙はサイドチェストの上にまとめておいたわ。順番とか揃えてないけど・・・」


「いいよ。全部ボツになったゴミだから」




じゃあ捨てなさいよ!

だから汚部屋になるんでしょうが!




でもお腹空いてツっコむ気力もないので私達は食事を始めた。


美味しい美味しいと推しキャラが喜んで食べる姿に、うっかり眼福を得てしまったのがダメだったのかもしれない。


この時私は選択を間違えたのだ。



お腹が満たされたらすぐに国境を越えたいと魔王にお願いしていれば、転移魔法で今頃は宿でゆっくりしていたかもしれないのに。


お腹の子の安全を考えて穏やかな暮らしを得る為にも、そうするべきだったのに。





オタクの仏心を出してしまったばかりに、


私は魔王に完全に捕まる事になった。

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