魔力暴走
アレクが…どこにもいない?
「どういうことなの!!」
私はエマの両腕を掴み、激しく揺さぶる。
「すみません…っ、ロジーナにアレクセイ様をお願いして、おやつを用意しに部屋を出たんです。それで戻ってきたら、ロジーナも‥‥アレクセイ様もいなくて…っ、扉の前に居た護衛の方に聞いても部屋から誰も出入りしてないと言われて…っ、そ…それで…ううぅ~…っ」
説明するうちにエマが泣き出してしまい、嗚咽でそれ以上言葉を続けられなくなった。
後ろにいた護衛達に視線を向けると彼らが頷く。
「我々も他の者達に声をかけ、部屋の中や周辺をくまなく探しましたが、バルコニーから出た様子も、魔力残滓も感じられず、もちろん扉からの出入りもエマ以外誰もいませんでした。本当にロジーナとアレクセイ様だけ忽然と姿を消してしまったのです」
「そんな…っ!!」
「レティシア!」
私は魔王の静止も聞かずに子供部屋に向かった。
アレクが…、
アレクがいなくなった!!
怖い…っ、イヤだ…っ、私からアレクを取り上げないで!!
「アレク!!」
勢いよく扉を開け、アレクの姿を探すが、部屋の中には誰もいない。
先程まで遊んでいたのだろう積み木が、組み立てたまま放置されていた。
「嫌…っ、アレク…っ、イヤよ!!いやああああああ!!」
自分の体から溢れ出る衝撃でバリン!!と部屋の窓ガラスが全部吹き飛んだ。
体内で魔力が暴れ、血液がものすごい速さで全身を駆け巡り、動悸が激しくて眩暈がする。
息が過呼吸気味になり、苦しい…っ
私の魔力が暴走して、子供部屋の家具が投げ飛ばされ、どんどん無残な部屋になっていく。
「「レティシア!!」」
両親の声が遠くに聞こえる。でも全然体が言う事聞かない。
悲しい…っ
辛い…っ
どこにいるのアレク…っ
「アレク…っ、アレクはどこ!!」
私の感情の乱れによって更に魔力が暴走し、先程よりも強い衝撃波が放たれ、壁にも亀裂が走る。
苦しくて、悲しくて、自分でも制御できなくなっていた。
「落ちついてレティシア!!魔力が枯渇したら貴女が死んでしまうわ!!」
「レティシア!!アレクを探すんだろう!?お前がここでへばってどうする!!」
遠くに両親の声が聞こえるけど、過呼吸が苦しくて私はその場に膝をついた。眩暈がして頭が酷く痛む。
「…アレクを…アレクを返して…っ」
全身の力が抜けて、目の前が暗くなりかけたその時、
私の体を大きな何かが包んだ。
顎を掴まれ、そのまま上を向かされる。
涙でぐちゃぐちゃになった視界にぼんやり見えるのは、魔王と思しきシルエットで、そのボヤけたシルエットがそのまま近づき、
私の唇を塞いだ。
ひんやりとした魔力が口内から流れてくる。
体内で暴れまわっていた私の魔力に沿うように、細く、細かく練られた魔力が全身に行き届き、燃え上がるような体の熱が冷めていく。
呼吸もだんだんと落ち着き、その魔力の心地よさに、私の視界は黒く染まった。
◇◇◇◇
「ん・・・」
再び重たい瞼を開けると、まだ霞む視界に自室の天井が映った。
倦怠感が酷く、手足が動かしづらい。
魔力回路がまだ熱を持っている。
「レティシア」
「・・・お母様」
母の顔を認識した途端に、また涙が出てきた。
アレクがいない。
いつも感じられた自分とルイスに似た魔力の存在を、どこにも感じられない。
「もう───死にたい」
「何を言っているの!」
「だってあの子がどこにもいないの・・・。私の命より大事なアレクが・・・私の・・・生きる希望だったのに・・・」
「今、魔王軍やフランツが総力をあげて調べているわ。大丈夫。きっとアレクは見つかる。だから貴女も早く魔力を回復させて、自分でさっさと治癒魔法かけなさい。そして早くアレクを探しに行くの!」
「・・・お・・・母様・・・っ」
「死にたいなんて二度と言うんじゃないわよ!アレクが泣くでしょう!あの子はまだ生きてる!絶対に!」
再び視界が涙でぐちゃぐちゃになった。
腫れた瞼が更に腫れてしまうから、もう泣きたくないのに、アレクがいないだけで私はこんなに弱い。
「貴女が死んだら私も生きていけないわ・・・っ、貴女も私とフランツの子供なのよ?」
───と、母は弱々しい声で私の手に額を乗せ、泣き縋った。
・・・母を傷つけた。
なんて事を言ってしまったんだろう。
自己嫌悪でまた消えたくなる。
「ごめんなさいお母様・・・っ、ごめんなさい・・・」
母に許しを乞うた時、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ!」
母が私の代わりに声をかけると、お父様と魔王、アドラとエマが中に入ってきた。
「レティシア!目覚めたのか!」
父がこちらに駆け寄り、涙目になりながら私の頭を撫でる。
「よかった、無事で・・・っ、あんな大きな魔力暴走を起こして・・・お前を失うんじゃないかと怖くて仕方なかった・・・っ」
「お父様・・・ごめんなさい・・・っ」
父まで傷つけていた事に、胸が締め付けられる。
父の言葉で気づいた。
あんな魔力暴走を起こしたのは、まだ魔力が安定しない子供の時以来だ。でもあの頃の魔力量と今とでは桁が全然違う。
私は転生チートなのか、国ではトップクラスの高魔力保持者なのだ。
だからあの規模の魔力暴走は本当に死に直結する。
魔力が枯渇、あるいは魔力回路が焼き切れていたら私は間違いなく死んでた。
でも───、
魔王と目が合う。
そしてまた、胸が酷く締め付けられた。
目が合ったヴォルフガングは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
それを見ただけで、彼も私を心配してくれていたのがわかる。
また彼に助けられたのだ。彼が魔力制御してくれていなければ、私は今生きていないと思う。
「助けてくれてありがとう、ヴォルフガング」
お礼を言ったら、
ヴォルフガングの表情は、更に泣きそうになっていた。
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