表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/109

封じ込めた想い① side 御曹司




「…アレクを…アレクを返して…っ」




レティシアの悲痛な声が聞こえて、胸が締め付けられる。



「魔王…頼むよ!!レティシアを助けて!!」




僕にはどうやって助けたらいいかわからない。

だから魔王に頼むしかない。




早く助けないと、レティシアを失ってしまう気がする。




レティシアがいなくなると想像しただけで目の前が真っ暗になった。



嫌だ…レティシアを失いたくない。


大事な人なんだ。






レティシアと出会って、僕は初めて前世の自分を認められた。



レティシアが僕の描いた絵を褒めてくれて、一緒に漫画を描くのを手伝ってくれて、好きな漫画やゲームの雑談をしたりして、まるで日本に戻ったようですごく楽しかった。



レティシアと合同で新作を出した時も、僕とは違う話の作り方やストーリー展開が勉強になったし、何より、蔑まれずにオタクの話を出来るのが嬉しかった。



綺麗でスタイルも良くて、高貴なお嬢様かお姫様でもおかしくない外見なのに、全然気取ってなくて、オタクで、口が悪くて、面倒見が良くて、どんな話でも聞いてくれる。



アレクといる時は「ウチの息子が天使!!萌える!!」と親バカ全開で叫んだり、子供と遊んで元気に笑っている姿はとても眩しくて、可愛くて、



僕はいつのまにか、レティシアが好きになっていた。




前世でも出会いたかったと思うくらい、


好きなんだ───。








◇◇◇◇




僕の中にある前世の記憶は、真っ黒な闇に飲まれたような、とても重たいものだった。



前世の僕の家は、国内にいくつもホテルや商業施設を経営している大企業で、僕はその社長の長男だった。


ところどころ記憶が抜けているけど、両親の間に愛はなくて、父には愛人がいた。


そして僕には、腹違いの弟がいたんだ。



年が1歳しか違わなければ当然周りから比べられる。

愛人に対抗意識を燃やした母は、僕を厳しく躾けた。



『あの女の息子に負ける事は許しません!』



と言って何度も殴られた記憶がある。


勉強も、確か100点以外はボロクソに怒られていた。



『貴方は正妻の子なの。大企業の跡取りなのよ。だから優秀でなくてはならない。遊んでる暇があるなら勉強しなさい』



いつも言われていた言葉。


そのプレッシャーにいつも押しつぶされそうだった。


会った事もない弟の影にいつも縛られて、ウンザリしていた。




そんな気が狂いそうな日々の中、唯一の癒しが漫画やゲームだった。


漫画に影響されて絵を描くのも好きになった。



大学に入ってからは幼馴染達とサークルを作って、二次創作を描いてコミケにも参加した。



ほとんど僕が描いて、幼馴染達は仕上げを手伝ってもらうくらいだったけど、友達と一緒に趣味に没頭していられる時だけが、自分でいられる時間だったんだ。





なのに───、




ある日、聞いてしまったんだ。

僕が近くにいるのを知らずに話していた彼らの会話を。






『アイツ、マジかったるくない?オタクで話がマニアック過ぎて最近ついていけねーよ』


『ホントだよな~。あんなオタク、親の命令じゃなきゃ友達になんかなんねーよ。昔から根暗だったしな』


『俺はむしろ恨んでるよ。子供の頃からアイツと交流する事を親に強要されて、他に趣味の合う友達と遊ぶのを許されなかった』


『しょうがねぇよ。俺らの親はアイツの親父の部下なんだから。逆らったら一家全員が路頭に迷うだろ。大学卒業したらエリートコースに乗れるんだと思って耐えるしかねえじゃん。オタクでもなんでも、アイツが社長になるのは確実なんだからよ』


『まあな・・・。子供時代を全部アイツに捧げたんだ。役員にしてもらわなきゃ割に合わねえ』







今でも、思い出す度に心臓をギュッと掴まれたような痛みが生じる。



僕には、友達なんていなかった。



いつも一緒にいた彼らは、親に命令されて僕につきあっていただけだったんだ。



本当は嫌われていたのに、


全然気づいていなかった。





僕はその後、部屋から出られなくなり、誰も信じられなくなった。



その後はあんまり覚えていないけど、家の中も敵だらけで、ひたすら漫画描いて現実逃避してたんだと思う。




最後の記憶は、僕の唯一だった趣味の全てを母に捨てられ、



『アンタみたいな出来損ない産むんじゃなかった!今までの私の人生返せ!!』



そう言って泣き叫び、僕を叩く母の歪んだ顔。








僕の前世の記憶はそこまで。


正直、こんな記憶なくて良かった。



でも日本の記憶が無かったら、今の僕はいない。






『お前は今からガウデンツィオの民だ。俺とガウデンツィオの為に働け』



僕の記憶を見た魔王が、僕の日本の知識を使って魔王の仕事をやれと無茶振りしてきたのはびっくりしたけど、今では感謝してる。



魔王の中にいるからわかるんだ。




彼の力があれば、僕なんか簡単に消せるって。

でも魔王は僕を消さずに、受け入れてくれた。


僕の捨てられた漫画を、また描けるようにしてくれた。



それを楽しそうに読んでくれる魔族の民達を見て、泣いてしまったのは仕方ないと思うんだ。




ファンタジーの世界では魔王はいつも悪役だけど、この世界の魔王は優しい奴だと思う。


ただ周りはほとんど気づいてなかったけどね。



気づいてたのは多分、アドラだけ。







魔王も、僕と同じで孤独だった。


その原因を僕が見ることはできないけれど、なんとなく、僕と同じ匂いがしたんだ。




だから僕を受け入れてくれたのかな。

面白いと思っていただけたら評価&ブックマークをいただけると励みになります(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ